34話 六日目 その4
『レガリア・サプレッション』一般戦男子。
この競技には、兼任として風馬純次、盾宮勉、そして『シュリンク・サバイバル』を最後まで生き残った坂口の三名が出場している。
「決勝だな、盾宮。ここで勝たないと、また二位に落ちるぞ」
「ああ。女子はせっかくシードを取っていたのに、二回戦で敗退したからな。俺たちは勝たないといけない」
坂口の言葉に、勉は腕を組んだまま答えた。
「それにしても、やっぱり業天は強いな。去年、この競技で明星学園を倒したのもアイツらだったか?」
「そうだ。特に『レガリア・サプレッション』では無類の強さを誇っている。今年も、新人戦女子と一般戦女子の両方で優勝しているからな」
「マジで化け物じゃねぇか。よく鬼龍院たち勝てたな……。なぁ風馬、これプレッシャーやばくね?」
「は、はい……」
純次は緊張した面持ちで頷く。
「おいおい、ガチガチじゃねぇか。昨日の負けを引きずってんのか? まあ気持ちは分かるけどよ、硬くなりすぎんなって!」
坂口は笑いながら、純次の肩をバシバシ叩いた。
「痛いですって、坂口先輩!」
肩を押さえながら、純次は抗議する。
そんなやり取りを横目に、勉は静かに立ち上がった。
「時間だ。行くぞ、坂口、風馬」
「おう。風馬はともかく、僕たちは最後の大会だ。せっかくだし楽しもうぜ!」
坂口は軽い調子でそう言って、勉の後を追う。
「ちょ、ちょっと待ってください、先輩!」
純次も慌てて二人を追いかけた。
*****
草原エリア。
開けた地形で、障害物は一切ない。身を隠せる場所もなく、腰丈ほどの草が一面に揺れているだけだ。
つまり――純粋な実力が、そのまま勝敗に直結するエリアだった。
前衛である勉が、『要塞化』を発動しながら前進する。
半透明の波動障壁が壁のように展開され、吹き荒れる攻撃を正面から受け止めていた。
「いやー、すんごい暴風だな」
勉の後ろで、坂口が呑気そうにそんな感想を漏らす。
その言葉通り、凄まじい暴風が草原を蹂躙していた。
障壁の範囲外へ出れば、立っていることすら難しい。
試合開始直後、相手の風使いが真っ先に前へ出て能力を解放した結果、戦況は完全な硬直状態に陥っていた。
「ですが、このままでは埒があきません。どうしますか?」
純次が声を張り上げ、勉へ問いかける。
「俺が暴風を抑える。その隙に、坂口と風馬が前に出て攻撃を仕掛ける。それが無難だろう」
「まあ、それしかないよな」
坂口は軽い調子で返しながらも、目だけは鋭く前方を見据えていた。
「当然、向こうもそれは読んでるはずだ。風使いを守るために、残りの二人も前に出てくるだろうな」
「打開するには、それしかないでしょう」
純次も覚悟を決めた表情で同意する。
「では――三カウントで行く」
二人は静かに頷いた。
「……三」
「……二」
「……一――散」
合図と同時に、二人は障壁の範囲外へ飛び出す。
それと同時に、勉が両手を大きく広げた。
「―― 『要塞化』」
瞬間。
暴風そのものを囲い込むように、巨大な波動障壁が展開された。
荒れ狂っていた風が内側へ閉じ込められ、草原が一気に静まり返る。
「やっぱり出てきたか……」
暴風が封じられた直後。
風使いを守るように、残る二人の敵前衛が姿を現した。
「……しゃらくせぇ」
坂口は愛剣を握り締め、一気に駆け出す。
純次はその後方へ回り、援護位置についた。
「支援します。あんまり無茶しないでくださいよ!」
そう苦言を漏らしながら、複数の苦無を連続で投擲する。
「土流壁」
一人は自分を守るために、土を隆起させて壁を作り苦無を防ぐ。
「――完全武装」
もう一人も能力を起動させる。
全身を覆う鉄の鎧が形成され、同時に巨大な剣が生成された。
「去年もいたな。『鉄生成』の能力者か」
坂口は口角を吊り上げる。
「残念だったな。俺とは相性最悪なんだよ!」
投擲された苦無を鎧で弾いた直後、鉄使いは坂口と鍔迫り合いに入った。だが――
「なっ!?」
甲高い音を立てて、生成した鉄剣が真っ二つに折れる。
鉄使いが唖然と目を見開いた、その瞬間。
暴風が唸りを上げた。
風使いが風圧を纏いながら、一気に坂口へ接近する。
「地動変」
同時に、もう一人の選手が地面へ手を叩きつけた。
「っ!?」
地面が激しく隆起する。
草原だったフィールドは一瞬で断層だらけの地形へと変貌した。
「分断させる気か!」
純次が驚愕の声を上げる。
隆起した地面によって、
純次と鉄使い。
坂口と風使い。
勉と土使い。
三組へと完全に分断された。
*****
「一瞬で能力相性を判断して、分断したのか」
勉は、この状況を作り出した土使いへ視線を向ける。
「そうだ。そして、この方法なら象徴機械を守りやすい。本当は君たちの方を大きく隆起させたかったんだが……それは無理そうだな」
「当たり前だ。俺の『要塞化』は、そこまで甘くない」
「だろうな!」
土使いは指を鳴らした。
その直後。
左右の地面が盛り上がり、巨大な土の腕が形成される。
そのまま挟み潰すように、勉へ襲いかかった。
だが勉は冷静に波動障壁を展開する。
轟音と共に、巨大な腕が障壁へ激突した。
「その能力……どこまで耐えられるか、見せてもらう!」
「……俺にかまけている暇があるのか?」
「なんだと?」
「俺に攻撃を仕掛けるより、他の選手の援護へ回った方がいいんじゃないか。ということだ」
絶対防御の障壁に守られているからか。
勉は淡々と、諭すように言い放つ。
「何が言いたい」
「……なに。坂口は勝てないことはあっても、絶対に負けない男だ」
勉は静かに続けた。
「そして風馬は、意地でも勝とうとする男だ。そんな奴らがいるなら、来年も安心して任せられる」
「イイ気になるなよ!」
土使いは吠える。
「今、アンタたちの象徴機械を捕捉している! このまま潰すことだってできる! それに、すぐ他の連中がお前の仲間を倒して、コア破壊に向かうはずだ!」
その言葉を聞きながら、勉は腕を組んだまま小さく呟いた。
「……忠告はしたぞ」




