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『俺を嵌めた相棒が、異世界で敵国の宰相になっていた ─ 戦略コンサルタント、銀貨五枚で王国を買う』  作者: MU
【第三部】【最終章】千年の書き直し、新しい千年の始まり
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128/130

千年の歪みの完全な書き直し、民への公開

 夏萌月の十七日目、午前九時。

 ヴェルデン皇宮の正面玄関の広場。

 地下深部から、稜と神崎が、ヴィスカルトの私設警備隊の五名と共に、皇宮の地上に戻ってきた。

 稜は、革の手帳を脇に抱えていた。──手帳の中の玄一郎先生の写真立ては、神器の青白い光を受けた後で新しい温かさを宿していた。──そして手帳の最初の頁の裏にもう一枚新しい紙が密かに加わっていた。──しかし稜自身もまだその紙の中身を確認していなかった。

 皇宮の正面玄関の広場の上では、結婚の儀の歓声が、徐々に静まりつつあった。──ヴィスカルト皇帝とセレネ女王はまだ壇上に立っていた。──そして広場の五万人の民が、初めての歓声の後、徐々に深い静けさに戻りつつあった。

 稜と神崎は、皇宮の正面玄関の階段をゆっくりと上った。

 そして二人は、結婚の儀の壇上の隣の新しい壇に立った。──ヴィスカルトとセレネが、二人を深く頷きで迎えた。

 「師、神崎閣下」

 セレネの声は、静かだった。

 「──地下深部のご成就、お疲れ様でした」

 稜はわずかに一礼した。

 「殿下。──そして本日の結婚の儀の壇上のご成就、深く感謝申し上げます」

 セレネは静かに頷いた。──そして、五万人の民の方向をもう一度見つめた。

 (──民の前で、千年の本当の姿をこれから共有する瞬間が来ました)

 セレネは深く息を整えた。

            ─── ─── ───

 マテウス院長が、四人の前で、再び壇上に上がった。──結婚の儀の主祭司の役目を終えた後新しい役目をこれから担うことになっていた。──千年の真相の、民への公開の最初の声。

 「皆様」

 マテウスの声は深くしかし広場の隅々まで届いた。──七十年代の老修道院長の声。──五十年の沈黙の後の、最も重い役目の声。

 「──本日のヴィスカルト皇帝陛下とセレネ女王陛下のご結婚の儀は、ただのご結婚ではありません。──二百年の両国の歴史で初めての、皇帝と女王の同等の立場でのご結婚であり、そして──」

 マテウスは深く息を整えた。

 「──千年の大陸の歪みの、書き直しの最初の段階の宣言です」

 広場の五万人の民が、深く沈黙した。──「千年の大陸の歪み」。──民にとって、初めて聞く言葉。──しかし民の中には、何か直感的な反応が、徐々に生まれつつあった。──二百年の自分たちの生き方の中に、何か根本的な歪みがあったのではないか、という直感。

 マテウスは続けた。

 「──そして本日両国の七つの都市の中央広場で、同じ瞬間に、千年の真相の最初の公開が始まっております。──ヴェルデンの広場、アウリオン王宮の前広場、霧峰の古戦場、ヴェロニア、サルマティア、ロンディオ、ハイリエン。──各都市で、それぞれの代表者が立っております。──アウリオンはレオン陛下、ヴェロニアはアルデス公、霧峰はカイル殿、ハイリエンはヴィルヘルム・トレスト殿、サルマティアとロンディオは両国の改革派の議員」

 民の中から、わずかなざわめきが起きた。──七都市同時。──二百年の歴史で、初めての規模。

 マテウスは静かに頷いた。

 「──千年の物語の詳細をこれから稜殿と神崎閣下のお二人が、皆様にお伝えいたします」

 マテウスは、稜と神崎に深く一礼した。──そして壇上から、ゆっくりと降りた。

 稜と神崎が、壇上の中央に進んだ。

 そして稜が静かに口を開いた。

            ─── ─── ───

 「皆様」

 稜の声は深く強かった。──しかし広場の隅々まで届いた。──二年半前、契約更新日の朝にアウリオン王宮の月の庭で神崎と再会して以来、稜が公的な場で最も多くの民の前に立つ朝。

 「──私は、稜と申します。──アウレリア王国の参謀。──そして私の隣に立つ男は、神崎玲。──ハーゲン帝国の元宰相であり、現在は私と共に参謀として並ぶ者です」

 稜は深く息を整えた。

 「──本日皆様にお伝えしたいのは、千年前から続いてきた、大陸の歪みの全貌です」

 稜は、革の手帳をわずかに胸の前に持ち上げた。──広場の五万人の民の目が、稜の手帳に、徐々に集中した。

 「──千年前、トルメアスという哲学者が、大陸の歪みを設計いたしました。──そしてその設計をハーゲン帝国の初代皇帝の祖となるアドレアン王が、計画として実装いたしました。──西の島国アウレリアの資源を東の大陸ハーゲンに集中させる流れ。──そしてその流れの上で、両国の関係の不平等が、千年単位で固定されました」

