18話
「だったら! 天使が嫌いなんて言うなよ! だったら、俺たちを助けた理由を何となくで言い切るなよ!」
目の奥が熱くなる。
メルフィの中途半端な優しさが信じないインバードには、どうしようもなく彼女の発言が気持ち悪かった。
言い切ったインバードが両手で目を覆う。
メルフィが椅子を小さく軋ませる。
「嘘じゃないもの。 矛盾が私よ? 天使が嫌いな上で、あなた達は――アンリユとあなた達は私にとってかけがえのない、特別なの」
くしゃっと笑うメルフィ。 夕日が今更この部屋に差し込んだ。
「そう……。 メルフィ、貴方は優しいのですね」
「それは顔を引き攣らせながら言う言葉ではないと思うよ? いや、私のせいでそう言う環境になってしまったんだもんね……ごめん」
苦虫を噛み潰したような顔をするメルフィの表情にインバードは不思議な既視感を感じながら涙を拭う。
「別にそれについては先ほど理解しましたのでこれ以上責めるつもりはございません。 とにかくこれを伝えると姉が心配するので言わなかっただけです。 別に演じてるのも悪意はないですよ? ただ僕は姉が笑顔でいてくれる僕が好きなだけなので」
深く息を吐いて、改めて落ち着いた口調に戻るインバードは隣で眠る姉の前髪を指で流し、十字架の刻まれた金色の瞳に切なさを滲ませる。
「確かにね。 その神眼を見たらカナちゃんはきっと君との血の繋がりに疑念を持ってしまうかもしれないし、何より神の血を引いている事が天使にバレて君は直ぐに神殿に保護されて離れ離れになってしまうだろう」
再度椅子に腰掛けるメルフィは、困ったように肩を落とす。
「……はい。 姉が母から教わっていた都市の構造や神様の特徴については僕もよく聞かされていましたので……湖で初めて自分の瞳を見た時すぐに気がつきましたよ。 僕が神の子だって……最初は隠し通そうともしましたがーー」
「手の甲の紋様が浮かび上がっていよいよ嘘を突き通せなくなってしまったってことか、優しさ故の嘘。か……難儀だな君ら姉弟は」
メルフィは鼻を鳴らしてから、インバードが目を逸らし続けている現実をさも当然の様に問う。
「それでこれからどうするつもり? このままってわけにもいかない事ぐらいわかってるんだろ? この廃楽園で正常な時点で君はもう天使ではない」
「その言い方だとお姉ちゃんが眠ってるのって――」
「まぁ、天使。 だからだね」
「――」
いずれは向き合わなくてはならない現実。
それを問うメルフィに、インバードは先程までの悪辣な表情を一変させ、前屈みになって目を霞ませた。
「お姉ちゃんとは、ずっと一緒に居られないんですよね?」
「――天使と神とじゃ生きる歩幅が違う。 ずっとの定義しだいだが、難しいだろうね」
「ですよね。 でも、今はまだ姉さんには俺の正体を明かすつもりはありません。 いずれが分かっているなら、今だけは大切にしたいんです」
急いで答えを出せばそれだけで気持ちの持ちようは変わってくる。
「今を大切にするなら敢えて変わらない、考えないと言う選択肢を選ぶのも悪くはないとは思う」
メルフィは姉弟の姿をどこか遠い目で見つめて、地面につかない両足を揺らす。
「実際神と天使のハーフなんて……歴史上初めてだから私にも分からないんだよね、 ただそれでもインくんはこれから神様として覚醒していくだろう。 だからいつまでもこのままじゃいられないことだけは肝に銘じる様にね」
浮かない表情でメルフィが念押しをするとインバードは小さく「はい」と二つ返事をした。




