第28話 広がる名声と揺らぐ軍内部
本部へ戻った魔術研究官たちは、国境での検証結果を徹夜でまとめ上げた。
その報告書は翌朝には軍内部へ回され、まるで火がついたように広がっていった。
私の名前が、知らない人たちの間で語られ始めた。
騎士団長がその知らせを持ってきたとき、私は思わず息を呑んだ。
「リリア殿。本部で、あなたの名前が一気に広がっている」
「……私の、名前が……?」
「そうだ。研究官たちが、あなたの力を“前例のない現象”として報告した。軍内部は今、あなたの話題で持ちきりだ」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
昨日まで、誰にも必要とされなかった力。
それが今、隣国の軍内部で議論されている。
騎士団長は続けた。
「軍内部では、あなたを指す新しい呼び名が生まれているらしい」
「呼び名……?」
「“国境の少女”、“魔力を消す者”、“魔物核破壊者”、どれも、本部の者たちがあなたをどう見ているかを表している」
私は思わず目を見開いた。
胸の奥が強く震える。
「そんな……大げさです……私はただ、触れただけで……」
「触れただけで魔法陣を消せる者など他にいない。大げさでも何でもない。本部はあなたを“特別な存在”として扱い始めている」
騎士団長の声は、昨日よりもさらに確信に満ちていた。
その確信が、胸の奥に静かに響いた。
騎士団長は、軍内部の様子をさらに詳しく話してくれた。
「本部では、緊急会議が開かれた。魔術研究官、軍参謀、魔物対策部隊の責任者が集まり、あなたの力が国境防衛にどれほど役立つか議論したそうだ」
「……議論、ですか……?」
「そうだ。魔力無効化能力は、魔物の攻撃を封じる可能性がある。魔物核破壊能力は、魔物の発生源そのものを断つ力となり得る。魔力乱れ感知能力は、魔物の出現を事前に察知できるかもしれない」
騎士団長は、まるで誇らしげに言った。
「これら三つの能力が揃っている者など、歴史上存在しない。本部は、あなたの力が国境防衛の構造を根本から変える可能性があると判断し始めている」
私は胸の奥に手を当てた。
心臓が、昨日よりもずっと強く脈打っている。
「……そんな、大きなこと……私にできるんでしょうか……」
「できるかどうかではない。あなたの力が“そういう力だ”という事実が、軍内部を動かしている」
騎士団長の声は、いつもより少しだけ強かった。
その強さが、胸の奥に静かに響いた。
「リリア殿。本部はあなたの力を“国境防衛の鍵”になり得るものとして見始めている。あなたの存在は、もう国境の街だけのものではない」
その言葉は、私の未来を確実に変える“予兆”だった。
胸の奥が熱くなる。
昨日までの自分では考えられなかったほど強く。
騎士団長はさらに続けた。
「本部の参謀たちは、あなたの力を中心にした新しい防衛戦略を検討し始めている。魔物の出現を事前に察知し、あなたの力で核を破壊する。魔力の流れを乱す魔物の群れを、あなたの感知能力でいち早く見つける。これが実現すれば、国境の被害は大幅に減るだろう」
私は言葉を失った。
そんな未来が、本当にあるのだろうか。
私の力が、そんな大きな役割を果たせるのだろうか。
「……私が……国境を守る……?」
「そうだ。あなたの力は、その可能性を持っている」
騎士団長は、まるで私の背中を押すように言った。
「本部の者たちは、あなたを“国境の希望”と呼び始めている。あなたの力が、国境の未来を変えるかもしれないと」
胸の奥が熱くなる。
昨日まで、私はただの追放された少女だった。
けれど今、隣国軍内部では私の力が正式に評価されている。
騎士団長は最後に、静かに言った。
「リリア殿。あなたの名前は、もう軍内部の誰もが知っている。そして、これからもっと広がるだろう」
