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海辺の小さな診療所 〜昭和生まれの元ベテラン看護師は、今日もドラゴンを養っている〜

作者:平木明日香
最新エピソード掲載日:2026/05/31

目が覚めると、そこは見知らぬ海辺だった。

砂浜に打ち上げられていたのは、二十代の若い娘の姿になったひとりの女性。
けれどその中身は、六十年以上を生き、病院の夜勤も、急変も、看取りも、理不尽なクレームもくぐり抜けてきた昭和生まれの元ベテラン看護師――佐伯澄江だった。

転生した先は、剣と魔法が息づく異世界。
王都では魔法医師が傷を癒やし、魔石灯が夜を照らし、貴族たちは高価な薬を求める。
しかし、彼女が流れ着いた辺境のルカ島には、そんな便利なものはほとんど届かない。

本土から船で数日。嵐の季節には外界から切り離される、小さな漁師の島。
水は井戸と雨に頼り、薬は足りず、診療所は長く放置され、島民たちは病気も怪我も「我慢」と「祈り」で乗り越えてきた。

そんな島で、彼女はひょんなことから古びた診療所を任されることになる。

「まず手を洗いなさい」
「熱がある子に根性論を持ち込むんじゃありません」
「傷を川の水で洗った? ……ああ、そう。じゃあ今からお説教と処置を同時にするよ」

若い身体に、おばあちゃんのような口調。
魔法は使えない。けれど、観察する目がある。
限られた道具で工夫する知恵がある。
患者の嘘や我慢を見抜く勘がある。
そして何より、命のそばに立ち続けてきた看護師としての経験がある。

釣り針が刺さった少年。
熱を出しても働こうとする漁師。
迷信を信じて薬草を飲みすぎた老人。
出産を前に不安を抱える若い母親。
本土から来た役人、頑固な薬草師、祈ることしかできないと悩む神官。

一人、また一人と診療所の扉を叩く島の人々に、彼女は時に叱り、時に笑い、時に寄り添いながら向き合っていく。

どれほど世界が広くても、彼女がまず守りたいものは変わらない。

今日の水を沸かすこと。
傷口を清潔にすること。
温かい粥を食べさせること。
眠れない患者のそばに座ること。
そして、お腹をすかせたドラゴンに魚を食べさせること。

魔法では救えない命がある。
奇跡では支えられない暮らしがある。
だからこそ、海辺の小さな診療所には今日も灯りがともる。

昭和生まれの元ベテラン看護師が、異世界の辺境で島の命と暮らしを支えていく、
あたたかく、少しにぎやかで、時々お腹が空く、海辺の医療スローライフ・ファンタジー。
前書き
ルカ島
2026/05/31 11:21
アドリア海
2026/05/31 11:21
四大陸環海
2026/05/31 11:24
第一章 潮風と海辺
プロローグ
2026/05/31 11:46
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