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紅月楼奇譚――歴史に残らなかった恋たち

紅月楼に、あなたの名を残す。

作者:涼里
最終エピソード掲載日:2026/10/15
一九一七年、上海。

第一次世界大戦の影が忍び寄るなか、娼館《紅月楼(ホンユエロウ)》の女・林知微(リン・ジーウェイ)は、女を買わず、帳簿の字ばかり褒める不器用な代筆屋・顧言舟(グー・イェンジョウ)と出会う。

「私の本当の名前は、銀貨百枚よ」

「……なら、いつか必ず払う」

帰る場所を持たない女と、帰りたい人ができた男。

ただ一緒に朝を迎えることさえ、二人には遠い夢だった。

――誰かの想いを綴る男と、誰にも明日を望まなかった女。激動の時代に咲いた、あまりにもささやかな恋の物語。

【時代背景・史実に関する注釈】

本作は、一九一七年から一九二〇年にかけての上海を舞台とした、史実を背景に持つフィクションです。

当時の中国は軍閥の対立や社会の変革に揺れ、第一次世界大戦では多くの中国人労働者がヨーロッパへ渡り、後方支援や復旧作業に従事しました。

また、一九一八年には世界的なインフルエンザの流行が起こり、人々の日常にも大きな影を落としました。

作中の娼館《紅月楼》および登場人物は架空の存在です。中国人労働者の渡欧、当時の社会情勢、感染症の流行などには史実を取り入れていますが、人物の行動や出来事の詳細、風俗・制度の一部には物語上の脚色を加えています。

歴史の記録には残らなかったかもしれない、名もなき人々の恋と暮らし。

そのささやかな幸福に思いを馳せながら、お読みいただければ幸いです。
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