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戦闘民族の魔女は、隣の天才魔法使いをぶちのめしたい  作者: 二見
政官二年目編

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58. 会議

※三人称視点です

枢機会には秘匿性の高い部屋が設けられている。

最新の魔導具によって、ありとあらゆる魔導具や魔法による会議内容の漏洩を防いでいるのだ。


外は今日も汗をかくほど暑いというのに、この部屋は妙に冷えている。


円卓には、熟年の魔法使いや魔女たちが物々しく椅子に掛けていた。

その奥ではオーウェンの父親であり、この国の宰相であるウィルフレッド・アンブロジオが、この会議の行方を見届けるため一際上等な椅子に座り、息子とその隣に立つ王の息子を静かに見守っている。その眼差しは幼い頃を知る穏やかなものではなく、まだ若い政官へ向ける厳しいものだった。



「ご報告申し上げます。昨日、アルクセイ護政官の聖属性の発現が確認できました」



最初に切り出したのはジルベルトだった。その声にいつもの余裕はない。

「やはりな」という小さい声があちこちであがった。

そして、視線はオーウェンに集まった。

当然だ。

まだ二年目ではあるが、彼はかの方の弟子。

魔法階位も最年少記録を更新し続けている。つい最近も上層部の指示により九階位に上がった。この部屋の中で、一番魔法に精通している。



「本当か?アンブロジオ騎士官」



ロッコ騎士第一隊長が静かに促す。

本来であれば中間に位置する彼女がここにいるのは、オーウェンの上長だからだ。



「あれは確かに聖属性でした。その証拠に、瘴気の影響を受けた聖霊は完全に鎮静しました。あれほどまでの聖魔法を使える神官はこの国にも、ニルスにもいないでしょう」

「君の結論は?」



今度は騎士総団長が口を開いた。優雅な口ぶりだが、その質問にオーウェンは心の中で舌打ちをした。



「聖女で、間違いありません」



言いたくないことを言わせる。



「今までクィーンクェア以上……六属性持ちが確認されたのは初めてでは?」

「学園での属性判定の杖の規定改定も必要になるな」

「いや、それよりもアルクセイ護政官の処遇だ。すぐに聖女として立て、瘴気鎮静任務に当たらせるべきではないだろうか」

「それは引き続き、護政官と神官にやらせれば良い。それよりも、神話上聖女は世界を巡り各地で奇跡を起こした存在だ。ユージーン王子はまだ妃を決めていない。妃として据えて、象徴にすべきでは?」



オーウェンは学生の頃から、この上層部が嫌いだった。

嬉々として、人の人生を玩具のように決めようとしているその姿に、彼は怒りを覚えていた。

拳を握りしめる。爪が皮膚に食い込んだ。



「オーウェン」



隣に立つジルベルトが小さな声で、彼の名前を呼んだ。

オーウェンは視線だけ、ゆっくりとジルベルトに向ける。



「……」



ジルベルトは真っ直ぐオーウェンを見たあと、前を向いた。



「恐れながら、それはお勧めできません」



涼やかな声が室内を包んだ。誰もが口を閉ざした。

さすが王族。どこか威圧感もあるその声で、彼は場を制したのだ。



「まず、世界条約。ドラスニール族は軍事介入が禁止されています。王太子妃ともなれば他国はどう見るでしょう?」



両手を大きく広げ、ジルベルトは椅子に座る上層部の面々の顔を一人一人見た。中には初めから気付いていた者もいれば、そうでない者もいた。


ジルベルトはその口ぶりを変えず、穏やかに微笑んだ。



「簡単なことです。トランディアにはドラスニール族が指揮する軍事組織があるとみなすでしょう」



そこまでなぜ考えられないのか。

何のためにその席に座っているのか。


そんな意図が言外に含まれていた。

先ほど王太子妃にと発言をした男……ゴルダー次席枢機官は貴族派だ。自分の評価が王に伝わるのではないかと恐れ、ちらりと奥にいる宰相に視線を送った。

それに構わずジルベルトは続けた。



「また、聖女として瘴気鎮静の任務に当たらせる……聖属性の扱い方はニルスしか知りません。今の彼女は聖属性の発現が認められただけ。彼女を聖女としてニルスへ送り出すおつもりですか?獣の巣穴に餌をやるようなものではないでしょうか」

