第3話 修行の日々――力を磨く3人
直轄部隊への編入が決まった翌日から、ラースとシャーリーの生活は一変した。
砦の朝は早い。まだ空が薄暗い時間帯に、
訓練場には兵士たちの掛け声が響き渡る。
ラースはその中心に立ち、弓を構えていた。
ラースの弓は、すでに王国でも屈指の腕前だった。
だが、彼は満足しなかった。
(黒騎士を倒すには……もっと速く、もっと正確に)
矢を番え、呼吸を整え、放つ。
矢は一直線に飛び、的の中心を貫いた。
周囲の兵士たちが唸る。
「すげぇ……」
「これがセシリア様の信頼する男か……」
ラースは淡々と次の矢を番える。
(まだだ。あの“首”を落とすには……)
弓だけではない。槍も剣も、魔法も鍛えた。
槍は黒騎士の突撃をいなすため
剣は首を落とすため
魔法は遠距離からの制圧のため
前ループで得た経験が、すべて血肉となっていた。
一方、シャーリーは回復魔法の訓練場にいた。
「シャーリー様、魔力の流れをもっと安定させてください」
「は、はいっ……!」
最初は魔力の制御に苦戦していたが、ラースが横で手を添えると、
彼女の魔力は驚くほど素直に流れた。
「……こう、ですか?」
「そうだ。そのまま維持してみろ」
シャーリーの手から、柔らかな光が溢れ出す。
その光は、兵士の傷を瞬く間に癒した。
周囲の兵士たちが驚きの声を上げる。
「すげぇ……!」
「これが“聖女候補”か……」
シャーリーは照れながらも、誇らしげに微笑んだ。
(……ガルドさん。私、強くなります)
彼女の瞳には、確かな決意が宿っていた。
セシリア軍の精鋭たちは、最初こそシャーリーを“聖女様”として扱っていたが、
彼女の努力と成長を見て態度を変えていった。
「シャーリー様、今日の魔法は見事でした」
「次は防御魔法の訓練も一緒にやりましょう」
シャーリーは嬉しそうに頷く。
ラースはその様子を見て、胸が温かくなった。
(……この時間が、ずっと続けばいいのに)
だが同時に、胸の奥には冷たい影があった。
――戦争は必ず来る。
――黒騎士も、仮面の者も、必ず現れる。
夜、砦の外では焚き火が揺れ、兵士たちの影が長く伸びていた。
ラースは弓の弦を張り替えながら、空を見上げた。
星は雲に隠れ、まるで未来を覆い隠すようだった。
シャーリーが隣に座り、疲れた声で言った。
「ラースさん……私、ちゃんと戦えるでしょうか」
ラースは迷いなく答えた。
「戦える。お前は強い。ガルドも……そう言うはずだ」
シャーリーは目を閉じ、小さく息を吸った。
「……はい」
セシリアが二人のもとへ歩いてきた。
「準備は順調ね。でも、油断は禁物よ。皇国軍がいつ来てもおかしくないわ」
ラースとシャーリーは頷いた。
砦の空気は、静かでありながら、どこか張り詰めていた。
――嵐は、確実に近づいている。




