第4話 ラース、将軍へ。カインを守るための布陣
黒づくめ部隊との遭遇から数ヶ月。
ラースとカインはセシリア姫の部隊に正式に加わり、南の国境での戦いに身を投じていた。
神聖皇国との小競り合いは絶えず、前線は常に緊張に包まれている。
だが――
ラースには“確信”があった。
この戦いは、前回と前々回の経験がそのまま活きる。
敵の動き、魔物の出現位置、神聖皇国の魔導士隊の癖、指揮官の判断パターン。
すべてが、ラースの記憶と一致していた。
ある日、南方の砦に神聖皇国軍が迫った。
「敵は北側の森を抜けてくる。魔導士隊は後方に控えているはずだ」
ラースは即座に判断した。
カインが驚いたように言う。
「ラースさん、どうしてそこまで分かるんです?」
「……勘だよ」
本当は“経験”だが、説明できるはずもない。
ラースの読みは的中し、伏兵を配置していたラース軍は敵の魔導士隊を奇襲。
神聖皇国軍は混乱し、撤退を余儀なくされた。
その戦果は大きく、セシリア姫の耳にもすぐに届いた。
戦後、ラースは本陣に呼び出された。
天幕に入ると、セシリア姫が地図の前で待っていた。
「ラース。あなたの働き、聞いているわ」
姫は静かに言った。
「あなたの戦術は、まるで未来を見ているかのよう。
敵の動きを完全に読んでいる」
ラースは胸が痛んだ。
――未来を知っているのは事実だ。
だが、それを言うわけにはいかない。
「……ただの経験です」
「謙遜は不要よ」
セシリア姫は微笑んだ。
「ラース。あなたを――将軍に任命します」
ラースは息を呑んだ。
ついに、この時が来た。
カインを黒騎士と戦わせないための、唯一の道。
「……ありがたく、お受けいたします」
深く頭を下げた。
その後、カインも呼ばれた。
「カイン。あなたはラース将軍の副将として働いてほしい」
「えっ、ラースさんが将軍に……?」
カインは驚きつつも、嬉しそうに笑った。
「すごいじゃないですか、ラースさん!」
ラースは微笑んだ。
「お前の力も必要だ。頼むぞ、カイン」
――だが、絶対に黒騎士とは戦わせない。
胸の奥で、強く誓った。
将軍となったラースは、まず“布陣”を整えた。
カインを黒騎士の進路から遠ざけるための布陣だ。
・カインの部隊は常に後方支援
・黒騎士が出現しやすい前線にはラース自身が立つ
・魔導士隊と弓兵隊を厚く配置し、黒騎士の接近を阻む
・カインには「敵将との直接戦闘は禁止」と命令
カインは不満そうだった。
「ラースさん、俺はもっと前に出られますよ」
「お前は部隊の要だ。無駄に危険を冒すな」
「……分かりました」
カインは渋々引き下がったが、ラースの胸は痛んだ。
――すまない。
――だが、お前を死なせるわけにはいかない。
布陣を整え、戦果を挙げ続けるラース軍。
だが――
運命は静かに迫っていた。
南の神聖皇国軍が再び活発化し、西のドラグーン帝国も動き始めた。
そして半年後。
「西の国境が突破されました!」
伝令の声が響く。
天幕の中で、セシリア姫は険しい表情を浮かべた。
「……また、二国同時侵攻……」
ラースは息を呑んだ。
――来た。
――あの戦いが、また来る。
セシリア姫は地図を指し示した。
「神聖皇国軍を押し返した隙に、ラース将軍の一軍で帝国軍の背後を討つ。
これしか王都を救う道はないわ」
ラースは静かに頷いた。
「承知しました」
だが胸の奥では、冷たいものが広がっていた。
――また、あの戦場へ行く。
――黒騎士がいる。
――カインが突っ込む未来が待っている。
ラースは拳を握りしめた。
「……絶対に、カインを戦わせない」
その決意だけが、闇に沈みそうな心を支えていた。




