第3話 商隊護衛依頼の開始――若手エースとしての立ち位置
冒険者ギルドの扉を押し開けると、 朝のざわめきが一気に耳へ流れ込んできた。
依頼を確認する冒険者たちの声。
受付嬢の軽やかな応対。
武具が擦れる金属音。
酒場の奥から漂う、昨夜の酒の残り香。
そのすべてが、 ラースにとっては“日常”だった。
だが今日は、 胸の奥に微かな緊張があった。
(……長距離護衛依頼か)
受付嬢がラースを見つけると、 ぱっと表情を明るくした。
「ラース君、おはよう。
ちょうどいいところに来たわ」
差し出された依頼書には、 太い文字でこう書かれていた。
『王都 → 皇国国境付近の町 商隊護衛』
距離は長い。 危険度も高い。
だが――
「行きます」
ラースは迷わず答えた。
受付嬢は満足そうに微笑む。
「やっぱりね。
あなたならそう言うと思ったわ」
集合場所に向かうと、すでに二つのパーティが揃っていた。
Cランク4人パーティ 経験豊富で、装備も整っている。
ラースを見ると、軽く会釈してきた。
Dランク3人パーティ まだ若く、緊張した面持ち。
ラースを見ると、少し安心したような表情を浮かべた。
「君がラースか。 噂は聞いてるよ。若手のエースだってな」
Cランクのリーダーが声をかけてきた。
ラースは軽く頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「礼儀正しいな。 ……本当に十五歳か?」
「はい」
「ははっ、こりゃ驚いた」
周囲の視線が集まる。
尊敬、期待、好奇心―― そのどれもが混ざった視線。
ラースはそれを受け止めつつ、 心の奥では静かに気を引き締めていた。
(……俺は俺の仕事をするだけだ)
商隊のリーダーが声を張り上げた。
「では、護衛の配置を決める!
前衛はCランクの皆さん。
後衛はDランクの皆さんと……ラース君、君だ」
Dランクの若者たちがほっとした表情を浮かべる。
「ラース君と一緒なら安心だな……」
「うん……あの人、落ち着いてるし……」
ラースは微笑んだ。
「よろしくお願いします。
危険を感じたら、すぐに声を出してください」
その言葉に、 Dランクの3人は同時に頷いた。
(……頼られてるな)
ラースは胸の奥に、 ほんの少しだけ温かいものを感じた。
馬車の車輪が軋み、 商隊がゆっくりと動き出す。
ラースは馬にまたがり、 後衛の位置についた。
森へ向かう道は、 朝の光が木々の隙間から差し込み、 柔らかな影を作っている。
風が頬を撫で、 馬の呼吸が背中に伝わる。
(……こうして馬に乗って護衛に出るなんて、
昔の俺じゃ考えられなかったな)
孤児院で、 ただ生きることに必死だった頃。 未来なんて想像できなかった。
だが今は―― 仲間がいて、 守るべき場所があって、
自分の力を必要としてくれる人がいる。
(……悪くないな)
ラースは小さく息を吐き、 前を見据えた。
冒険者としての“今”を、 確かに噛みしめながら。




