第44話 王都の魔法障壁崩壊
執務室の空気が落ち着き始めた頃、廊下の向こうから急ぎ足の音が響いた。
扉が勢いよく叩かれ、騎士の声が漏れる。
「閣下、緊急伝令です!」
公爵が視線を向けると、騎士が息を切らしながら入室した。
手には封蝋のついた巻紙。
王都からの正式な急報だ。
「落ち着け。内容を伝えろ」
公爵の声は冷静だが、奥に鋭さがあった。
騎士は深呼吸し、巻紙を開く。
「王都から急報です!複数の魔法障壁が同時に消失し、王都が混乱しています!」
胸が跳ねた。
魔法障壁は、王都の安全を守る最重要の防御。
それが“同時に消えた”という事実は、ただ事ではない。
「……魔法障壁が、消えた?」
思わず声が漏れた。
騎士は頷き、続ける。
「王都内の複数地点で、障壁が突然消失したとのことです。魔法塔からの補助障壁も機能していません。王都は大混乱に陥っています」
公爵は巻紙を受け取り、目を走らせた。
眉がわずかに寄る。
「魔法障壁が消えるなど、通常ではあり得ない。魔法体系そのものが崩壊している」
その言葉は、胸の奥に深く沈んだ。
魔法の仕組みそのものが不安定になり、流れが暴れ始めている。
研究院が避け続けてきた最悪の兆候だった。
騎士が続ける。
「王都では、魔法障壁の消失により、魔法通信が不安定になっています。魔法塔の出力が落ちている可能性があります」
公爵は巻紙を机に置き、静かに息を吐いた。
「魔法塔まで乱れているか……王都は魔法に依存しすぎた。魔法が崩れれば、何もできない」
その言葉は、王都の現状を端的に示していた。
私は胸の奥が強く揺れるのを感じた。
魔法障壁が消えた。
魔法塔が乱れている。
魔法通信が不安定。
そして、研究院は儀礼服を着て、紋章を掲げて、私を呼び戻しに来ている。
すべてが一本の線で繋がっていく。
「……公爵様」
「なんだ」
「魔法障壁が消えた理由、分かりますか」
「推測はできる」
公爵は机の上の布を指先で押さえた。
「魔法障壁は、魔法の流れを利用して維持されている。その流れが乱れれば、障壁は消える」
胸の奥がざわつく。
「魔法の流れが……乱れている」
「そうだ。魔法体系が崩れ始めている」
公爵は私へ向き直った。
「リリア殿。君の力は、魔法を“消す”力だ。魔法の流れを掴める者は、研究院にもほとんどいない」
胸が強く揺れた。
私が持つ“魔法を消す力”は、王都では欠点として扱われ、研究院からも疎まれるだけの存在だった。
けれど今、王都の魔法障壁が消え、魔法塔が乱れ、魔法通信が不安定になっている。
魔法体系が崩れている。
その崩壊と、研究院が私を呼び戻しに来ていることが、静かに繋がり始めていた。
「……私の力が、関係しているんでしょうか」
「関係している可能性は高い」
公爵は淡々と言った。
「魔法を消す力は、魔法の流れを“掴む”力でもある。魔法が乱れれば、君の力が必要になる」
騎士が続ける。
「閣下、王都では魔法障壁の消失により、魔法使いの負傷者も出ているとのことです。魔法の暴走が起きている可能性があります」
公爵は短く息を吸った。
「魔法の暴走か……研究院が最も恐れる事態だ」
胸の奥が強く締め付けられた。
王都では、私の力は評価されることなく、魔法中心の社会に合わない者として扱われてきた。
しかし今、魔法で築いた守りが次々と弱まり、王都が抱えていた脆さが表に出始めている。
魔法に依存しすぎた王都が、自滅し始めている。
「リリア殿」
公爵の声が静かに響く。
「研究院が君を呼び戻しに来た理由が、少しずつ見えてきたな」
胸の奥が揺れた。
「……魔法体系が崩れているから、私を……」
「そうだ。魔法を消せる者が必要なのだろう」
公爵は巻紙を机に置き、私へ向き直った。
「王都は魔法に頼りすぎた。魔法が乱れれば、王都は立てなくなる」
その言葉は、王都の現状を端的に示していた。
街の者たちが守ろうとしてくれた温かさとは対照的に、王都は魔法に依存しすぎた結果、自滅し始めている。
胸の奥が静かに揺れた。
王都で維持されていた防御の仕組みが次々と弱まり、魔法を支える設備も力を失い始め、魔法で行われていた連絡手段まで途切れがちになっている。
そして、研究院の使者。
すべてが、ひとつの方向へ向かっている。
その方向の先に、私がいる。
騎士が退室したあとも、執務室の空気は重く沈んでいた。
窓の外では、街の者たちが門の前で騎士と話しながら待機している。
その落ち着いた様子が、王都の混乱をより際立たせていた。
公爵は巻紙を机に置き、指先で軽く押さえた。
「リリア殿。王都からの伝令は、これで終わりではないはずだ」
その言葉が落ちた直後、廊下の向こうから再び足音が近づいてきた。