 稜は深く息を吐いた。

 「──しかし千年前の同じ時代にもう一つの予言が、密かに残されました。──アドレアン王の盟友、ザラフ。──そしてヴァランディン家の継承者、アンナ。──二人が、千年後の二人の異邦人による、千年の歪みの書き直しを予言いたしました」

 民の中から、深いざわめきが起きた。──「千年後の二人の異邦人」。──しかし民の中には徐々にその意味への直感が生まれつつあった。

 稜は深く頷いた。

 「──皆様。──私と神崎が、千年前のアンナの予言の二人の異邦人です」

 広場の五万人の民が、瞬時に深く沈黙した。──二百年の歴史の中で、最も深い沈黙の数秒間。

 そして稜は静かに続けた。

 「──二年半前、私と神崎は、別の世界から、この大陸に到来いたしました。──そして二年半の間、私たちは千年前のアンナの予言の意味を徐々に理解してまいりました。──そして本日結婚の儀の刹那、千年前の予言の最初の段階をここで成就いたしました」

            ─── ─── ───

 広場の五万人の民の間に深い動揺が広がっていた。──しかしその動揺は、敵意ではなかった。──むしろ千年の歪みの中で生きてきた自分たちの存在の意味を初めて理解する人々の深い動揺だった。

 稜は続けた。

 「──皆様。──千年の歪みの書き直しは、本日の結婚の儀の刹那で完成するものではありません。──これから、皆様の代と、皆様のご子孫の代を通じて、徐々に進んでいきます」

 稜は深く息を整えた。

 「──私と神崎は本日この場で、千年の歪みの書き直しの最初の段階を宣言いたします。──しかし書き直しの実際の進行は、皆様お一人お一人の、日々の小さな選択の積み重ねの中で、徐々に進んでいきます」

 稜の声は、静かだった。──しかし最も深い場所からの声だった。

 「──二百年の両国の不平等な関係。──関税の差。──通貨の交換の慣習。──輸送ルートの独占権。──これら全てが、徐々に書き直されていきます。──しかしその書き直しは、皆様の生計を奪うものではありません。──皆様の労働の意味を新しい形で再生する過程です」

 稜は、神崎の方を見た。──神崎がわずかに頷いた。

 そして神崎が静かに口を開いた。

 「皆様」

 神崎の声は、稜の声と並んで、広場の隅々まで届いた。

 「──私、神崎玲。──過去二十年、ハーゲン帝国の宰相として、千年の歪みの維持の中心の一人として、立ってまいりました。──そして私自身も、千年の歪みの被害者であり、同時に維持者でもありました」

 広場の民の中から、再びざわめきが起きた。──「宰相が維持者」。──二百年の常識への、根本的な挑戦。

 神崎は続けた。

 「──しかし二年半前、私は稜と再会いたしました。──そして私は、自分の二十年の宰相職の意味を根本から書き直す決意を固めました。──過去二年半、私は宰相としてではなく、稜の隣に並ぶ参謀として、千年の歪みの書き直しに、取り組んでまいりました」

 神崎は深く息を整えた。

 「──皆様。──私の二十年の宰相職の中で、私は皆様の生活に深い影響を与えてまいりました。──その中には、皆様にとって不利益な決定も、含まれておりました。──私は、その全てをこれから皆様の前で、徐々に明らかにしてまいります」

 神崎は深く頭を下げた。──そして長く頭を下げ続けた。

 広場の五万人の民が、深く沈黙した。──二百年の宰相職の中央の人物が、初めて民の前で、深く頭を下げる瞬間。──二百年の歴史で、初めての光景。

            ─── ─── ───

 しばらくの後、神崎は顔を上げた。

 そしてヴィスカルト皇帝とセレネ女王が、四人の中央に立った。

 「皆様」

 ヴィスカルト皇帝の声は、深かった。

 「──そして私、ヴィスカルト・フォン・ハーゲン皇帝。──本日ハーゲン帝国の千年の歪みの維持の頂点の家系として、初めて民の皆様の前で立ちます。──私の家系の千年の重みを私はここで深く受け止めます」

 ヴィスカルトは続けた。

 「──ハーゲン皇室の千年の罪を私は徐々に明らかにしてまいります。──父フリードリヒ二世皇帝のご逝去、五年前。──そして祖父ヴィルヘルム皇帝の代から、皇室の千年の歪みの維持の中心の一つとして、立ち続けてまいりました」

