第1話 12歳、特別な冒険者登録――社会への第一歩
ラースが十二歳になった年の春。
王都の冒険者ギルドは、朝から珍しくざわついていた。
「本当に十二歳なのか?」
「見た目は子供だけど……落ち着きすぎじゃないか?」
「院長の推薦状があるとはいえ、特例なんて滅多にないぞ」
受付の奥から、そんな声が聞こえてくる。
ラースは静かに立っていた。
緊張しているはずなのに、その姿勢はまっすぐで、目には揺らぎがなかった。
(……ついに、ここまで来た)
胸の奥が少しだけ熱くなる。
冒険者登録の前日。院長はラースに一通の封筒を渡した。
「これは、ギルドへの推薦状だよ。君なら、きっと大丈夫だと思う」
ラースは驚いた。
「院長……僕、まだ十二歳なのに」
院長は優しく微笑んだ。
「年齢なんて関係ないよ。
君はもう、立派に“誰かを助ける力”を持っている。
それを社会で使ってごらん」
その言葉が、ラースの背中を強く押した。
受付の女性が書類を確認し、ラースを見つめた。
「……本当に十二歳なのね。でも、推薦状は正式なものだし……」
彼女は小さく息をつき、微笑んだ。
「特例として、登録を許可します。ようこそ、冒険者ギルドへ。ラース君」
ラースは深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
その声は、年齢に似合わないほど落ち着いていた。
冒険者としての最初の仕事は、小さな採取依頼だった。
薬草を集め、ギルドに届ける。
報酬はわずかだったが、ラースにとっては大きな一歩だった。
孤児院に戻ると、ラースは報酬袋を院長に差し出した。
「これ……半分、孤児院に使ってください」
院長は目を丸くした。
「ラース君、これは君が稼いだお金だよ?」
ラースは首を振った。
「僕はここで育ててもらったから。少しでも、みんなの役に立ちたいんです」
院長はしばらく黙り、やがて優しく微笑んだ。
「……ありがとう。本当に、ありがとう」
ラースが冒険者として働き始めてから、孤児院の生活は少しずつ変わっていった。
破れていた寝具が新しくなり
食事に使う野菜が増え
子供たちの服も少しずつ整い
冬には暖炉の薪が十分に用意できた
ミーナが嬉しそうに言った。
「ラース君が冒険者になってから、孤児院が明るくなった気がするよ!」
トムも照れくさそうに言う。
「……まぁ、お前が頑張ってるからだな」
ラースは笑った。
(……まだまだ、これからだ)
胸の奥に、静かな決意が灯っていた。




