第4話 将軍任命。そして“死に戻り”をセシリア姫へ告白
南方戦線での戦いが続く中、ラースとカインは目覚ましい戦果を挙げていた。
特にラースは、過去のループで得た経験を活かし、
神聖皇国軍の動きを完全に読み切っていた。
その戦果は前回を上回り、ついに――セシリア姫の天幕へ呼び出される。
天幕に入ると、セシリア姫は地図の前に立ち、静かにラースを見つめた。
「ラース。あなたの働き、すべて聞き及んでおります」
その声音は凛としていて、王女としての威厳があった。
「敵の動きを読み、味方を導き、幾度も戦況を覆してみせた……
あなたほどの者は、そうおりません」
ラースは膝をつき、頭を下げた。
「身に余るお言葉です」
セシリア姫は一歩近づき、真っ直ぐにラースを見つめた。
「ラース。あなたを――将軍に任じます」
ラースは息を呑んだ。
ついに、この時が来た。
「……ありがたく、お受けいたします」
深く頭を下げた。
だが胸の奥には、焦りがあった。
――黒騎士の情報が、何もない。
――このままでは、また同じ未来になる。
ラースは決意した。
セシリア姫に、死に戻りを告白する。
「セシリア様……内密に相談したいことがございます。
お人払いをお願いできますか」
ラースの真剣な表情に、セシリア姫は少し驚いたように瞬きをした。
だがすぐに頷き、侍女と護衛の女戦士たちに静かに命じた。
「皆、席を外して。……しばらく二人きりにしてほしいの」
その声音は柔らかいが、王女としての威厳を帯びていた。
天幕に静寂が訪れる。
ラースは深く息を吸い、これまでの全てを語り始めた。
死に戻り。
黒騎士の異常性。
未来の侵攻。王都陥落。
カインの死。
自分の死。
セシリア姫は最初、期待を含んだ表情で聞いていた。
だが話が進むにつれ、その表情は困惑へ、
そして最後には少し残念そうな色を帯びた。
ラースは不安になり、頭を下げた。
「……し、失礼なことを申し上げたのであれば、本当に申し訳ございません」
セシリア姫は小さく息をつき、頬をわずかに赤らめながら言った。
「違いますわ。あなたが人払いまでして真剣な顔をしていたから……
てっきり……その……わたくしに想いを告げに来たのかと……
少し、期待してしまいましたの」
ラースは固まった。
「い、いえ……その……申し訳ありません……」
「……謝らないでくださいませ。わたくしが勝手に期待しただけですわ」
セシリア姫は視線をそらし、ほんの少しだけ唇を尖らせた。
その仕草は、気品の中に年相応の可愛らしさが滲んでいた。
気を取り直し、二人は黒騎士について議論を始めた。
「額を矢で撃ち抜かれても、頭を黒焦げにしても動ける生物など……
聞いたことがございませんわ」
「黒騎士はアドル……とカインは言っていました。
ただ、アドルの失踪と村の襲撃には五年のズレがあります」
「禁術指定のネクロマンシー……蘇りの儀式の可能性も否定できませんわね」
だが、結論は出なかった。
死に戻りについても議論したが、「時渡りの秘法」の噂がある程度で、確証はなかった。
「可能性があるとすれば……皇国の“聖女”かもしれませんわ。
ですが、今は交戦中……会いに行くことは叶いません」
ラースは言った。
「もし次に戻ったら……どうすればセシリア様に早く会えますか?」
セシリア姫は少し考え、懐かしそうに微笑んだ。
「そうですわね……わたくしが五歳の頃、
王都のお祭りで護衛を巻いて抜け出して、迷子になったことがありましたの」
「……結構昔からやんちゃだったんですね……」
「うるさいですわよ?」
セシリア姫は頬を膨らませた。
そして、ふと思いついたように言った。
「ラース、手を出して」
ラースが手を出すと、セシリア姫は掌に魔力の珠を作り、そっとラースの手に乗せた。
「受け入れてくださいませ」
ラースが意識を向けると、魔力の珠はスッと吸収された。
体がぽかぽかと温かくなる。
「今度は、それを出してみて」
ラースは掌に意識を集中し、魔力の珠を作り出した。
セシリア姫は微笑んだ。
「記憶や魔力量は引き継がれるのでしょう?なら、過去のわたくしにこう言うのですわ」
セシリア姫は片膝をつき、手を差し出す仕草をしてみせた。
「“貴女のために参上いたしました”と」
「……えっ」
「やってみなさいな」
ラースは顔を赤くしながら片膝をつき、魔力の珠を掌に浮かべた。
「……貴女のために参上いたしました」
セシリア姫はその珠に手を重ね、優しく微笑んだ。
「これからも……よろしくお願いいたしますわね、ラース」
その瞬間、ラースの胸が熱くなった。
この日を境に、二人が語り合う時間は増え、侍女たちの間で噂になったという。