「落ち着いてくれ、トランディア枢機官」



それまで表情を崩さず黙っていたオグリ・ユーグスタフ枢機卿が片手を上げた。その顔には穏やかな笑みがあったが、それがいかに信用してはいけないものか、ジルベルトは理解していた。枢機官の中でも、この男はとりわけ腹の底が黒いのだ。



「アンブロジオ騎士官。君の見立てではどうだね?本当に、ニルスの教えがなければ聖属性は扱えないのか……かの方は何か仰られていたかな?」

「……そもそも、根源が異なります。聖属性は唯一、神ではなく精霊王が根源。難しいのではないでしょうか」

「だが、アルクセイ護政官は魔力練成において大変優秀だと聞くよ。聖属性魔法も彼女なら扱えるのではないかな?私は責任感の強い彼女に、聖女の自覚を持って増えつつある瘴気を治めてもらいたいと考えている」



背筋がすぅっと冷えるのをオーウェンは感じた。

ここまで来ると、逆に冷静になれる。



「……それが難しいのをご存知なのでは?ミコト・カンザキの一件。アルクセイ護政官は自己犠牲を厭わない。彼女に聖女の役割を与えたら、すぐに自滅するとしか私には思えません」



以前、オーウェンとジルベルトは話していた。

あの一件は上層部にとって実験だったのだろう、と。

何も手を打たなかったのは、アルクセイを追い詰め聖属性の発現を促すため。それから、聖女の存在が周囲にどれほど影響を与えるのかを見るため。


ユーグスタフ枢機卿はなおも表情を変えない。



「なら、自滅をするなと命令するまでだ。彼女もまた、政官なのだから」



その時だった。

勢いよく、扉が開かれた。


……いや、壊されたというのが正しかった。


派手な音と共に、大柄な男がズカズカと入ってきたのだ。民族模様が織り込まれた長衣をはためかせ、丁寧に髪を整えている。



「いやぁ、遅れてすまなかった」



その男は自分に向けられた視線など意に介さず、そのままレオナルド・シェラウザ局長の隣に座ったのだ。



「俺の隣に座るな」

「この中でお前くらいしかいねぇんだよ、仲良しは」

「仲良しじゃない」



ボソボソと小さな声で何度かやり取りをすると、男は満足げに笑った。

男の名前は、ドラスニール族のジェズアルト。

ドラスニール族の族長で、アルクセイの父で、そして現精霊王。


慌てて扉を魔法で修復している政官たちに、ジェズアルトは手を挙げ「悪いね、魔法が使えねぇもんだから」と軽い謝罪を送った。


突然の精霊王の登場に、一同の中には立ち上がる者もいれば、慌てる者もいた。

何せ絵本に出てくる存在が、今目の前にいるのだ。



「やめてくれ、今日はドラスニール族の族長として来ただけだ」



それであっても、この男は畏怖の対象だった。

相手は世界最強の戦闘民族の族長。今この場でジェズアルトが暴れようものなら、どうなるかは目に見えていた。


しかし、中にはこの男を冷ややかに見据える者もいた。



「どの面を下げてきた?ジェズアルト。お前が護政官を拉致したこと、忘れたとは言わせんぞ」



怒りの声を上げたのは王庁のスヴェン・マクラーレン庁長だった。両腕を組み、じっとりとジェズアルトを睨みつけるが、当の本人はどこ吹く風だった。



「ただの、ど(・)こ(・)に(・)で(・)も(・)あ(・)る(・)駆(・)け(・)落(・)ち(・)だろ、マクラーレン。あーあ、相変わらずお前が執念深くて面倒だから、やっぱり精霊王ってことで話をさせてもらおう」

