第8話 王城の無能な返答が街をさらに不安にする
広場の混乱が少し落ち着いた頃、街の中心にある掲示台の前へ人々が集まり始めた。
ざわついた空気の中で、役人が何度も書状を確認しながら落ち着かない様子で立っている。
その手はわずかに震え、紙の端がかすかに揺れていた。
魔力の乱れは、広場の空気をさらに重くしていた。
風は流れを失い、建物の影が濃く伸びている。
まるで、街全体が息を詰めているようだった。
「王城からの通達だってよ」
「やっと何か言う気になったのか……」
「今さら何を言うんだか……」
人々の声が広場に広がる。
期待というより、諦めに近い色が混ざっていた。
役人は深く息を吸い、震える声で書状を読み上げた。
「え、えー……王城より、街の皆様へ。現在発生している魔法の不安定な状態は、一時的なものであり……聖女エレナ様の加護によって、まもなく収束する見込みである……とのことです」
読み上げた瞬間、広場の空気がざわりと揺れた。
「一時的?どこがだよ!」
「加護があるなら、なんで道具が壊れ続けてるんだ!」
「見込みって……何も解決してないじゃないか!」
人々の声は、怒りと呆れが混ざり合っていた。
役人は紙を握りしめたまま、困ったように視線を落とす。
「わ、私も……詳しいことは……その……」
役人自身も不安を隠せていない。
だが、王城からの命令で余計なことは言えないのだろう。
その口は固く閉ざされ、ただ書状を読み上げるだけだった。
私は人々の反応を静かに見つめていた。
怒りの声が広場を満たし、魔力の乱れがさらに強くなっていくのを感じる。
空気が重い。
胸の奥に、ざらりとした感触が残る。
魔力の流れが、街の中心で渦を巻いている。
まるで、王城の言葉そのものが乱れを増幅させているようだった。
「聖女様の加護があるって言うなら、どうして灯りが消えるんだよ!」
「昨日なんて、家の魔法暖炉が勝手に止まったんだぞ!」
「王城は何を見てるんだ……街の状況を知らないのか?」
人々の声は止まらない。
その声は、広場の空気を震わせるように広がっていく。
私は静かに息を吸った。
王城の返答は、街の不安を和らげるどころか、さらに煽っている。
魔力の乱れは、言葉ひとつで変わるほど単純ではない。
それを理解していない王城は、状況を悪化させるだけだ。
広場の端にある魔法灯が、また弱々しく明滅した。
光が途切れ、影が揺れる。
人々の視線が灯りへ向かう。
「ほら見ろ!全然収束してないじゃないか!」
「加護があるなら、なんでこんなことになるんだよ!」
「王城は嘘ばっかりだ!」
怒りの声が広場を満たす。
私は灯りの揺らぎを見つめながら、王城の愚かさを静かに理解した。
――この国は、自分で崩れていく。
魔力の乱れは、街の奥へ進むほど強くなっている。
空気が重く、風が迷い、広場のざわめきが不穏な波のように広がっていく。
王城の通達は、街の不安を増幅させただけだった。
役人が書状を読み終えたあと、広場には妙な沈黙が落ちた。
怒号でも悲鳴でもない。
ただ、誰もが言葉を失い、互いの顔を見合わせている。
その沈黙は、風の流れを奪われたように重かった。
やがて、ぽつりと誰かが呟いた。
「……つまり、何もしないってことか?」
その一言が、広場の空気を再び揺らした。
「収束する“見込み”って……見込みって何だよ」
「祈りがあるなら、どうして家の魔法炉が止まるんだ?」
「王城は状況を知らないんじゃなくて、見ようとしてないんだろ」
声は次々と重なり、広場の空気を震わせていく。
役人は書状を握りしめたまま、困ったように視線を落とした。
彼自身も、王城の言葉を信じているわけではないのだろう。
その肩はわずかに震え、広場のざわめきに押しつぶされそうになっていた。
私は人々の声を聞きながら、広場の端へ視線を向けた。
魔法灯がまた弱々しく揺れた。
光が途切れ、影が地面に長く伸びる。
その揺らぎは、まるで街の心臓が不規則に鼓動しているようだった。
魔力の乱れは、王城の通達を受けてさらに強くなっている。
空気の密度が増し、胸の奥がざらりとする。
広場の中央にある噴水の水面が、風もないのに波打った。
魔力が水を揺らしているのだ。
「また水が濁ってきてるぞ!」
「さっきリリア様が直したのに……!」
「これ、本当に“すぐ収まる”のか……?」
人々の声は、もはや王城への不信だけではなく、恐怖を含んでいた。
私は噴水へ歩み寄り、水面に手をかざした。
触れずとも、魔力の乱れが指先に伝わってくる。
水面の濁りは、街全体の魔力が不安定になっている証拠だ。
そっと魔力の流れを断ち切ると、水はゆっくりと透明さを取り戻した。
だが、その透明は、長くは続かないだろう。
私は手を引き、広場を見渡した。
人々は役人の周りに集まり、次々と質問を投げかけている。
「王城は本当に聖女様の加護があるって言ってるのか?」
「祈りの儀式が失敗したって噂はどうなんだ?」
「このままじゃ街が持たないぞ!」
役人は困ったように首を振るだけだった。
「わ、私には……その……」
彼の声は震えていた。
王城の言葉をそのまま伝えるしかない立場の者にとって、今の状況はあまりにも酷だ。
人々の不安は、広場の空気をさらに重くしていく。
魔力の乱れが、まるで人々の感情に反応しているようだった。
ざらついた風が広場を横切り、紙片が舞い上がる。
私はその風を感じながら、静かに思った。
――王城は、状況を理解していない。
魔力の乱れは、自然現象ではない。
聖女の祈りでどうにかなるものでもない。
それを理解しないまま「問題ない」と言い続ける王城は、街を守るどころか、混乱を広げている。
広場の端で、魔法扇が突然強風を吹き出した。
店主が慌てて布をかけるが、風は止まらない。
「まただ……!」
「どうしてこんなに頻繁に……!」
「祈りが届いてるなら、こんなこと起きないだろ!」
人々の声は、怒りと不安が混ざり合い、広場を満たしていく。
私は扇の前に立ち、手を添えた。
魔力の流れが断たれ、風が止まる。
店主が深く頭を下げた。
「助かりました……。もう、どうしたらいいのか……」
「魔力が乱れているだけです。私が触れれば静まります」
私は淡々と答えた。
それは事実であり、特別なことではない。
だが、人々の視線は私に集まる。
その目には、驚きだけでなく、王城への失望が混ざっていた。
「さっきから王城は何をしてるんだ……?」
「聖女様の加護があるって言ったじゃないか!」
「リリア様がいなかったら、街が崩壊するところだったぞ……!」
その声は、広場の空気を震わせるように広がっていく。
私は空を見上げた。
晴れているはずなのに、どこか薄い膜がかかったように濁っている。
魔力の乱れが、空気そのものを歪ませているのだ。
胸の奥に、ざらりとした感触が残る。
――この国は、自分で滅びを選んでいる。
王城の通達は、街の不安を和らげるどころか、さらに煽っていた。
魔力の乱れは、街の奥へ進むほど強くなっている。
広場のざわめきは、不穏な波のように広がり続けていた。
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