第3話 衝撃の出会い――金髪の少女と逃走
ドンッ!
胸に小さな衝撃が走った。
ラースは反射的に腕を伸ばし、ぶつかってきた“何か”を支えた。
「……え?」
見下ろすと、そこには金色の髪を揺らす小さな少女がいた。
年の頃は五歳ほど。
身なりは良く、白いワンピースは上質な布で仕立てられている。
だが――その顔は恐怖で強張っていた。
「た、助けて……」
震える声。潤んだ瞳。
小さな手がラースの服をぎゅっと掴む。
(……追われてる?)
ラースは瞬時に周囲を見渡した。
人混みの向こう、
黒い外套を着た男たちがこちらを探すように視線を走らせている。
(間違いない。あの子を追ってる)
ラースは少女の手を握った。
「こっちおいで」
少女は驚いたように目を見開いたが、すぐに頷いた。
ラースは人混みを抜け、細い路地へと駆け込んだ。
王都の裏道は複雑だ。だがラースは迷わなかった。
(孤児院の買い出しで何度も通った道だ。ここなら撒ける)
少女は必死に走るが、小さな足では限界が早い。
「はぁ……はぁ……」
息が上がり、足がもつれそうになる。
ラースは振り返り、迷わず少女を背負った。
「しっかり掴まって」
少女は驚きながらも、ラースの首に腕を回した。
その瞬間――ラースの胸の奥が、ほんのわずかにざわついた。
(……この感覚、なんだ?)
懐かしいような、胸が締め付けられるような、説明できない感覚。
だが今は考えている暇はない。
ラースは背負った少女を支え、路地裏を駆け抜けた。
曲がり角を三つ、階段を一つ、さらに細い道へ。
追手の足音は遠ざかり、やがて完全に聞こえなくなった。
ラースは人気のない裏道で足を止めた。
「……もう大丈夫だよ」
少女はラースの背中から降り、胸に手を当てて息を整えた。
「た、助かった……」
その声は、さっきより少しだけ明るかった。
静けさの中で――
くぅぅ……
少女のお腹から、小さな音が鳴った。
少女は顔を真っ赤にして俯く。
「……ごめんなさい」
ラースは思わず笑った。
「ちょっと待ってて」
近くの露店へ走り、タレがたっぷり染みた串焼きを二本買って戻ってくる。
「ほら、食べな」
少女は目を丸くした。
「……いいの?」
「もちろん」
少女は嬉しそうに微笑み、串焼きを受け取った。
「ありがとう……」
その笑顔を見た瞬間、ラースの胸がまたざわついた。
(……やっぱり、どこか懐かしい)
理由は分からない。だが、確かに感じる。
ラースも串焼きをかじりながら言った。
「僕はラース。君の名前は?」
少女は一瞬だけ迷い、小さく口を開いた。
「私はセシ…………セリアよ」
(セシ……?)
ラースの胸が一瞬だけ跳ねた。
だが少女はすぐに笑顔を作り、串焼きを食べ続けた。
ラースはその横顔を見つめながら、胸の奥のざわつきの正体を掴めずにいた。