その言葉は、私の未来を確実に動かす“始まりの鐘”だった。
胸の奥で、静かに灯が揺れた。
その灯は、昨日よりもずっと強く、確かな形を持ち始めていた。
本部の会議室では、研究官たちの報告を受けて、参謀たちが次々と意見を述べていた。
魔力無効化能力、魔物核破壊能力、魔力乱れ感知能力。
その三つの能力が揃っている者など、歴史上存在しない。
「魔物の核を破壊できる人間など聞いたことがない」
「魔力の流れを感知できる者はいるが、ここまで正確な例はない」
「魔法陣を触れただけで消すなど、魔術体系そのものを否定している」
会議室の空気は、驚愕と緊張で張り詰めていた。
その中で、一人の参謀が静かに口を開いた。
「……この少女は、国境防衛の“鍵”になる可能性がある」
その言葉が落ちた瞬間、会議室の空気が変わった。
誰もがその言葉の重さを理解していた。
「鍵……?」
「国境防衛の中心に据えるということか……?」
「だが、王国が追放した少女だぞ……?」
参謀は迷いなく続けた。
「王国がどう扱ったかは関係ない。隣国にとって、この少女は“未来を変える存在”だ。公爵閣下に報告すべきだ」
その名が出た瞬間、会議室が静まり返った。
公爵。
軍と政治の両方を握る最重要人物。
国境防衛の最高責任者。
「……公爵閣下に、ですか」
「閣下が動けば、国境の体制そのものが変わるぞ」
「だが、この力は……確かに報告すべきだ」
参謀たちは互いに視線を交わし、やがて一人が静かに頷いた。
「決定だ。この少女の力を、上層部へ正式に報告する」
その言葉を皮切りに、会議室は一気に動き始めた。
報告書の再整理、追加資料の作成、魔術研究班との連携。
すべてが“公爵へ届けるため”に進められていく。
そして、その知らせは国境の騎士団へ届いた。
騎士団長は私を呼び出し、静かに告げた。
「リリア殿。本部が、あなたの力を上層部へ報告することを決めた」
胸の奥が跳ねた。
息が止まりそうになる。
「……上層部……?」
「そうだ。公爵閣下が動く可能性がある」
その名前を聞いた瞬間、胸の奥が強く震えた。
公爵。
隣国の最高位の人物。
軍の頂点に立つ者。
「……公爵、閣下が……私に……?」
「あなたの力に興味を示された。近いうちに、ここへ来られるだろう」
私は言葉を失った。
胸の奥が熱くなり、同時に強い緊張が走る。
「そんな……私なんて……ただ触れただけで……」
「触れただけで魔法陣を消せる者など他にいない。あなたの力は、国境防衛の未来を変える可能性がある。公爵閣下が動くのは当然だ」
騎士団長の声は、いつもより優しく、そして強かった。
「リリア殿。あなたの存在は、もう国境の街だけのものではない。隣国全体が、あなたの力を知ろうとしている」
胸の奥が熱くなる。
昨日まで、私はただの追放された少女だった。
けれど今、隣国の最高位の人物が私に興味を示している。
街の人々も騒ぎ始めた。
「公爵が来るって……リリア様のために?」
「王国が追放した子を、公爵が迎え入れるのか……?」
「本当に……すごい力なんだな……」
「国境の希望って……リリア様のことなのか……?」
その声は、胸の奥に静かに響いた。
恐怖ではなく、期待と尊敬が混じった声。
私は胸に手を当てた。
心臓が、昨日よりもずっと強く脈打っている。
――公爵が来る。
――隣国の最高位の人物が、私を見に来る。
その事実が、私の未来を確実に動かし始めていた。
騎士団長は最後に、静かに言った。
「リリア殿。あなたの力は、もう誰も否定できない。公爵閣下が動くということは、あなたの未来が大きく変わるということだ」
胸の奥で、静かに灯が揺れた。
その灯は、昨日よりもずっと強く、確かな形を持ち始めていた。
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