45. 反撃
「まず」
私は口を開いた。
「私があなたにした『意地悪』とは?」
フリルの塊を見据える。
そもそも何だろう、あのドレス。貴族同士の気安い舞踏会ならまだしも、王の御前でもある厳格な場であんな華美なドレス、一体誰が許したんだろう。
カンザキはまさか私が言い返してくるとは思っていなかったらしく、動揺している。
「わ、私が加護調査に行きたいってオーウェンに頼んだら、あなたが横からダメって意地悪を言ったじゃない!」
「魔法騎士団に加護調査の権限はないからです。また加護調査は護政官にしか扱えない加護分布図を用いるためです。他には?」
「私が男の子と話していたら、仕事中にやめろって……」
「他に待っている来庁者がいたからです。会話の内容も業務とは関係ありませんでした。……当然かと」
反論が弱い。
当然だ。全部自分の思い通りだと思い込んで、備えなんてしてこなかったのだろう。
彼女のことを知らない招待客の中には、その稚拙さに失笑を禁じ得ない者や、厳格な式典での騒動に眉を顰める者もいた。それでも誰も止めようとしないのは、この場に第二王子のジルがいるからだろう。それはつまり、王族が認めているということを意味する。
「ひ、酷い……!」
わなわなと声を震わせ、カンザキはオーウェンの腕へとすがった。
オーウェンが露骨に嫌そうな顔をして、重心を反対の足へ移動させた。こんなにもあからさまなのに、よく彼女は気づかないでいられるなと少し感心する。
「……次に、私が仕事のミスの隠蔽をするようあなたを脅したということですが、まずどの業務のことです?」
「え?」
「何でも、どの業務のことでもいいです。私には一切身に覚えがないので。でもあなたは覚えているんですよね?」
「え、ええっと……」
(……答えられるはずがないよね?)
口をもごもごとさせるカンザキ。
だって、まともに仕事を覚えようとしていなかったんだから、書類の正式名称のひとつも言えないはずだ。
「ね……ねぇ、やめてよ?私たち友達でしょ?」
「さっき友達になりたかったと言ったのは誰ですか?」
あまりにも都合が良い。
都合のいい相手という意味なら、確かに友達だったかもしれない。
カンザキは周囲からの嘲笑に顔を赤くさせた。私を睨みつけるが、すぐに我に返り、またわざとらしく泣き声を上げた。
「ふ、ふぇぇん……でもぉ……ここ最近の瘴気孔の鎮静は、私がやったのに、あなたがやったことにしたじゃないぃ〜〜……ね、オーウェン?」
ぐすぐすとオーウェンの袖に顔を擦り付ける。オーウェンはついに耐えられなくなったのか、彼女から腕を振り解いた。
「いえ、鎮静してたのはアルクセイ護政官です」
「はっ、はぁ……!?おっ、オーウェン!?見てなかったはずだよね!?私たちじゃなくて、周りを見張ってたんだからっ!」
「見てなくとも、魔力香でわかりますから」
そう、起動に魔力が必要な魔導具も中にはある。私が使っていた魔導具はソレだ。
カンザキはオーウェンが味方をしてくれると思っていたらしい。酷く動揺している。
その時だった。
『じゃあ、アルクセイさん。私、魔導具の使い方を知らないからさ?お手本にするからやってみてよ』
『あ、もちろんこれ、私が鎮静したってことにしてくれるよね?』
ジルの持っている魔導盤から、彼女の声が再生されたのだ。それも大音量で。
「失礼、まだ操作に慣れなくて」
思わず半眼でジルを見る。
茶目っ気たっぷりに笑っているのだから、まったく良い性格をしている。
「え、えぇ……!?なんで、ジルまで……!!こっこんなの卑怯だよ!いつの間に録音して……!!」
「さあ?録音されてしまっていたみたいですね。……すみません、操作に慣れなくて」
どうやら、私も良い性格をしているようだ。
わざとらしく頬に手を置いてため息をついてみる。
「……まあ、こんな録音がなくとも、鎮静魔導具の貸し出し記録を遡れば、あなたが瘴気鎮静を行った日にちと、魔導具が使用済みで返却されてきた記録がわかりますけどね」
「……!」
「私、気になることがあるんです」
頬から手を離して、私はカンザキの前へと歩み出た。
ヒールの踵が床を叩く音が響く。
「証拠は後から提出するとして……私の筆跡を真似た署名からは魔力香が一切なかった」
「だ、だから、その魔力香って何……!」
まさかこんな常識的なことを説明をすることになるとは。初等学院で一番初めに習うことだ。
私はため息を吐いた。
「その人だけが持つ魔力の香りです。この世に同じ香りを持つ人はいない。そして、あなたが本当に鎮静したとされる瘴気孔鎮静任務は回を重ねるごとに時間がかかっていると、魔法騎士団からの報告書で上がっています」
私は彼女の目の前に立った。
「……あなた、無核症では?」
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