 「──しかし私は本日皇帝として、千年の歪みの書き直しの新しい中心として、立ちます。──私の皇室の千年の重みを新しい形で、皆様と共に変えてまいります」

 ヴィスカルトは深く頭を下げた。

 そしてセレネ女王が、続いた。

 「皆様」

 セレネの声は、静かで、しかし強かった。──十七歳の若い女王。──しかし広場の隅々まで届く声。

 「──私、セレネ・アウレリア女王。──本日アウレリア王国の千年の被害の側として、初めて民の皆様の前で立ちます。──しかし私は、被害者として立つのではありません。──新しい時代の女王として、立ちます」

 セレネは深く頷いた。

 「──二百年の属国の関係の表面の不平等は、二ヶ月半前に終わりました。──そして本日千年の歪みの書き直しの最初の段階が、ここで宣言されました。──新しい時代のアウレリア王国は、ハーゲン帝国と、対等な立場で、共に歩みます」

 「──私と兄レオン陛下とのご共同の王権で、アウレリア王国の新しい段階をこれから進めてまいります」

 セレネは深く頭を下げた。

 そして広場の五万人の民が、再び深い沈黙に包まれた。──しかしその沈黙は徐々に別のものに変わりつつあった。──民の目に、徐々に涙が滲み始めていた。──二百年の自分たちの生き方の中に、何か根本的な歪みがあったことをようやく理解した民の涙。

 そして広場の隅から、最初の歓声が、徐々に上がり始めた。

 「──新しい時代!」

 「──皇帝陛下、女王陛下、稜殿、神崎殿!」

 「──私たちの代で、千年の歪みを書き直します!」

 歓声は徐々に広場全体に広がっていった。──そしてその歓声の中で、民の涙と新しい時代への希望が、混じり合っていた。

            ─── ─── ───

 午後三時。──結婚の儀と千年の事の核心の公開が、ようやく終わった。

 稜と神崎は、皇宮の中央の中庭の、月の庭の入口で、静かに立っていた。──ヴィスカルト皇帝とセレネ女王は、皇宮の中央広間で、両国の主要な貴族と政治家との最初の対話を続けていた。──そして広場の五万人の民は徐々に各自の家へと、戻り始めていた。

 しかし広場全体に新しい空気が、徐々に漂っていた。──二百年の常識が揺らいだ後の新しい時代の最初の朝の空気。

 「玲」

 稜は静かに切り出した。

 「──民への公開の最初の段階が、ここで完了した」

 神崎は静かに頷いた。

 「稜。──しかしこれは、千年の歪みの書き直しの始まりに過ぎない。──これから、両国の改革派、貴族、商人、有識者、そして民の皆様の代の中で、徐々に書き直しが進んでいく」

 稜は深く頷いた。

 「玲。──そして俺たち二人の参謀の役目も、ここから新しい段階に入る」

 神崎の目が、稜を見た。

 「稜。──新しい段階」

 稜は静かに頷いた。

 「玲。──千年の歪みの書き直しはこれから少なくとも五十年。──おそらく百年。──俺たち二人が生きている間に、完成する規模ではない」

 神崎は一度頷いた。

 「稜。──そして俺たちは、本日のこの結婚の儀の刹那の成就の中に新しい千年の予言を密かに残す役目を千年前のアドレアン王から託された」

 稜は、革の手帳を軽く撫でた。──手帳の最初の頁の裏に、本日の結婚の儀の場面の地下深部で、新たに加わった一枚の紙。──しかしまだその中身を確認していない。

 「玲」

 稜は静かに告げた。

 「──一週間後の夜、二人で、月の庭で新しい段階の最初の対話を始めよう」

 神崎はゆっくりと頷いた。

 「稜。──月の庭で、待っている」

 月の庭の入口の白い忘れな草が、夏萌月十七日目の午後の光の中で、静かに咲いていた。──そして広場の方から、徐々に静けさを取り戻しつつある民の声が、遠くに聞こえていた。──二百年の歴史で、初めての夏萌月の十七日目の午後。──新しい時代の、最初の数時間が、ようやく深まりつつあった。

 稜は、月の庭の入口で、長く立っていた。──広場の方から、徐々に静けさを取り戻しつつある民の声。──しかし稜の胸の中で、新しい問いが動いていた。──新しい千年の最初の継承者の役目。──その役目の本当の重みは、これから五十年から百年の中で、徐々に形を持つ。

千年の真相の、民への公開。

五万人の民の前で稜が「私と神崎が、千年前のアンナの予言の二人の異邦人です」と告白する場面。

千年の歪みが、ようやく開かれます。

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