「都合の良い……」



マクラーレン庁長は呆れたように額を押さえた。

その様子に愉快そうに一通り笑った後、ジェズアルトは椅子に深く座り直し、足を組んだ。そして余裕たっぷりに頬杖をつく。



「……で?お前らは俺の一人娘をどうするつもりなんだ?」



先ほどと打って変わった、低い声だった。

アルクセイと同じ青い瞳が暗く光る。空気が一気に重くなるのを誰もが感じた。


多くが萎縮しているなか、ユーグスタフ枢機卿は態度を変えなかった。



「君の一人娘に、トランディアのため駒になってもらおうと話していたところだよ」

「あっはっはっ!相変わらずだなあ、ユーグスタフ!!駒ねぇ……おい、そこの若造」



ジェズアルトは豪快に笑うと、身を乗り出し、オーウェンとジルベルトに人差し指を向けた。



「アルクセイからちょろっと聞いてる。片方は王族、もう片方はアンブロジオ家のだろう?毛色でわかる。お前ら二人、あいつの友達だろう。お前らから見て、あいつは駒になれるか?」



試すような言い方だった。

ジルベルトが口を開く。



「……難しいでしょう。彼女はあまりにも割り切れない」

「その根拠は?」



どう言うべきか。ジルベルトが一瞬戸惑うと、隣に立つオーウェンが先に口を開いた。



「……お人好しで人の言うことは聞かない、猪突猛進だからです」



その返答にジェズアルトは一瞬、目を見開いた後、膝を叩いた。



「ウィルフレッド!お前、良い息子を持ったなあ!!」

「……絡むな。早く話を進めろ。こちらも暇じゃない」

「まったく、だからお前は女に嫌われるんだよ」



どうやら興が醒めたらしい。ジェズアルトは短く息を吐いて、背もたれに体を預けた。



「まずはドラスニール族として話をさせてもらおう。我々は中立だ。どの国にも属していない。それはこれからもだ。あいつに聖女として振る舞われたら、『国家の問題にドラスニール族が関わった』なんて捉えられかねん。信用問題に関わる」



ドラスニール族としても、世界条約の存在は大きいらしい。



「そして、この時代に生まれた精霊王としてだが……ニルスは前世の俺が建てた国だ。あいつが精霊王の娘だとわかれば、その正当性から後継者だなんだのうるせぇことを言ってくるのが目に見えてる」

「ユーグスタフ枢機卿。そうなればトランディアとしても彼女をニルスに引き渡さざるを得なくなります」



そう口を開いたのはシモン・ブラック書記枢機官。ジルベルトの上長だ。

目の下に深いクマを浮かべている。



「なるほど。どうやら、アルクセイ護政官を聖女として担ぐには、リスクが多すぎるようだが……どう思うかね?」



ユーグスタフ枢機卿は先ほどアルクセイを聖女として扱うべきだと意見を出したゴルダー枢機官たちに視線を送った。



(とんだ狸だから嫌いなんだよ、このおっさん)

(いやあ、見習わないといけないよ?)



そう、ユーグスタフ枢機卿は初めからアルクセイを聖女として扱うつもりはなかった。あえて本心と逆の意見を述べることで、リスクを他の者に言わせたのだ。


擁立を考えていた者たちは、居心地悪そうにユーグスタフ枢機卿の意見に賛同を始めた。



「では、我々は彼女を聖女として扱わない。彼女にも知らせない。それはつまり、我々も知らないということだ。……うむ、知らないのなら、仕方ない。誰も責任を問えないのだから。……ああ、そこの君。杖の規定は変えないように」



では解散。

腹の黒い狸の一言で、会議は幕を閉じたのだった。






ブックマーク、リアクション、評価などいつもありがとうございます。

励みにさせて頂いております。


ジェズアルトは堅気じゃない人のイメージです。

遅刻もわざと。

いちいち名指ししてるのもわざと。

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