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戦闘民族の魔女は、隣の天才魔法使いをぶちのめしたい  作者: 二見
政官一年目編

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44. 「友達でいるんでしょ」

それからというもの、カンザキからの仕事の押し付けと、偽造要求は常のものになった。

けれど、その代わりに証拠がたくさん集まった。



「……うん、これだけ証拠があれば、アルクセイの仮定がたとえ外れても何とかなると思うよ」



魔導盤に細長い指を滑らせてから、ジルはそれを膝に置いた。

今日はジルに頼んで仕事終わりに共舎に来てもらい、集まった証拠を一緒に確認していた。わざわざ私の仕事が終わるのを待っていてくれたのだ。



「本来は、これ以上カンザキを三機関には置いておけないって上に判断させるための証拠集めだったんだけど……」

「いいんじゃない?もともと、上は聖女かどうか見極めるよう言っていたんだから」



ジルに背中を押してもらえるのは心強い。

彼と話すと、頭の中が整理される。ありがたい。

ジルは長い足を組んで、ふっと力を抜いたように笑った。



「じゃ、食事にしようか。食べてないでしょ?」

「あーー……」



正直、胃の調子が悪い。

食べないと良くないのはわかっているけれど、それでも身体が受け付けないのだ。

どう断ろうかと、言葉を探す。



「さっき、食堂に粥があったよ」



食堂のミゼッタさんは、誰かが風邪を引いていると聞くと必ず粥を多めに作って残しておいてくれる。きっと、誰かが風邪を引いたのだろう。

もう夜も遅い。まだ粥が残っているなら、もう食べる人はいないだろう。

「じゃあ……」とおずおずと頷くと、ジルは満足そうに笑って立ち上がり、私の手を引いた。


食堂にはもう人がおらず、厨房を覗くと鍋にパン粥が残っていた。それを皿によそって、私は長卓に座った。



「いただきます」



スプーンで掬って口に含む。時間が経っているから、パンの原型は留めていないけれど、今の私にはちょうどよく、ほんのり甘くて食べやすい。


向かい側でジルが頬杖をついて私を見ている。



「美味しい?」

「?うん」



そう答えると、ジルは突然顔を伏せた。それまで頬杖をついていた手がずれて、肩まで震えている。どうやら笑っているようだった。



「何?どうしたの?」



その様子にスプーンを持つ手を止める。

やっと顔を上げたジルは、やっぱり笑っていた。



「ううん、何でもない。あいつももっと素直になればいいのにって思っただけ」

「あいつって、オーウェン?」

「さぁ、どうだろうね」



ジルは意味ありげに言うけれど、ジルが誰かのことを『あいつ』とか『お前』とか言う相手はオーウェンと双子くらいだ。



「……ねぇ、アルクセイ。みんな、君のことを心配してるよ」

「……うん」



その言葉にパン粥を食べる手を止めた。

それがわからないほど、私も馬鹿じゃない。



「君のおかげで、カンザキに嫌がらせを受けていた人は助かったし、婚約者にちょっかいを出されて困っていた人も安心している。他にもたくさん。君は人を助けたよ」



「でも」とジルは続けた。

その目はまっすぐに私を見据えていた。



「次はもう手伝うんじゃなくて、止める」

「……わかった」



ジルから心配と、それから怒りを感じた。

指先に目を落とす。

自分でも、だいぶ痩せたのがわかる。手首の骨が目立っている。



「……食事中にする話じゃなかったね。ごめん」

「ううん、あのね、ジル」

「うん?」

「いつもありがとう」



そして、馬鹿ではないけれど、馬鹿だと思うこともある。



「あいつにも、謝らないと。あれで心配してたんだよね」

「……謝れるの?」

「……頑張るよ」

「うん。その方が俺も嬉しい。君たち、つまらない喧嘩をしてるから」



癪ではあるけれど、謝らないのは違う。

ジルはふふと笑った。



「色々終わったら、思いっきり息抜きしなよ」

「あ〜いいかも。休みの申請しようかな」

「それなら、春の式典後に入れるといいよ」

「え?」

「俺も、もう見てらんないしね。彼女がそこで動くように、ちょっと誘導しようと思う」



……誘導って。

私は静かにパン粥を食べた。



「……アルクセイ、今何を考えた?」

「……ジルは敵に回さないようにしようって考えた」



正直に答えると、目の前のジルは一瞬、目を大きく見開いて吹き出した。



「俺たち、友達でいるんでしょ」



それは卒業式で私がジルに言った言葉だ。

改めて返ってきたその言葉は、パン粥と共に私の胃にじんわりと温かく染み込んだ。




♢




私は静かに息を吸い込んだ。



——休暇届は?


(出した)


——証拠は?


(既に共有済み)



政官だけじゃない。

貴族や功労者として招かれた人たちの視線が、私とカンザキへ注がれる。

けれど、そんなの気にしている場合じゃない。


目の前のカンザキはオーウェンに抱きついていて、僅かに見えるその顔は、私を見て笑っていた。


どうして、この子がここまでするのかわからない。

この子に何があるのかもわからない。



(税は、市民が王や三機関を信じて納めているお金だ)



ノア母子。

ヴェルドット夫人。

私が出会った全ての人のおかげで、私たち政官は生きている。


嫌がらせや男性への声がけ、噂話を流布する対価としてもらっていいお金じゃない。



(あなたは、王庁にいちゃダメだよ)



握った拳の中で、爪が僅かに手のひらに食い込んだ。

ブックマーク、評価をありがとうございます。

またいつも読んでくださっている方、お付き合いくださりありがとうございます。


次回より時間軸が戻ります。

明日投稿予定です。

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