7.5話
肩まで伸びた髪の毛を頭上の天使の輪で括り、ポニーテールに纏める。
マリアとイデルバから貰った食材をバスケットから取り出して、幼い頃からふわふわ飛んでいる五色を使って火を付ける。
水は青色。 光は黄色、みんなに内緒の不思議な力。
コトコトと台所から小気味のいい音が響き、甘い香りが煙突から登り始める。するといつものように匂いにつられた家族が家の上空で影を作る。
「嗅ぎ付けるのが早いなぁ」
朝陽が陰り、カタカタと揺れ出す家。
カナリアが火を消してからエプロン姿で外に出ると上空に体長十メートルは優に超える鳥が餌を咥えてゆっくりと降りてきていた。
「おはようサムクル! 今日もでかいの仕留めたね」
煌びやかで美しい緑の羽に牛すら簡単に運べてしまいそうな大きな嘴と爪。
狼の様に鋭い黄金色の眼光は生態系の頂点と思わせるほどの風格。
その姿を鳥と形容するにはあまりにも規格外だろう。
しかしそんなサムクルもカナリアを目にした途端、大切な餌を落として雛の様な鳴き声で頭をこすりつけて甘え出す。
「ちょいちょい、大っきくなっても甘えん坊なんだからなぁ。 本当にダメな子だなぁ〜」
雛の時から育て、野生に返す為に色々とやってはみた。
でも甘えられると突き放せなく、結局カナリアは根負けしてしまった。
今では自分で餌も取ってくる。だからもう、追い出す理由もない。
昔とは違って硬い体羽を両手で包み込み頬擦りをしてあげていると、後ろから何かが勢いよく抱きついてきた。
「んんー」
唸り声を上げながらカナリアの背中に抱き付き頬擦りをしいるのはカナリアより若干身長が高い少年。
弟のインバードだった。
「おはようインバード、今日は一人で起きれて偉いね」
太陽の様な優しい微笑みを浮かべて頭を撫でるカナリアに瞼の開かないインバードは笑顔で答えた。
「へへ、おはよ! おねーちゃん! サムクル!」
いつも通りでカナリアは安堵する。
インバードは普通の天使とは容姿が大きく異なり、天使の輪もなければ羽もない。
他とは違う異質な容姿。 だけどインバードは私の弟だ。
過去を思い出したカナリアは弟に憐憫の眼差しを向けて、声音だけは平然を装って抱きしめる。
「昨日から仕事でいなかったけど一人で大丈夫だった?」
「うん、おねーちゃん! サムクルがいるから一人でも平気だったよ! それよりもさ、僕すごい特技を身につけたんだ!見てみて!!」
「えぇ本当!? すっごく楽しみ! だけど今はご飯が先よ? サムクルもさっきからお腹をすかせて今にも泣きそうだし」
強引にカナリアの右手を引っ張るインバードの変わらない幼さに微笑みを浮かべつつ、空腹で俯き始めたサムクルの方を気に掛けてあげるとサムクルは弱々しく鳴き声を上げた。
「あ! ごめんねサムクル。 じゃあ早くご飯早く食べよ!」
「はいはい」
「グェ!」
当たり前が増えていく日常、どれだけ耐え難い過去があろうとも大丈夫。
少しずつでいい。
私は確かに、今を人生で一番幸せに生きていると思っているから。




