第二十四話 禁足地の凶暴者
【前回までのあらすじ】
謎のトカゲ族の協力によって《地獄の炎龍》を撃破した幻獣調査団。
ついに、塔の建つ禁域へと向かう──
そうして幻獣調査団の面々は、ついに禁域と呼ばれる付近までやってきていた。
険しい山が続いている。そして、その頂には、不思議な色で光り続ける塔の姿が見えた。
おお……と誰ともなしに歓声が漏れた。
トロントは思わず呟く。
「あの山が……禁域。そして、塔か……」
「何でしょうか……あのきれいな光を見ると、なんだかすごく心が癒されるというか、不思議な気持ちになりますね」
マリンは遥かな塔からあふれる光に魅せられているようだった。それは、マリンだけでなく全員に、大なり小なり同じ感情を抱かせた。
ハルジオも、感じ入ったように言う。
「僕たちでさえ、そう思うんだ。魔物たちがあれに寄ってくるのもある意味当然なのかもしれないね。何か、命の源泉というか、尊いものというか……そういうものを感じる」
そのとき、ノクトが何かを発見して、指さした。
「何か……売ってる」
「えぇ……?」
そんな馬鹿な、とトロントは笑い飛ばす準備をしていたのに、本当に何かの無人販売があるのを見て、
「ええええ?」
となった。
「なんだこりゃ、なんでこんなところに無人販売が出てるんだよ。人間はこんなとこまで来ないだろう」
「何が売ってるんですか?」
ハルジオが言い、五人は近づいて確認する。しかし、そもそも何か書いてあっても文字が読めない。
「なんか、どんぐりの絵があるね」
クレアが小さな身を更にかがめて、下のほうにある小さな看板を眺める。
「えーっと……どんぐり販売……?」
マリンが自信なさげにその看板を読み上げる。
驚いてハルジオは言う。
「マリン、読めるんですか!」
「様々な言語を習得しているので、その上で、なんとなく、かすかに……ですけどね。どうも、どんぐり十個とここにある品一つを交換してくれるみたいです……。え、ええっ?」
マリンは驚きの声をあげる。そこに置かれていた品は……
「アーティファクト!」
「えっ、なになに?」
クレアが身をかがめていたのに急に立ち上がるから、ハルジオは彼女の頭に自分の顎をしこたま打ち付けた。
「いたぁ!」
「あ、ハルジオごめん。そんでマリン、アーティファクトって……まじ?」
「これを見てください」
こんな未開の地にあるのが全くふさわしくない、神々しい輝きを帯びた品々。それはそこに二つ、置かれていた。
一つは、美しい白銀の金属で作られた腕輪。翼の形を模しており、まるで芸術品のような美しさだ。不思議な魔力を帯びている気配がする。
もう一つは、同じような白銀の金属と、ダークブルーに輝く鱗で作られた不思議なベルト。唐草の装飾が繊細で、こちらも、何か魔力が込められているようだ。
「アーティファクトは、古の超技術を込めて作られた品々。どのような力が込められているかはそのアイテムによって様々ですが、物によっては大地を裂き、稲妻を落とすと言われています」
マリンは神妙な顔でみんなに伝えた。
「ていうか、どうしてそんなにすごいものが、こんな辺鄙な島の山に……」
クレアは疑問の声を上げる。
「わかりません。わかりませんが……」
マリンは周囲を見渡し、そして再びアーティファクトを見た。
「このアイテムは必ず私たちの役に立ってくれるでしょう。どんぐりをいくつか集めなければいけませんね」
「どんぐりって普通のどんぐりでいいのかな……いくらでも転がっていそうだが」
疑問に思ってトロントがつぶやく。それに対してマリンは首を振った。
「多分なのですが、どんぐりを通貨として使用している種族がいるはず……私たちが思うほど簡単には手に入らないかもしれません」
「なるほど、それはそうか……じゃなければ、どんぐりでアーティファクト交換、とはいかないか」
トロントはマリンの回答に納得して答えた。
やはり周囲を見渡した限り、どんぐりは近辺には落ちていないようだ。
「それにしても」
と、ハルジオは言う。
「なんて不用心なんだろう。こんな風に置かれていたら、貴重品のアーティファクトのことだし、みんな盗んでいっちゃうんじゃないのかな……」
「そうですね……盗まれないという自信でもあるのでしょうか?それとも……」
マリンも悩みながら言葉を口にするが、答えは出ない。
「まあ、とりあえずどんぐりを探しに行くか。それさえあれば、これらをもらっていいんだろう?」
トロントの言った言葉が、そのまま幻獣調査団の結論となった。
五人は、どんぐりを探すために周辺を探索し始めた。
◆
「頼むぞ、アイリーン」
ノクトはアイリーンの探知で、周辺にどんぐりがないか、魔物などが潜んでいないかを確認する。ハルジオのフライングボット三機も、アイリーンとともに有用な情報を探しに飛び立っていった。
すると、あっという間にノクトの耳にしか聞こえない危険信号の音が届く。ノクトは無言でアイリーンがいる方へと走り出す。みんなはそれについていく形になった。
巨大な醜い姿が、ノクトの目に映る。
「ゴブリン……?いや……違う……!」
ノクトは警戒して、鋭く叫ぶようにつぶやいた。ナイトブレードを抜き放ち、その切先を敵へと向ける。
ゴブリンは、人間より小柄で醜い、小人のような種族だ。伝説では、木立の間に住まい、人間の子供を取って食べると言われている。しかし、ノクトが見た相手は、到底人間より小柄であるとは言えなかった。
背丈は大柄な人間よりもはるかに大きく、その一・五倍はありそうだ。横幅に至ってはその三倍。筋肉量も凄まじく、どれほどの怪力を秘めているかは確認したくもなかった。
もはやこれは通常のゴブリンではない。
その顔には、大きく焼けただれたような、かつての火傷の跡がある。
「キングゴブリンだな……!」
ノクトは警戒して、鋭い声で言う。
他の四人も遅れて到着し、その姿を見て気を引き締める。
アイリーンはすぐにノクトの肩まで登ってきた。
「……きさま……」
キングゴブリンは、モゴモゴとした野太い声で、しかし確かに意思疎通の取れる言葉で、ノクトに対してはっきりと恨みのある形相で睨みつけて言った。
「また、きたのか……コンドは……かならずコロす……そして、きさまのホノオは、もうクらわない……」
ノクトの心臓が、ドクン、と強い脈を打った。ナイトブレードの先端が、静かに震える。
「誰の……話をしている……?」
「知れたこと……きさまのハナシだ……」
当然、ノクトはこの島に初めて訪れたし、こんなキングゴブリンと関わったことはない。
オレと同じ顔の……誰かの話なのか?
奴の火傷痕。炎の魔法……《メイジ》……
オレと同じ顔の……姉さん……?
この島に到着して、初めて得た姉の手がかりなのかもしれない。ノクトだけが、それを察知した。
「ノクト!ぼーっとすんなァ!」
だが、獰猛な獣が襲い来るかのように──
トロントの絶叫によって、ノクトの顔面に、棍棒による破滅が迫っていることに気づいた。
熾烈な戦闘は開始していたのだ。
ついに、行方不明となった幻獣調査団に関する情報がもたらされるのか?
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