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栄華を極めた筈の愛の王国の没落記  作者: ふーわ
第2章 公爵令嬢の誕生
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社交界への第一歩


招待客たちの入場もほぼ終わり、お披露目会はいよいよ開宴の時を迎えていた。


大広間の扉の前。

セレスティアは最後の深呼吸をする。


隣にはディモン。

今日はアルヴェイン家の長男として、そしてセレスティアの兄としてエスコート役を務める。




「セレス、手を」




短く言われる。

セレスティアは差し出された腕へそっと手を添えた。


騎士らしい鍛えられた腕だった。




「緊張しているか」


「少し」


「嘘だな」




また言われた。

どうして皆分かるんだろう。




「かなりです」


「そうだろうな」




ディモンは少しだけ口元を緩めた。

それから静かに言う。




「下を見るな」


「はい」


「転ぶな」


「はい」


「笑え」


「難しいです」


「努力しろ」




この兄は、揶揄いの多いサイラスとは違うが、時々無茶を言う。


だが、不思議と少しだけ緊張が和らいだ気がした。

まるでそれに合わせたかのように、大広間の扉がゆっくり開かれる。


眩しいほどの光。

煌びやかなシャンデリア。

並ぶ貴族たち。

何十もの視線。

その全てが入口へ向く。


先頭を歩くのはセオドアとヴィオレッタ。

筆頭公爵家当主夫妻。

堂々とした姿だった。


誰もが道を開ける。

その後ろ。

ディモンにエスコートされながら、セレスティアも歩き出した。


ざわり、会場の空気が揺れたのが分かる。




「……」




視線を感じる。


興味。

好奇心。

驚き。

探るような眼差し。


けれど、アシュレイの言葉を思い出す。


顔を上げる。

背筋を伸ばす。

アルヴェインの令嬢として、堂々と。


やがて中央へ辿り着く。

セオドアが振り返る。

そして会場を見渡した。




「本日はご多忙の中、我が娘、セレスティア・フォン・アルヴェインのためにお集まりいただき感謝する」




静かな声だった。

しかし大広間の隅々まで届く。




「どうか今後とも変わらぬご厚誼を願いたい」




短い挨拶。

続いてヴィオレッタが微笑む。




「本日は楽しんでいただければ幸いですわ」




優雅な礼。

それで十分だった。


そして、楽団が演奏を始める。

それが、お披露目会の開始だった。


最初のダンスは、主役の特権であり義務でもある。

ディモンが静かに向き直る。




「行くぞ」


「はい」




セレスティアは手を取られる。

音楽が流れる。


練習した。

何度も。

足を踏んで。


サイラスに笑われて。

アシュレイに叱られて。

ヴィオレッタに励まされて。


だから大丈夫。


一歩。

また一歩。

ディモンは驚くほど踊りやすかった。


無駄がなく、力強い。

そして、何より安定している。




「……上手くなったな」




不意に言われる。




「兄上たちのおかげです」


「努力したのはお前だ」




短い言葉。


でも、嬉しかった。


曲が終わり、拍手が起こる。

アシュレイも目を細め、拍手をしているのが見えた。


思わずほっとしていると。




「次は父上だ」




ディモンが言った。

中央で待っていたセオドアへ引き継がれ、周囲が少しざわつく。


当主自ら踊る。

それだけ、このお披露目会が重要なのだ。




「緊張は取れたか」




セオドアが尋ねる。




「少しだけ」


「なら十分だ」




曲が始まる。

セオドアのダンスは、ディモンとはまた違った。


洗練されている。

長年の経験がある。

自然で、隙がない。




「皆がお前を見る」




静かな声。




「だが、それを恐れる必要はない」




セレスティアは父を見る。




「見る価値があるから見るのだ」




その言葉に、少しだけ目が熱くなる。


曲が終わり、再び拍手。

そして、次に現れたのは。




「お待たせ、妹君」




満面の笑みのサイラスだった。




「待ってません」


「冷たいなぁ」




言いながら手を差し出す。


セレスティアは思わず笑った。

その笑顔を見てなのか、サイラスも満足そうに笑う。




「それでいい」


「え?」


「さっきまで硬かったよ」




灰青の瞳が細められる。




「今の方がずっと綺麗だよ」




不意打ちだった。




「っ」


「照れた」


「うるさい」


「可愛い」


「うるさいです」




そんな会話をしながら踊る。


一番練習相手になってくれたがサイラスなこともあってか、自然と緊張がほどけていく。

気づけば、周囲の視線も怖くなくなっていた。


その時だった。

ダンスの輪の向こう。


王家の席が見える。

国王。

王妃。

そして、王太子。


若い金髪の少年が、こちらを見ていた。

まるで目を離せないというように。

真っ直ぐにセレスティアだけを見つめながら。


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