第2話 直轄部隊への編入――戦争に備える準備
砦の会議室で未来予測を終えたあと、セシリアはしばらく黙っていた。
窓の外では、冷たい風が砦の旗を揺らしている。
その風の音が、これから訪れる戦火の前触れのように聞こえた。
やがてセシリアは、静かに、しかし揺るぎない声で言った。
「ラース、シャーリー。あなたたち二人を……わたくしの直轄部隊に編入します」
ラースは即座に頷いた。
「分かりました」
シャーリーも、迷いを振り払うように頷いた。
「……私も、戦います。ガルドさんが守ってくれた命ですから」
セシリアは二人を見つめ、その瞳に強い決意を宿した。
「これからは、わたくしたち三人で戦うの。
皇国軍にも、仮面の者にも……負けないために」
直轄部隊への編入が決まると、ラースとシャーリーはすぐに準備に取りかかった。
砦の武具庫で、ラースは弓を手に取り、弦の張りを確かめる。
(……これからの戦いは、前ループより早く来る)
矢筒には新しい矢を詰め、槍の穂先を研ぎ、剣の刃を磨く。
シャーリーは荷物袋や水袋、着替えなどを揃えながら、
ラースの背中を見つめていた。
「ラースさん……こんなに早く戦いが来る予測だなんて、思っていませんでした」
ラースは振り返り、静かに言った。
「俺もだ。でも、備えられるだけ備えるしかない」
シャーリーは小さく頷いた。
セシリアの直轄部隊は、王国でも屈指の精鋭たちだった。
ラースは彼らの顔を見て、胸の奥に複雑な感情が湧いた。
(……前のループで、何度も一緒に戦った仲間たちだ)
彼らはラースを見ると、すぐに打ち解けた。
「お前がラースか。セシリア様が信頼しているって聞いてる」
「弓の腕が立つらしいな。今度手合わせしてくれ」
ラースは自然に笑った。
「こちらこそ、よろしく頼む」
一方、シャーリーは初めての軍生活に戸惑いながらも、
ラースの補助で少しずつ馴染んでいった。
「シャーリー様、こちらへ。回復魔法の訓練場です」
「は、はいっ……!」
その姿は、かつて皇国で“聖女候補”として扱われていた頃とは違い、
一人の戦士としての覚悟を帯びていた。
夜、砦の外では焚き火が揺れ、兵士たちの影が長く伸びていた。
ラースは弓の弦を張り替えながら、空を見上げた。
星は雲に隠れ、まるで戦争の気配を覆い隠すようだった。
(……皇国軍が動くのは時間の問題だ)
シャーリーは回復魔法の練習を終え、疲れた表情でラースの隣に座った。
「ラースさん……私、ちゃんと戦えるでしょうか」
ラースは迷いなく答えた。
「戦える。お前は強い。ガルドも……そう言うはずだ」
シャーリーは目を閉じ、小さく息を吸った。
「……はい」
セシリアが二人のもとへ歩いてきた。
「準備は順調ね。でも、油断は禁物よ。皇国軍がいつ来てもおかしくないわ」
ラースとシャーリーは頷いた。
砦の空気は、静かでありながら、どこか張り詰めていた。
――戦争は、確実に近づいている。




