第1話 冒険者としての日常と、胸に残る金髪の少女
王都の朝は、いつもより少しだけ冷たい風が吹いていた。
春の終わり、夏の気配が混じり始める季節。
ラースは冒険者ギルドへ向かう石畳の道を歩きながら、
胸の奥に残る“ある光景”を思い返していた。
(……セリア)
金色の髪が陽光を受けて揺れた瞬間。
怯えた瞳がこちらを見上げた瞬間。 串
焼きを食べて、ほっと緩んだ小さな笑顔。
どれも、妙に鮮明だった。
(なんでだろうな……)
ラースは自分でも理由が分からなかった。
ただ、胸の奥にぽつんと灯った“温かい火”が、 まだ消えずに残っている。
あの日以来、 ふとした瞬間にセリアの姿が脳裏をよぎる。
路地裏で震えていた小さな手。
背中に感じた軽い体温。
「ありがとう」と言った時の、あの声。
(……また会えるのかな)
自分でも驚くほど自然に、 そんな言葉が浮かんでしまう。
ラースは頭を振った。
(いや、何考えてんだ俺は。
あの子はきっと、どこかの貴族の子だ。
俺とは住む世界が違う)
そう思おうとするのに、 胸の奥の火は消えなかった。
ギルドへ向かう途中、 ラースはふと自分の手を見下ろした。
(……大きくなったな)
12歳で冒険者登録した頃は、 まだ細くて頼りなかった腕。
今はしっかりと筋肉がつき、 剣を振るたびに力が乗る。
背も伸びた。 視界の高さが変わった。 走ると地面の反応が違う。
弓を引くと、以前よりも安定して狙える。
(体ができてきた……ってやつか)
孤児院の子供たちに狩りを教える時、
「ラース兄ちゃん、なんか強くなった?」 と驚かれることも増えた。
ギルドでも――
「若手のエースだな」
「ラース君、またCランクの依頼こなしたのか」
「落ち着きすぎだろ、あの年で」
そんな声が聞こえるようになった。
だがラース自身は、 ただ淡々と、 “できることをやっているだけ”だった。
ギルドに着く前、 ラースはふと、 孤児院近くの一軒家のことを思い出した。
(みんな、どうしてるかな)
トム、レオ、ミーナ、エマ。
15歳になった彼らは、 ラースが借りた家で共同生活をしている。
トムとレオはラースに甘えている自覚がある。
だからこそ真面目に依頼をこなし、
休みの日は孤児院に行って手伝い、
「ラースに恥かかせられねぇよな」と言い合う。
ミーナとエマは冒険者稼業は近場のみで、
手に職をつけるため、薬草採取や裁縫の勉強をして、
「私たちも、自分の道を見つけないとね」と笑う。
(……みんな、強くなった)
ラースはその成長を誇らしく思っていた。
自分が教えたことが、 確かに彼らの力になっている。
それが嬉しかった。
ギルドの扉が見えてきた時、 ラースはふと立ち止まった。
(……セリア)
背中に感じた、あの軽い体温。
小さな手が首に回された感触。
あの瞬間だけは、 自分が誰かを“守るべき存在”になれた気がした。
(……また、会えるといいな)
ラースは小さく息を吐き、 ギルドの扉を押し開けた。
冒険者としての日常が、 今日も始まる。




