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第八景 小説の道
僕は『小説の道』を描いている。
小さな僕は下駄を履いてあぜ道を走っている。
遠くで母が手を振っている。
周りはいちめんの田圃だった。
後ろにもう一人の僕がゴムのサンダルを履いて追いかけて来る。
遠くで母が手を振っている。
周りに一軒の家が建っていた。
その後ろにもう一人の僕が運動靴を履いて追いかけて来る。
遠くで母が手を振っている。
周りを見るともう一軒、家が建った。
その後ろにスニーカーを履いて追いかけて来る僕がいた。
遠くで母が手を振っている。
周りには沢山の家が建っていた。
その後ろに自転車に乗った僕がいる。
遠くで母が手を振っている。
道路は砂利道に変わっている。
その後ろにクルマを運転している僕が居た。
遠くで腰の曲がった母が手を振っている。
道路は舗装され、家はビルに変わっていた。
そしてある日、小説の道は無くなっていた。
僕は電車に乗っている。
車窓から外を見ると、消えそうな道を沢山の僕が歩いている。
最初に下駄を履いて走っていた僕は見えなくなっている。
あの時の母は今はもう居ない。
今、僕は飛行機の窓からあの道を探している。
・・・無い。
道は全て雲の上に成ってしまった。




