第3話 閉ざされた村と怯える人々
村の中へ足を踏み入れた瞬間、 ラースは空気の違和感に気づいた。
(……静かすぎる)
昼間のはずなのに、 子どもの声がしない。
家畜の鳴き声もほとんど聞こえない。
村人たちは、 ラースを見ると一瞬だけ目を向け、 すぐに視線を逸らした。
(警戒……いや、“怯え”か)
門番が指し示した建物は、 村の中央にある少し大きめの家だった。
ラースは扉を軽く叩いた。
「失礼します。魔獣駆除の依頼を受けて来ました」
中から、 年配の男の声が返ってきた。
「……入ってくれ」
扉を開けると、 机に向かっていた老人がゆっくりと顔を上げた。
白髪混じりの髪。 深い皺。
そして、 数日まともに眠っていないような目の下の隈。
(……相当参ってるな)
ラースは軽く頭を下げた。
「ラースと申します。
来る途中で森林狼を一頭仕留めています」
狼を見せると、 村長は驚いたように目を見開いた。
「おお……本当に来てくれたのか。
助かる……本当に助かる」
声が震えていた。
村長は椅子に座り直し、 深く息を吐いた。
「……ここ最近、魔獣が急に増えたんだ。
森林狼も猪も、普段は森の奥にいるはずなのに、
村の近くまで出てくるようになってな」
ラースは静かに頷く。
「理由に心当たりは?」
村長は首を振った。
「分からん。 だが……何かがおかしい。
森の奥で“何か”が起きているとしか思えん」
(森の奥……)
ラースの脳裏に、 牙熊の咆哮がよぎった。
(魔獣の動きが変わっている……?)
村長は続けた。
「被害も出ている。
畑を荒らされ、家畜を襲われ…… 村の者も怪我をした」
ラースは眉を寄せた。
「怪我人は?」
「幸い命に別状はないが…… 村の者は皆、怯えている。
外に出るのも怖がる始末だ」
村の静けさの理由が分かった。
村長は机の上の地図を広げた。
「駆除してほしいのは、村の周囲に出没する魔獣だ。
特に森林狼と猪が多い」
ラースは地図を覗き込みながら尋ねた。
「出没する場所は?」
「この辺りだ」
村長が指したのは、 村の北側と西側の森の境界。
(……村を囲むように出ている?)
ラースは違和感を覚えた。
(普通なら、もっと散発的なはずだ。
まるで……“何かに追われている”みたいだ)
村長は続けた。
「駆除した数に応じて報酬は増やす。
無理は言わん。だが……どうか、村を助けてくれ」
ラースは迷わず頷いた。
「分かりました。できる限りやります」
村長は深く頭を下げた。
「……ありがとう。本当に、ありがとう」
村長宅を出ると、 外の空気は相変わらず重かった。
村人たちは、 ラースを遠巻きに見つめている。
(……怯えが染みついてる)
ラースは馬のもとへ戻りながら、 森の奥を見つめた。
(魔獣が増えた理由…… ただの自然現象じゃない)
風が吹き、 森の影が揺れた。
(確かめる必要がある)
ラースは馬の首を軽く撫で、 静かに息を整えた。
(まずは村の周囲からだ)
次の瞬間、 ラースの瞳は冒険者のそれに変わっていた。




