第4話 村への帰還――異界の気配が消えた森を抜けて
洞窟が消えた場所をしばらく見つめた後、ラースはゆっくりと馬のもとへ戻った。
森の空気は、まるで何事もなかったかのように澄んでいる。
(……本当に、消えたんだな)
風が木々を揺らし、 鳥の声が戻ってきていた。
つい数刻前までの、 あの“圧迫感”はどこにもない。
ラースは馬の首を軽く撫で、 村へ向かって歩き出した。
村の土塀が見えてくると、 門番がこちらに気づき、 驚いたように目を見開いた。
「ラース殿! 森の様子は……どうだった?」
ラースは軽く頷いた。
「歩いて二刻ほどの範囲では、異常はありませんでした。
魔獣の気配も、完全に消えています」
門番は胸を撫で下ろし、 深く息を吐いた。
「そうか……! よかった……本当によかった……!」
その声には、 昨日までの重苦しさがなかった。
(村の方でも、何か変化があったな)
ラースはそう感じながら、 村長宅へ向かった。
扉を叩くと、 昨日よりも明るい声が返ってきた。
「……入ってくれ」
ラースが報告を伝えると、
村長は椅子から立ち上がり、 震えるほどの安堵を見せた。
「やはり……!
村の周囲でも、魔獣がぱったりと出なくなったんだ。
朝から誰も襲われていない。
畑にも痕跡がない!」
村長は深く頭を下げた。
「ラース殿…… あなたのおかげで、村は救われた。
本当に……本当にありがとう」
ラースは静かに頷いた。
「……いえ。やるべきことをしただけです」
だが、胸の奥には “説明できない違和感” がまだ残っていた。
洞窟。 顔のない狼。 首を落とした瞬間に消えた影。
(……あれは何だったんだ)
村長は続けた。
「魔獣が消えた理由は分からんが……
森の気配が、元に戻ったのは確かだ。
村の者たちも、皆ほっとしている」
ラースは軽く息を吐いた。
(……異変は収まった。今はそれで十分だ)
村長宅を出ると、 村人たちが遠巻きにラースを見ていた。
昨日までの怯えた視線ではない。 どこか、 “救われた者の目” だった。
「魔獣が出なくなったって本当か?」
「森の方、静かになったよな……」
「助かった……本当に助かった……」
ラースが軽く会釈すると、 村人たちは深く頭を下げた。
(……よかった)
胸の奥に、 静かな温かさが広がった。
村長から正式に依頼完了の言葉を受け、
報酬を受け取ったラースは、 馬のもとへ戻った。
森の方を振り返る。
(……洞窟はもうない。
でも、あれは確かに“存在した”)
風が吹き、 木々がざわめく。
まるで、 森そのものが 「もう大丈夫だ」 と告げているようだった。
ラースは馬に跨がり、 静かに呟いた。
「……依頼完了、だな」
馬の背が揺れ、 村を後にする。
奇妙な体験は、 まるで夢のように思えた。
だが―― 胸の奥に残る違和感だけは、 消えなかった。
(……あの洞窟。 あれは一体……)
ラースはその疑問を胸にしまい、 国境付近の町へ向かって馬を走らせた。




