第1話 2年後――少年は青年へ、仲間は自立へ
あれから、二年が過ぎた。
王都の空気は変わらない。
だが、ラースの背は伸び、 肩幅は広くなり、
歩く姿には“冒険者”としての風格が宿っていた。
ギルドの受付嬢が、 書類をめくりながらふと呟く。
「……ラース君、そろそろBランク候補に挙がるわね」
その言葉に、 周囲の冒険者たちがちらりと視線を向ける。
「またあの若造かよ……」
「いや、実力は本物だ。文句は言えん」
「二年でここまで来るとはな……」
ラースはその視線を気にする様子もなく、
淡々と依頼報告の書類にサインをしていた。
(……まだまだだ。 もっと強くならないと)
その心は、 二年前と変わらない。
王都の外れにある孤児院。
かつては荒れた建物だったが、
今は子どもたちの笑い声が響く、 温かい場所になっていた。
ラースが扉を開けると、 トムが大きく手を振った。
「おーい、ラース! 帰ってきたか!」
レオは薪を割っており、 ミーナは洗濯物を干し、
エマは小さな子どもたちに読み書きを教えていた。
(……みんな、強くなったな)
ラースが何も言わずとも、 孤児院は回っている。
トムは力仕事で重宝され、 レオは商店の丁稚として働き、ミーナは裁縫の腕を買われ、エマは読み書きの教師として村の子どもたちに頼られている。
「ラース兄、今日は泊まってく?」
「ご飯いっぱいあるよ!」
「この前の依頼の話、聞かせて!」
子どもたちが群がると、 ラースは少し照れたように笑った。
「今日は顔を見に来ただけだ。 また今度な」
院長は微笑みながら言う。
「あなたがいなくても、この子たちはもう大丈夫よ。
あなたが教えた“生きる力”が根付いているから」
ラースは静かに頷いた。
(……そうだな。 もう、俺がいなくても)
胸の奥に、 誇らしさと、 ほんの少しの寂しさが混ざった感情が広がった。
ギルドでの依頼は順調だった。
中型魔獣の討伐
商隊護衛
行方不明者の捜索
小規模な盗賊団の排除
どれも確実にこなし、 失敗は一度もない。
ギルド内では、 “若手のエース” と呼ばれるようになっていた。
だがラース自身は、 その呼び名に興味を示さない。
(……強くなる理由は、別にある)
胸の奥にある“守りたいもの”。
それが、ラースを前へ進ませていた。
二年前のラースなら、 依頼と鍛錬だけで一日が終わっていた。
だが今は違う。
依頼の合間に、 ふと空を見上げる余裕がある。
孤児院の子どもたちと話す時間もある。
そして―― 最近は、 ある“楽しみ”に夢中になっていた。
(……あの温泉、今日も行けるか)
ラースの口元に、 珍しく柔らかい笑みが浮かんだ。




