表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/76

第22話 騎士団長、リリアの存在を知る

 騎士団長の言葉が落ちた瞬間、街の空気がまるで別のものに変わった。

昨日まで、私はただ“魔物を消した少女”だった。

けれど今、隣国の騎士団長が私を“希望”と呼んだ。


 その響きは、胸の奥に静かに、しかし確かに広がっていく。


 私は返事をしようとして、けれど、言葉がうまく出てこなかった。


──協力する?私は何をすればいい?


 魔力を消す力は、自分でも説明できない。

ただ触れれば消える。それだけだ。


 そんな私が、国境の希望になれるのだろうか。


 騎士団長は、私の沈黙を責めることなく、むしろ優しく言葉を重ねた。


「急ぐつもりはない。あなたの力は特殊だ。理解するには時間が必要だろう」


 その声は、昨日の厳しい印象とは違い、どこか温かさを含んでいた。


 騎士団長は周囲の騎士たちへ指示を出した。


「街の魔力痕跡をすべて調べろ。魔物の残滓がどれほど残っているか確認する。そして、リリア殿の周囲の魔力の状態を記録しろ」


 騎士たちが一斉に動き出す。


 私は驚いて騎士団長を見た。


「……私の周囲を、調べるんですか?」


「もちろんだ。魔力が“消える”という現象は、我々の国でも前例がない。あなたの力がどのように働いているのか、理解する必要がある」


 騎士団長は、まるで研究者のような目をしていた。

昨日の検証で魔法が消えたことだけでは満足していない。

もっと深く、もっと正確に、私の力の本質を知ろうとしている。


 騎士団の一人が、魔力測定器のような道具を取り出した。

隣国独自の魔力解析装置らしく、

王国では見たことのない形をしている。


「リリア様、少しだけ近くに立っていただけますか?」


「……はい」


 私は言われるままに立つ。

騎士が装置を起動すると、淡い光が私の周囲を包んだ。


 その瞬間、装置の光が、ふっと消えた。


 騎士が慌てて装置を確認する。


「えっ……?魔力反応が……ゼロ……?」


「いや、ゼロじゃない……“測定不能”だ……?」


「魔力が……消えている……?」


 騎士団長が装置を覗き込み、眉をひそめた。


「……魔力が消えるだけではなく、魔力測定そのものを無効化している……?」


 騎士たちがざわめく。


「そんな現象、聞いたことがない……」


「魔力を消すだけじゃなく、魔力の“概念”そのものを壊している……?」


「王国は……こんな力を追放したのか……?」


 その言葉に、街の人々が息を呑んだ。


「追放した……?」


「王太子は……何を考えているんだ……?」


「隣国の騎士団長が“希望”と言っている力を……?」


 騎士団長は静かに言った。


「王国の判断は……理解できないな」


 その一言は、街の空気を完全に変えた。


 王国の判断への疑念が、隣国という“外部”から明確に示された瞬間だった。


 私は胸の奥がざわつくのを感じた。


 騎士団長は私へ向き直り、真剣な目で言った。


「リリア殿。あなたの力は、魔物の異常発生が続く今、国境防衛にとって極めて重要だ。我々はあなたを危険視しない。むしろ、守るべき存在だと考えている」


 守るべき存在。


 その言葉は、私の胸に深く落ちた。


 王国では、私は“危険”と言われた。

“制御できない”と言われた。

“追放すべき”と言われた。


 けれど今、隣国の騎士団長は、私を“守るべき存在”と言っている。


 胸の奥が熱くなる。


 騎士団長は続けた。


「あなたの力を理解するために、しばらく我々と行動を共にしてほしい。もちろん、強制はしない。あなたの意思を尊重する」


 その言葉は、昨日の“協力してほしい”とは違う重みを持っていた。


 私は静かに息を吸った。


――外の世界が、私を認め始めている。


 その事実が、胸の奥に静かに広がっていく。


 騎士団長は最後に、まるで誓いのように言った。


「リリア殿。あなたの力は、王国が捨てたものではない。我々が、正しく扱う」


 その言葉は、胸の奥に静かに沈んでいった。

沈んだあと、じわりと広がるような温かさがあった。

