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第六段階の設計、両都市の広場

 春芽月の十日目、午前十時。

 ヴェルデン宰相公邸、応接間。

 1年ぶりに、9人の同志が一つの部屋に集まっていた。

 稜(43歳)。──神崎(42歳)。──ヴィスカルト皇太子(35歳)。──セレネ王女(17歳)。──クロヴィス(17歳)。──ブラン(29歳)。──ヘルマン副宰相(46歳)。──エリカ議員(39歳)。──マルセル書記官長(53歳)。

 そしてもう一人、新たに加わった人物がいた。

 エヴァルト・フォン・トレスト、十九歳。──父ハインリヒの帰還を経て、過去半年でトレスト家の改革の中核として動いていた若者。──黒い貴族の上着。──しかし胸には家紋のブローチを着けていなかった。──家の改革が完了するまでは、家紋を着けないという、本人の決意。

 応接間の長机の周りに、十人が座っていた。

 「皆様」

 神崎がゆっくりと口を開いた。

 「──1年ぶりに、こうして全員が一つの部屋に集まりました。──過去1年皆様それぞれが、それぞれの場所で第三段階・第四段階・第五段階の進行を担われてきました」

 神崎は深く息を整えた。

 「そして本日第六段階——民への公開——の最終形の設計をここで開始いたします」

 応接間の中で深い沈黙が流れた。──過去1年9人が別々に動きながら、それぞれが第六段階の予感を抱えてきた。──しかし「民への公開」という言葉が、神崎の口から正式に出された瞬間、その言葉の重みが、十人全員の胸に届いた。

            ─── ─── ───

 稜が、机の上に大きな羊皮紙を広げた。──ハーゲン帝国とアウレリア王国の地図。──両国の主要都市の位置が、丁寧に描かれていた。

 「皆様」

 稜の声は静かだった。

 「──第六段階の最終形について、私と神崎の構想をまずご共有いたします」

 稜は地図の上に、小さな印を一つずつ置いた。

 「ヴェルデン中央広場」「アウリオン王宮前広場」「クルビット領、霧峰の古戦場跡地」「ヴェロニアの運河沿い広場」「サルマティアの中央広場」「ハーゲン帝国の南部の港町ロンディオの中央広場」「アウレリア王国の北部の港町ハイリエンの中央広場」

 七つの印が、地図の上で繋がっていた。

 「──両国の主要七都市の中央広場で、結婚の儀の刹那と同時に千年の事の核心の公開を行う」

 エリカが深く息を吸った。

 「稜殿。──七都市同時。──二百年の両国の歴史で、初めての規模」

 稜は静かに頷いた。

 「エリカ議員。──七都市同時の理由は、二つあります。──一つ目は、両国の民が、同時に同じ真相を聞くこと。──二つ目は、結婚の儀の刹那の神器の最終起動と、民への公開を完全に同期させること」

 セレネは長く地図を見つめた。

 「師。──そして結婚の儀は、ヴェルデンの皇宮の正面玄関の広場で執り行われる予定です。──七都市の中の最初の広場として、皇宮の前で五万人の民の前に、ヴィスカルトと私が皇帝・女王として立ちます」

 ヴィスカルトが無言で頷いた。

 「セレネ。──七都市の他の六都市では、それぞれの代表者が立つ。──アウリオンはレオン陛下、ヴェロニアはアルデス公、霧峰はカイル殿、ハイリエンとサルマティアとロンディオは、稜殿と神崎が指名する代表者たち」

 稜は深く頷いた。

            ─── ─── ───

 しかしその時、ヘルマンが一度首を傾けた。

 「稜殿、神崎閣下」

 ヘルマンの声は、慎重だった。

 「──七都市同時の規模感は、確かに歴史的です。──しかし民の混乱を最小限にする組み立ては、十分に練れているのでしょうか。──千年の真相の開示は、民にとって、二百年の自分たちの生き方の根本を揺らがせるものです」

 部屋の中で、わずかな緊張が走った。

 マルセル書記官長が、静かに口を開いた。

 「ヘルマン殿。──私もご懸念には共感いたします。──しかし、私は別の側面も申し上げます。──民の混乱は、避けられません。──しかしそれは民が、初めて自分たちの歴史を自分たちの目で見る瞬間です。──混乱の後に新しい受容が来る」

 エリカが続けた。

 「マルセル殿のご意見に、私も賛同いたします。──民の混乱を恐れて、開示を歪めることはできません。──しかし、ヘルマン殿のご懸念にも、対応の余地はあります」

 エリカは机の上の地図を指先で軽く撫でた。

 「七都市同時の公開の前に、各都市の改革派の代表者を集めた、事前の説明会を一週間前に開く。──彼らに千年の真相を先に伝え、彼らが各都市で民の混乱を吸収する役を担う」

 稜は一度頷いた。

 「エリカ議員。──素晴らしいご提案です。──事前の説明会の組み立ては、エリカ議員にお任せできるか」

 エリカはわずかに微笑んだ。

 「稜殿。──喜んでお引き受けいたします」

 ヘルマンは黙って頷いた。──しかし表情にはまだわずかな懸念が残っていた。

 「──稜殿。──もう一つだけ、申し上げます。──七都市同時の公開の中で、最も困難な都市は、ハイリエンです」

 稜の目が、ヘルマンを見た。

 「──ハイリエン、と」

 ヘルマンは深く頷いた。

 「アウレリア王国の北部の港町ハイリエン。──過去二百年、ハーゲン帝国との交易の最前線。──ハイリエンの民の多くが、二百年の交易の慣習の上で、生計を立ててきた。──千年の本当の姿の公開で、彼らの生計の根本が揺らぐ」

