第4話 再会を願う少女と、静かに見守る侍女
エルナが調査を終えてセシリアの部屋に戻ると、窓辺に小さな影があった。
セシリアは椅子に座り、王都の夜景をじっと見つめていた。
「……ラース、今ごろ何してるのかな」
その呟きは、まるで夜風に溶けてしまいそうなほど小さかった。
エルナはそっと近づき、主の背後に立つ。
「姫様、まだ起きていらしたのですね」
セシリアは振り返らず、夜空を見つめたまま言った。
「だって…… また会えるかもしれないでしょ?」
エルナは一瞬だけ目を細めた。
(……この子が、誰かのことをこんなに気にかけるなんて)
セシリアは小さな手を胸に当てた。
「ラースの背中、あったかかったの。
すごく速く走ってるのに、全然怖くなかった」
「……そうでしたか」
「うん。 あの時ね、なんか……
“この人なら大丈夫”って思ったの」
エルナは静かに息を吸った。
(五歳の子が、そこまで信頼を口にするなんて……
やはり、ただの少年ではない)
エルナはセシリアの隣に膝をつき、優しく声をかけた。
「姫様。
世の中には、また会える縁と、
一度きりの縁がございます」
セシリアは振り返り、大きな瞳でエルナを見つめた。
「じゃあ……ラースとはどっち?」
エルナは即答しなかった。
侍女として、軽々しく希望を与えるわけにはいかない。
だが――調べた結果、ラースは“覚えておくべき少年”だと確信している。
そして何より、セシリアの心が初めて誰かに向いた。
エルナは静かに微笑んだ。
「……縁というものは、
不思議と必要な時に巡ってくるものです」
セシリアは少し考え、やがて小さく頷いた。
「じゃあ…… また会えるよね」
エルナはその言葉を否定しなかった。
(ええ…… きっと、あなたたちはまた出会う)
心の中でそう呟きながら、エルナは立ち上がった。
「そろそろお休みになりましょう、姫様」
「……うん」
セシリアはベッドに入り、布団を胸まで引き寄せた。
「おやすみ、エルナ」
「おやすみなさいませ、セシリア様」
エルナは部屋の灯りを落とし、扉を静かに閉めた。
廊下に出た瞬間、彼女は小さく息を吐く。
(……ラース。
あなたがどんな少年であれ、
姫様の心を動かしたのは事実)
(この縁……
侍女として、見届ける価値がある)
エルナはそう心に刻み、静かな夜の廊下を歩き出した。




