第3話 浮かび上がる少年像――侍女エルナの分析と違和感
翌朝。王城の侍女控え室には、早朝の冷たい光が差し込んでいた。
エルナは机に広げた数枚の報告書を前に、静かに目を通していた。
昨夜、彼女が依頼した“王都の情報網”からの返答が、すでに届いていたのだ。
(……仕事が早いわね。助かる)
エルナは一枚目の紙を手に取った。
「ラース。王都孤児院所属。出生記録なし」
ここまでは珍しくない。だが、次の行でエルナの指が止まった。
「孤児院の生活改善に深く関与。
読み書き計算を教え、狩りの技術も指導」
エルナは眉を寄せた。
(……十五歳の少年が?
孤児院の子供たちに“教育”を?)
普通の孤児なら、自分の生活で精一杯のはずだ。
だがラースは――“他者を育てている”。
(……まるで、年長者のようね)
次の紙には、冒険者ギルドの記録がまとめられていた。
「十二歳で特例登録。
院長の推薦状あり」
昨日確認していたとはいえ、
改めてもたらされた情報にエルナは小さく息を呑む。
(ギルドが子供を特例で認めるなど、滅多にない。
よほどの実力か、よほどの信頼か……)
さらに読み進める。
「十五歳にしてCランク到達。
最年少記録を更新」
エルナは紙を置き、静かに考え込んだ。
(……あの落ち着き。
あの体幹の強さ。
あの判断力)
(すべてが“年齢不相応”)
エルナは昨日の光景を思い返した。
セシリアを背負って走るラース。
細い路地を迷いなく駆け抜ける足取り。
追手を撒くための最短ルートを即座に判断した冷静さ。
(……あれは、経験のある者の動き)
十五歳の少年が、あの状況であれほど冷静でいられるだろうか。
(まるで…… 何度も似た状況を経験してきたかのような)
エルナの胸に、小さな違和感が生まれた。
エルナは書類をまとめ、静かに結論を出した。
「……危険な少年ではない。
むしろ誠実で、礼儀正しく、責任感が強い」
だが同時に――
「ただの孤児ではない。
“何か”がある」
その“何か”が何なのかは分からない。
だが、侍女としての直感が告げていた。
(この少年は…… 姫様の人生に、必ず関わる)
エルナは書類を引き出しにしまい、静かに立ち上がった。
「……覚えておくわ。
ラースという名を」
その声は、侍女としての冷静さと、
主を守る者としての鋭い直感が混ざり合ったものだった。