まるで、ずっと冷たい水の中にいた心が、ようやく陽の光に触れたような感覚だった。


 私は返事をしようとして、けれど、喉が震えて言葉にならなかった。

騎士団長は、そんな私を急かさなかった。

ただ、静かに待ってくれていた。

その沈黙が、逆に安心を与えてくれる。


 街の人々は、騎士団長の言葉を聞いてざわめき始めた。


「正しく扱う……?」


「王国じゃなくて、隣国が……?」


「リリア様を守るって言ってる……」


 その声は、私の耳に届くたびに胸の奥を揺らした。

王国では、私は“扱いきれない存在”と決めつけられた。

誰も私の力を理解しようとせず、ただ距離を置かれた。

最後には、王城にいる資格すらないと告げられた。


 けれど今、隣国の騎士団長は、私を“守るべき存在”と言っている。


 その違いが、胸の奥をじんわりと温めた。


 騎士団長は街の様子を見渡し、静かに言った。


「この街は、魔物の襲撃を受けながらもよく耐えた。だが、まだ終わりではない。魔力の乱れは収まっていない。次の発生がいつ起きてもおかしくない」


 その言葉に、街の人々が息を呑む。


「また魔物が……?」


「そんな……」


「リリア様がいなかったら……」


 騎士団長は私へ向き直った。


「リリア殿。あなたの力は、魔物の発生源を探る手がかりになる可能性がある。我々はあなたを戦わせたいわけではない。ただ、あなたの存在が“魔力の乱れにどう影響しているか”を知りたい」


 私は驚いた。


「……私が、魔物の発生源を……?」


「可能性の話だ。あなたの力は、魔力の流れを変えている。魔物が消えるだけではない。魔力そのものが、あなたの周囲で異常な動きをしている」


 騎士団長の声は真剣だった。

昨日の検証で魔法が消えたことだけではなく、街全体の魔力の流れを見て、私の力が“ただの消失”ではないと理解したのだ。


「あなたの力は、魔物の発生を抑える可能性がある。もしそうなら、あなたは国境の防衛にとって、計り知れない価値を持つ」


 街の人々が息を呑む。


「リリア様が……魔物を抑える……?」


「そんなことができるの……?」


「隣国の騎士団長が言うなら、本当なんだろう……」


 私は胸の奥がざわつくのを感じた。

自分の力が、そんな大きな意味を持つなんて思っていなかった。


 騎士団長は続けた。


「あなたを危険な場所へ連れていくつもりはない。まずは街の中で、魔力の流れを観察する。あなたが動くことで、魔力がどう変化するか、それを知りたい」


 私は少し考えてから、静かに頷いた。


「……分かりました。私にできることがあるなら、協力します」


 騎士団長は深く頷いた。

その表情には確かな安堵が浮かんでいた。


「感謝する、リリア殿。あなたの力は、この国境を救う」


 その言葉は、胸に静かに刻まれた。


 騎士団長は街の地図を広げ、騎士たちへ指示を出した。


「リリア殿の移動経路を記録する。魔力の乱れがどう変化するか、街全体で観察する。住民には危険がないよう、周囲の警備を強化しろ」


 騎士たちが一斉に動き出す。


 街の人々もその様子を見て、私の周囲に自然と距離を置きながらも、どこか期待するような目で見ていた。


「リリア様が歩くだけで、魔力が変わるの……?」


「そんな力、聞いたことない……」


「でも、魔物が消えたのは本当だし……」


 私は胸の奥が少しだけ震えた。

自分の力が、こんなふうに扱われる日が来るなんて思っていなかった。


 騎士団長は最後に、まるで誓いのように言った。


「リリア殿。あなたは、もう一人ではない。我々が必ず守る。そして、あなたの力を正しく理解する」


 その言葉は、私の未来を確実に変える予兆だった。


 私はゆっくりと頷いた。


「……お願いします」


 騎士団長は深く頷き、その表情には確かな決意が宿っていた。


「これより、あなたと共に街を巡る。魔力の流れを見極めるためだ。リリア殿、あなたの一歩が、この街を救う」


 その言葉に、胸の奥が熱く震えた。


 私は静かに息を吸い、騎士団長の後を歩き始めた。

面白いと思ったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