 クロヴィスが初めて口を開いた。

 「ヘルマン殿。──ハイリエンの代表者は、誰になる予定ですか」

 ヘルマンは、稜を見た。

 「稜殿。──私の意見では、ハイリエン出身の改革派の議員、ヨハン・ヴィルツ五十歳が、最も適任です。──しかし彼は、ハイリエンの伝統的な商家との関係も深い。──微妙な立場です」

 稜は深く考えた。

 「ヘルマン殿。──ヨハン・ヴィルツ議員のご意向の確認を貴殿にお任せいたします。──そして万一、彼が引き受けられない場合の代替案も、並行してご検討ください」

 ヘルマンは深く一礼した。

            ─── ─── ───

 午後一時。──昼食の後、再び応接間に戻った十人。

 しかし午後の議論を始める前に、エヴァルト十九歳が、初めて立ち上がった。

 「皆様」

 エヴァルトの声はわずかに震えていた。──十九歳の若者が、過去1年で大人の同志たちの議論の場に加わるための準備を続けてきた、その最初の発言。

 「──私から、ご提案を申し上げます」

 十人の視線が、エヴァルトに集中した。

 エヴァルトは深く息を吸った。

 「私の家、トレスト家。──過去半年、父ハインリヒの指揮の下で、家の千年の毒の記録の整理を進めて参りました。──家の地下の倉庫に、過去三百年分の毒の調合の記録が、書簡や帳簿の形で保管されておりました」

 部屋の中で深い沈黙が流れた。

 「──第六段階の民への公開の場面で、私は、トレスト家の千年の毒の記録の全てを公的に提出する覚悟です」

 セレネの目が、エヴァルトを見つめた。

 「エヴァルト殿。──ご家族の三百年の記録の全て」

 エヴァルトはゆっくりと頷いた。

 「セレネ殿下。──私の家が、千年の歪みの維持の中で、何人もの命を奪ってきた事実を民の前に隠さず提出いたします。──そしてその記録の上で、私たちトレスト家の改革の最初の一歩を民の前にお示しします」

 エヴァルトの右手が、机の上で、軽く拳になっていた。──しかし力は入っていなかった。──十九歳の若者が、家の三百年の罪を引き受ける覚悟。──そして三年の貧民街生活の後、ようやくたどり着いた、家の中での新しい立ち位置。

 父ハインリヒは、エヴァルトをまっすぐ見ていた。──今日ハインリヒはこの応接間にいなかった。──しかし息子の決意は、ハインリヒから事前に承認を得たものだった。──父と息子の半年の対話の結晶。

 稜は、エヴァルトを長く見つめた。

 「エヴァルト殿」

 稜の声は深かった。

 「──貴殿のご決意。──私は深く受け止めます」

 稜は十人を見渡した。

 「皆様。──エヴァルト殿のご決意を第六段階の組み立ての中核の一つとして、組み込んでいきましょう」

 十人が、静かに頷いた。

            ─── ─── ───

 夕方、五時。──応接間の議論が一旦終わった。──十人は、それぞれの宿へと別れていった。

 しかし稜と神崎は、応接間に残っていた。──二人だけで、机の上の地図をもう一度見つめていた。

 「玲」

 稜の声は静かだった。

 「──第六段階の組み立てが、徐々に立体的になってきた」

 神崎は静かに頷いた。

 「稜。──しかし真の試練は、結婚の儀の刹那と神器の最終起動。──そして千年前のアンナの予言の完全な発動」

 稜は無言で頷いた。

 しかしその時、応接間の扉がノックされた。

 「閣下、稜殿」

 使用人の声だった。

 「──緊急の密書です。──ハイリエンから」

 稜と神崎の目が、一瞬合った。──ヘルマンが昼に懸念を示した、ハイリエン。──そこから緊急の密書が届いた。

 使用人が密書を持ってきた。──封蝋にハイリエンの市役所の印。

 稜は密書を開いた。──そして読んだ。

 「玲」

 稜の声は、低かった。

 「──ヨハン・ヴィルツ議員が、昨夜心臓発作で逝去」

 神崎の目が、稜を見た。

 「──稜。──偶然か」

 稜は密書を机の上に静かに置いた。

 「玲。──分からない。──しかし、過去一年で大きな動きはなかったハイリエンで、よりによって今日のこの瞬間に。──マルガレーテは地下牢にいるが彼女の手の者の中でまだ動いている者がいるかもしれない」

 神崎は深く息を吐いた。

 「稜。──ハイリエンに、ブラン殿を派遣する必要がある」

 稜は深く頷いた。

 夕陽が、応接間の机の上の地図を金色に染めていた。──第六段階の七都市の印が、地図の上で静かに並んでいた。──しかし一つの都市──ハイリエン──の上に新しい影が、徐々に動き始めていた。

 稜は、地図の上のハイリエンの印を、長く指先で撫でた。──ヨハン・ヴィルツ五十歳の死。──七都市の中で最も困難な都市。──しかし稜の胸の中で、新しい予感が動いていた。──ブランがハイリエンで、まだ知らない何かを見つける予感。

第六段階——民への公開——の設計開始。

両国の主要七都市の中央広場で、結婚の儀の刹那と同時に千年の真相を公開する。

九人の同志+エヴァルトの十人で、新しい千年の最初の形を設計する場面。

書きたかった会議の一つです。

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