先ほどよりも急いでいる。
扉が叩かれ、騎士の声が響く。
「閣下、追加の報告が届きました!」
公爵が短く返す。
「入れ」
騎士が巻紙を抱えて入室した。
息を整えながら、巻紙を差し出す。
「王都の魔法塔が機能停止したとのことです。魔法塔の出力が落ち続け、魔法通信が途切れがちになっています。王都内の混乱がさらに広がっているようです」
公爵は巻紙を受け取り、目を走らせた。
眉がわずかに寄る。
「魔法塔まで止まったか……」
その声は低く、奥に冷たい鋭さがあった。
「魔法塔は、王都の魔法流通を管理する中心施設だ。そこが止まれば、王都の魔法社会は支えを失う」
私は胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。
「……魔法塔が止まるなんて、あり得るんですか」
「通常ならあり得ない。魔法塔は、魔法の流れを安定させるために常に稼働している。それが止まるということは、内部の魔法が制御できなくなっている証拠だ」
公爵は巻紙を机に置き、静かに息を吐いた。
「魔法に頼りすぎた結果だ。魔法が乱れれば、王都は何もできない」
その言葉は、王都の現状を端的に示していた。
騎士が続ける。
「閣下、王都では魔法塔の停止により、魔法灯が消える区域が増えているとのことです。夜間の安全が確保できず、避難が始まっているようです」
公爵は短く息を吸った。
「魔法灯まで消えているか……王都は本格的に混乱しているな」
私は胸の奥が強く揺れるのを感じた。
王都では、私の力は価値を認められず、魔法社会の流れを乱す者として扱われてきた。
けれど今、魔法で支えられた街が自力を失い、魔法塔が止まり、魔法で行われていた連絡手段まで途切れがちになっている。
その現実が、胸の奥に静かに沈んでいった。
「リリア殿」
公爵が静かに声をかける。
「研究院が君を呼び戻しに来た理由が、より明確になったな」
「……魔法塔が止まったから、私を……?」
「そうだ。魔法の流れを整える者が必要なのだろう。魔法塔が止まれば、研究院は内部で対処できない」
公爵は机の端に手を置き、淡々と続けた。
「魔法流路班の長が動いたということは、研究院内部の議論は終わっている。君を迎えるために、正式な使者として来ている」
胸の奥が強く揺れた。
王都では、私の力は役に立たないと決めつけられた。
けれど今、魔法で築かれた仕組みが次々と弱まり、魔法に頼りきった国が自分たちの限界を露わにしている。
その対比が、胸の奥に広がっていく。
「……公爵様」
「なんだ」
「研究院は、私に何を求めているんでしょう」
「魔法の流れを整えることだろう。魔法を扱う者たちが制御できなくなれば、魔法を消せる者が必要になる」
公爵は静かに言った。
「君の力は、研究院にとって最後の手段だ」
その言葉は、胸の奥に深く沈んだ。
騎士が控えめに口を開く。
「リリア様。街の者たちが、門の前で待機を続けています。何かあればすぐに知らせてほしいと」
胸が温かくなる。
「……私を守ろうとしてくれているんですね」
「はい。皆、リリア様のことを気にかけています」
公爵は軽く頷いた。
「この街の者たちは、君を恐れない。君の力を理解しているからだ」
私は窓の外を見つめた。
街の者たちが騎士と話しながら、門の前を守っている。
その姿は、王都の混乱とはまったく違う。
「……王都とは、本当に違いますね」
「当然だ。王都は魔法を中心に据えた国だ。魔法が揺らげば、国そのものが揺らぐ」
公爵は静かに続けた。
「だが、この街は違う。魔法が弱っても、生活が止まらない。魔法に頼りすぎないからだ」
胸の奥が静かに揺れた。
王都の防御が弱まり、魔法を扱う塔が力を失い、魔法で繋がっていた連絡までも途切れがちになっている。
その状況は、王都が抱えていた脆さを露わにしていた。
王都から派遣された一団は、私を探すために動いているらしい。
その様子は、研究院が自分たちだけでは対処できなくなったことを示していた。
魔法に依存しすぎた王都が崩れ、魔法を消せる私が必要とされる。
その対比が、胸の奥に静かに広がっていった。
公爵は巻紙を閉じ、静かに言った。
「リリア殿。王都は、君を遠ざけた力に頼らざるを得なくなっている。それが今の現実だ」
私はゆっくりと息を吸った。
胸の奥に、言葉にならない感情が広がる。
王都が崩れ始め、研究院が私を求めている。
その流れは、もう止まらない。
ただ、その先に何があるのか、まだ誰にも分からない。
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