第5話 再び“あの戦い”へ。黒騎士の異常性と絶望
王都ランスの西側。
帝国軍の黒い波が、城壁へ向かって押し寄せていた。
ラース率いる一軍は、その背後を討つために森を抜け、
丘を越え、ついに帝国軍の背後へと迫っていた。
「あと半日で王都ランス……」
ラースは馬上で息を整えた。
――ここからが本番だ。
――カインを黒騎士に近づけさせない。
そのために布陣を整え、カインには後方支援を命じている。
「突出するなよ、カイン」
「ラースさんは心配性だなぁ。大丈夫ですよ」
その笑顔が、胸に刺さる。
昼過ぎ。王都ランスの西側から、帝国軍が攻撃を仕掛けているのが見えた。
ラースは剣を掲げた。
「――突撃!!」
ラース軍が帝国軍の背後から襲いかかる。
奇襲は成功し、帝国軍の陣形が大きく乱れた。
「押し込め! 前へ!」
ラースの号令で、兵たちが一斉に前進する。
その時――
視界の奥に、黒い影が見えた。
黒い鎧。
異様な存在感。戦場の空気が一瞬で凍りつく。
黒騎士。
ラースの背筋が凍りついた。
「……来たか……」
その瞬間、ラースの叫びより早く、カインが馬を走らせていた。
「カイン!! 行くな!!」
だが、カインは止まらない。
――まただ。
――また同じ未来が迫っている。
ラースは歯を食いしばり、指先にマナを集めた。
「大火球―!」
ラースは黒騎士めがけて大火球を放つ。
轟音と共に、黒騎士と周囲の兵を巻き込んだ炎が立ち上がる。
炎柱が天へ伸び、熱風が戦場を駆け抜けた。
「……やったか……?」
兵たちが息を呑む。
炎が消える。
そこには――
何事もなかったかのように立つ黒騎士の姿があった。
「……嘘だろ……」
ラースの背中に冷たい汗が流れた。
黒騎士が動いた瞬間、カインが馬を加速させた。
「カイン!! 戻れ!!」
叫びは届かない。
カインは敵兵をなぎ倒し、一直線に黒騎士へ向かう。
ラースは弓を構えた。
「せめて……援護だけでも……!」
矢が黒騎士へ飛ぶ。
カインの剣が一閃し、黒騎士の鉄仮面が弾き飛んだ。
仮面が地面に転がる。
その瞬間――
カインの動きが止まった。
「……アドル……?」
驚愕と混乱が入り混じった声。
ラースは叫んだ。
「カイン!! 動け!!」
だが、遅かった。
黒騎士の剣が、カインの胸を貫いた。
「……あ……」
カインの身体が馬上で揺れ、そのまま地面へ崩れ落ちる。
「カイン!!」
ラースは馬を走らせながら叫んだ。
胸が張り裂けそうだった。
――まただ。
――また救えなかった。
ラースは怒りと絶望を押し殺し、声を張り上げた。
「弓兵隊!! 魔導士隊!!敵黒騎士に攻撃を集中!!」
無数の矢が黒騎士を貫き、火球が次々と炸裂する。
黒騎士はハリネズミのように矢を受け、炎に包まれた。
「……倒れろ……倒れてくれ……!」
ラースは祈るように呟いた。
炎が収まる。
黒騎士の顔は黒焦げになっていた。
「……やった……か……?」
ラースは息を吐いた。
その瞬間――
黒焦げの黒騎士が、煙の中から飛び出してきた。
「なっ……!」
周囲の兵たちが吹き飛ばされる。
ラースは剣を構えたが――
間に合わなかった。
黒騎士の剣が、ラースの胸を貫いた。
「……なんで……」
馬から落ち、背中を強く打ちつける。
「ぐぼっ……」
血を吐いたところで、ラースの視界は暗転した。
――また、救えなかった。




