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戦闘民族の魔女は、隣の天才魔法使いをぶちのめしたい  作者: 二見
政官二年目編

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64.  軌道修正

仕事だ。

そう、これは仕事の一環だ。

自分の護衛騎士とひとつ屋根の下、も。



(いや、だめ。戻ったら絶対に問題提起する。仕事とはいえ、男女をひとつ屋根の下、それも壁一枚向こう側に男をいさせるなんて)



私はじとりと壁を見た。

この向こうにオーウェンがいる。私の耳が良すぎるせいか、物音が聞こえてくるくらいに、私にとってこの壁は薄い。


案内された二階には部屋が三部屋あった。

そのうち片方の端は物置として使われていて、オーウェンはさっさと反対側の角部屋を自分の部屋と決めてしまったのだ。



(先に部屋を決められたのもムカつくけど……)



それよりもこちらは嫁入り前だ。


今のところ予定なんてないけれど、過去に異性とひとつ屋根の下で暮らしていた経験があるなんて、仕事とはいえ外聞が悪い。


一方、あいつときたら。



(私がこんなに悩んでるのに、平然としているのが一番ムカつく……!!)



何だあの態度。

『俺、こっち使うから』と平然と部屋を決め、中に入ってしまった。



「……もしかして、本当に女として見られていない……?」



そもそも、だ。

そう考えると辻褄が合う。

私を異性として見ていないから、猿だの何だの言って喧嘩を売るのかもしれない。



(それに……)



私は誰もいない部屋で一人、目を泳がせた。


ひとつ白状する。

お酒を飲むようになって、オーウェンと寝ることが何度かあった。

でもそこには必ず誰かいた。

なんなら皆と雑魚寝した。

それも酔いつぶれていたからで、当然やましいことは何もなかった。


嫁入り前がどうのと考えているくせに、その時点でダメな気もするけれど、気持ちの問題なので置いておく。


私は頭を抱えて、大きく溜息を吐いた。



「……ソナがあんなこと言うから、私一人で浮かれちゃったじゃん」



私はじっと壁を睨みつけた。



(なるべく、物音は立てないようにしよ……いや、こういうの風魔法と雷魔法の組み合わせで何とかなるかもしれない。防音魔導具が手に入るとは限らないし、魔法理論を構築した方が早いかも)



トランディアと比べて、ノールドランドは物流が雪で滞りがちだ。

そっちの方が建設的に思える。


私はこれ以上考えるのをやめて、鞄の内側に貼られたメモに目を移した。


メモには「水やりはやっとく」と短い一言。鞄には衣服や化粧品など、必要な日用品が過不足なく詰め込まれていた。

互いの部屋をよく行き来している仲だから、遠慮なく引き出しを開けたのだろう。あまり人に見られたくないものも、中には入っていた。


……まあ、メーベルだから別にいいけど。




♢




荷物の整理を終え、面倒くさがるオーウェンを連れ出して宿舎を出た。

買い出しだ。



「これからもっと冷えるんだから、ちゃんと服を揃えた方がいいよ」

「……別に、基本は騎士官服だし、外套もさっき買ったからいい。荷物が増えるの嫌なんだよ」

「別にそれならそれでいいけど、後で必要になってもすぐに手に入ると思わないほうがいいよ。雪が多くなれば、物流は滞る。そうすれば客足も遠くなるから、店は閉まるよ」

「……仰せのままに」

「よろしい」



観念したようにも見えるし、ただ面倒なだけかもしれない。あまり気にしないことにした。

ものを増やしたくないという意向は一応、尊重した。

店に入っても、あれもこれもと勧めないように気をつけた。あまりお節介を焼きすぎても迷惑になる。

買い物袋を肩に掛け、オーウェンは立ち並ぶ店を眺めていた。



「……酒屋が多いな」

「雪国だからね。強いお酒を飲んで体を温めるんだよ。だから、ノールドランドの人はお酒に強いってオルヴァッキは言ってた」

「あいつ、酒強かったっけ」

「顔はすぐ赤くなるけど、同室の中では一番強いよ」



あの子はいつも、砂糖菓子みたいに笑うけれど、本気を出すととんでもない量のお酒を飲む。そうなると酒代がかなり飛んでしまうので、普段は控えめにしか飲まない。



(それにしても……)



あまりにも、会話が穏やかすぎる。



(……いや、喧嘩を吹っ掛けてこないのは良いっちゃ良いんだけど)



買い物袋を肩に掛け直すフリをしながらちらりと横を歩くオーウェンを盗み見た。普通の、いつもの顔。



(……違う)



金色の目が、道行く人やすれ違う人に一瞬ずつ向けられている。背が高いから、見上げないとわからなかったけど、目だけが忙しなく動いている。

何かを警戒しているようだった。



(……この前のことかなあ)



護衛騎士の仕事をしてると言えばそれまでだけど、オーウェンが忘れろと言ったあの夜が引っかかる。

私が首を突っ込んじゃいけない、何か。



(……なんか、気持ち悪い)



胸の奥がすぅっと冷えていく。

さっきまでの私の浮ついた気持ちが滑稽に思えてきた。


そうこうしていると、いつの間にか宿舎に戻ってきていた。

顔を上げると、玄関口に誰かが立っている。十歳くらいの男の子だ。よく見ると野菜や肉の入った大きな籠を抱えている。



「君……」



声をかけると、男の子は無愛想な顔で、籠を私たちへ突き出した。



「ん」



きっとエヴォカリ夫妻の言っていた息子さんなのだろう。どことなく面立ちに二人の雰囲気があった。



「あ、ありがとう」



横からオーウェンが手を出した。



「悪いな」



そのまま籠を受け取ると、小脇に抱えた。

男の子はオーウェンをしばらく見た後、今度は私へ、そしてまたオーウェンへと目を向けた。



「結婚してんの?」

「「してない」」



声が揃ってしまった。

男の子は私たちの返答に眉根を寄せた。



「でも、一緒の家に住むんだろ?」

「仕事でな」

「えー……意味わかんない」



そういえば、ノールドランドは家族単位で生活をしているのだった。

この男の子が理解できないのも仕方ないかもしれない。どう説明しようかと考えあぐねていると、男の子は私とオーウェンの間を縫っていった。帰るらしい。

エヴォカリ夫妻へ礼の言伝を頼もうと声をかけようとすると、男の子は振り向いて大きな声で言った。



「そういうの、爛れてるって言うんだぜ!!」

「たっ……!?」



とんでもない言葉が飛んできた。そのおかげで否定の言葉がすぐに出てこなかった。

言うだけ言って、その隙に男の子はパタパタと駆けていった。

なんて子だ。



「爛れてるってよ」

「茶化すな」



肘で脇腹を小突いた。

この男は。




レビューありがとうございます!

需要など考えず好き勝手書いている身なので、感想を頂けたり、レビューを書いて頂けることはこの上なく光栄なことです(小躍り)。

先週は体調を崩してしまったのもあり、弾数が少ないので、可能な限り内容でお返しできたらと思います。


旅や見聞きしてきた物に関しては、オーウェンよりアルクセイの方が経験が多いので、アルクセイが先輩風を吹かせているお話になりました。


寒くなってきましたので、どうか皆様、お風邪を引かれないようお気をつけください。

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