第4話 別れ――迎えの女性と、短い縁の終わり
串焼きを食べ終えた頃だった。
「お嬢様、探しましたよ!」
背後から鋭い声が響いた。
ラースは反射的に振り返る。
そこには、立派な服を着た女性が息を切らして立っていた。
年齢は二十代後半ほど。
髪はきちんとまとめられ、
その身なりは“王都の上流階級の従者”であることを物語っていた。
セリアは肩をびくっと震わせ、「あちゃ〜……」と天を仰いだ。
(……やっぱり、普通の子じゃない)
ラースは確信した。
女性はセリアの姿を見つけると、安堵の息を漏らした。
「お嬢様……!どれだけ探したと思っているのですか。
勝手に離れてはいけませんと、あれほど……!」
セリアは頬を膨らませた。
「だって……つまらなかったんだもの」
女性は困ったように眉を寄せたが、その目には深い心配が滲んでいた。
ラースは二人のやり取りを見て、胸の奥に小さな寂しさを覚えた。
(……やっぱり、俺とは違う世界の子なんだな)
ラースはセリアに向き直った。
「あの人は……君のお迎えかい?」
セリアは小さく頷いた。
「ええ……もう帰らないといけないみたい」
その声は、どこか名残惜しさを含んでいた。
「今日は……ありがとう。本当に助かったわ」
ラースは微笑んだ。
「別にいいよ。困ってる子を放っておけなかっただけだから」
セリアは少しだけ目を伏せ、その小さな手をぎゅっと握った。
(……なんだろう、この感じ)
ラースの胸の奥が、またざわついた。
懐かしいような、切ないような、言葉にできない感覚。
ラースは迎えの女性に向かって言った。
「この子のこと……お願いします」
女性は驚いたように目を見開き、すぐに深く一礼した。
「助けていただき、感謝いたします。
お嬢様に代わり、お礼を申し上げます」
その礼は、身分の差を超えた“本物の感謝”だった。
ラースは軽く首を振った。
「気にしないでください」
セリアは女性の手を取り、歩き出した。
数歩進んだところで、ふと振り返る。
ラースと目が合う。
セリアは小さく手を振った。
ラースも手を上げて応えた。
その瞬間――胸の奥が、ほんの少しだけ痛んだ。
(……また会えるのかな)
自分でも驚くほど、その思いは自然に浮かんだ。
セリアの姿が人混みに消えていく。
ラースはしばらくその場に立ち尽くし、
やがて静かに孤児院へ向かって歩き出した。
祭りの喧騒の中、ラースの胸には“言葉にできない余韻”だけが残っていた。




