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第十景 ラーゲリからの帰還兵
あれは昭和23年6月03日の事だった。
その日は雨が降っていた。
僕はシベリアのラーゲリから、ようやく故郷の生家に帰還した。
家族を驚かそうと、玄関の戸をそっと開けた。
玄関には沢山の履き物が揃えてある。
・・・人が集まっている様だ。
僕が今日、帰還すると云う事を誰が知らせたのだろう。
? ・・・線香の匂いがする。
僕は襖をほんの少し開けて部屋の中を覗いた。
集まって居る人は全て喪服を着て居る。
肩を落として俯いている。
泣いている人も居る。
僕は奥の「仏間」を見た。
仏壇には生花に囲まれた「白木の箱」が置いて有る。
白木の箱の上に、僕の出征の時の写真が載せてある。
? 僕の葬式をやっている。
僕は死んで居るのである。
そっと襖を閉めた。
僕は帰って来てはいけなかったのだ。
今、帰ったら僕は存在してない者(幽霊)になってしまう。
喪主は僕が大嫌いだった義理の弟だった。
義理の弟は僕が死んだ事を喜んでる様に笑いながら線香を挙げている。
この家の相続はあの義理の弟が全て継ぐ筈だ。
僕はこの家の周りに近づいてはいけないのだ。
今、僕は百歳だ。
顔を隠しながら百姓をしている。
義理の弟は四十年前に既に亡くなってしまった。




