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氷の国の朝食――食料は尽きた。それでも彼らは、朝食の話をした。

最終エピソード掲載日:2025/11/11
 雪は、まず音を食べた。

 冬季観測施設へ向かっていた調査班五人は、予想外の吹雪と雪崩に巻き込まれ、緊急退避用の雪洞に閉じ込められる。

 通信は不安定。
 入口は雪に塞がれた。
 救助はいつ来るか分からない。
 食料は、五人で三日を生き延びるにはあまりにも少なかった。

 隊長の北村は「全員で帰る」と言い続ける。
 医療担当の真柴は、冷静に仲間の体温と意識を記録する。
 若手の高梨は、空腹を紛らわせるように牛丼や味噌汁の話を始める。
 設備担当の田代は、誰も口にできなかった禁句を言ってしまう。
 そして気象担当の佐久間は、雪洞の中で一冊の手帳に“献立表”を書き続けていた。

 牛丼。
 納豆ご飯。
 缶コーヒー。
 焦げたトースト。
 冷えたご飯と、昨日の味噌汁。

 それは、彼らが食べたものの記録ではない。
 極限の空腹の中で、それでも人間でいようとした者たちの記録だった。

 これは、食料のない氷の国で、五人が最後に思い出した朝食の物語。

――
登場人物紹介

北村航平……調査班の隊長。全員を生かす責任を背負い、最後まで「五人で帰る」と言い続ける。
真柴玲奈……医療担当。冷静に仲間の状態を見極めるが、佐久間の選択を止めきれない。
高梨悠斗……若手隊員。空腹と恐怖に揺れながら、牛丼や味噌汁の話で自分を保とうとする。
田代剛……設備担当。体力はあるが、極限状態で誰もが考えていた禁句を口にしてしまう。
佐久間修……気象担当。静かに天候を読み、仲間たちの朝食の記憶を手帳に残し続ける。
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