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戦闘民族の魔女は、隣の天才魔法使いをぶちのめしたい  作者: 二見
政官二年目編

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67. いないんだもん

お姫様が急に泣き出してしまったので、視察は一時中断となり、すぐに別室が用意された。お姫様はそこで休むことになった。

本来なら、出向してきた私が応対する相手ではないけれど、傍で様子を見ていたエヴォカリ局長が事態を察して、深く追及することなく、私に任せてくれた。



「まさかお姫様だったなんて……知らなかったよ、オルヴァッキ」

「うん……隠していてごめんね。アルクセイ、オーウェン。二人は……お仕事で来てるんだよね?」

「そうだよ」



お茶を飲みながら、オルヴァッキは気まずそうに私たちを見上げた。傍にいた従者はオルヴァッキが『お友達だから大丈夫』と下がらせたので、この部屋にはいない。部屋に入ると、どうやらこの部屋は、暖め始めたばかりらしい。充分に暖められたほかの部屋との差に、私はぶるりと身震いをした。


私はオーウェンを横目で盗み見た。

何かに関わっているかと思ったけれど、さっきの反応を見る限りオルヴァッキのことは知らなかったようだ。



「で?説明できるか?」



壁に背中を預けて、オーウェンがオルヴァッキを見下ろす。

うまく説明できるか、ではない。事情を話せるのか、と聞いているのだ。



「あの、あのね、私、その……昔から引っ込み思案で……でも武器とかそういうのが好きで……」

「知ってる。昔から武器の話になると、相槌も打てないくらいに話してくれるよね」



少しでも安心して話せるように、私は隣に座って背中を撫でた。オルヴァッキの肩から、ふっと力が抜けるのがわかる。



「えへへ……ごめんね?お城でも、ひいじい様が鍛冶場を作ってくれて、昔からそこで鉄を打ってたの」



とんだお姫様である。

おそらく引きこもりと言われていた原因はこれだろう。彼女のことだから、里帰りをしてもずっと鉄を打っていたに違いない。



「それでね、十歳くらいのときかな?いつかひいじい様の大斧を打てるようになりたいですって言ったら、トランディアへの留学を許してくださったの。この国だと、私を知ってる人が多いから、そっちなら伸び伸びと過ごせるだろうって……」



オルヴァッキは、どんどんうつむいていく。



「今回の里帰りは、トランディアに工房を構えたいからその許可をいただくためだったの。私のほかにも王族はたくさんいるから、王族を抜ける覚悟だったんだけど……反対されちゃった」

「でも、それがどうして婿探しって話になるの?」



「そこまで聞いていたんだね」とオルヴァッキは困ったように笑ったあと、少し言葉を探すように目を泳がせた。



「女一人、後ろ盾もなく工房を構えるなんて危ないからノールドランドで結婚しなさいって言われたの。鍛冶場なら、ひいじい様が結婚相手に王命を下して作らせるからって……」

「王命」



溺愛の度合いがすごい。オルヴァッキは恥ずかしそうだ。



「……かなり良心的な方だろ。王族としては」

「うん、私も自分はすごく恵まれていると思ってるんだよ、オーウェン。好きなことは続けさせてくれるし、自分で相手を選ばせてくれようとしてるんだもん。でも……」

「でも?」



オルヴァッキは、上目遣いに私を見た。



「ノールドランドは……アルクセイたちがいないんだもん」

「可愛すぎるんだけど?」



思わず口にしてしまった。

今の言葉をみんなに聞かせてあげたい。


オルヴァッキはとたんに、丸い頬を赤く染めた。背後でオーウェンの溜息が聞こえた。うるさい、吐息で文句を言うな。じとっと横目で睨んでいると、オルヴァッキが私を見つめているのに気がついた。



「……どうしたの?」

「アルクセイ、体調悪い?顔色も悪いし……」

「え」



オルヴァッキが私の顔を覗き込む。

確かに、朝から身体がだるかった。けれど許容範囲だったから、特に気にすることもなかった。背後で身じろぐ気配がした。

オルヴァッキの小さな手が私の手に触れる。



「あ、熱!熱あるよ!熱い!!」

「え、え」

「アルクセイ」



それまで背後にいた男が私の隣まで来ると、無遠慮に額に触れた。おかげで眼鏡がずれた。文句を言うより先に、オーウェンが盛大に顔を歪めた。



「……こんだけ熱あって自覚ねぇとか馬鹿かよ」

「ばっ……!?」



反論しようと勢いよく立ち上がった瞬間、頭に血が上ったからか、急に膝の力が抜けた。



「お前、やっと自覚したろ」



膝が床にぶつかる前に、オーウェンが私の脇に腕を回して抱き留めた。

言い返そうとしたけれど、オーウェンは私と目を合わせることなく、オルヴァッキのほうを向いた。



「悪い、オルヴァッキ。また後でもいいか」

「ちょっと、勝手に話を……」

「うん!全然いいよ!私の方は今すぐどうこうって話じゃないから!」

「助かる」



自覚してしまったからか、みるみるうちに立てなくなってしまった。二人の声もずっと遠くに聞こえる。それから、視界がぐわんと一度歪んだあと、私の意識はぷつんと切れた。




リアクションやブックマーク、評価などありがとうございます。


ノールドランド王は無理矢理、結婚させるつもりはないので、オルヴァッキもあんまり急いでないです。

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