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戦闘民族の魔女は、隣の天才魔法使いをぶちのめしたい  作者: 二見
政官一年目編

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35. 私がヒロインだから!

※カンザキ視点です。

ある日気がついたら、海の上に浮いていた。

たまたま漁をしていたおじいさんに拾われて、パッとしない田舎に辿り着いた。



『聖女様に違いない!』



——あ、なるほどね?


これ、異世界転生ってやつでしょ?

もしくはここが超どマイナー作品だと仮定して、トリップ物の夢小説。

まっ何にしろ、私がヒロインなのは間違いないでしょ。



(やっぱり私って、選ばれるべき人間だったんだ!)



だって言われるがままに魔法を使ってみたら、子どもの怪我なんか治っちゃったし。



(聖女物かぁ、定番で良いじゃん!)



どうせ、清楚で清廉で男心をくすぐっちゃう私がイケメンたちと恋愛しちゃうんでしょ?

狙うなら逆ハーエンドがいい。R18ならもっと良い。

だって私、たくさん愛されたいし。


あれよあれよと王庁ってところから人が来た。

来てくださいって言うから二つ返事で付いていったのに、本当の聖女か見極めるために三機関の王庁で働いてくださいって言われちゃった。



(元ニートに働けとか勘弁してよ〜〜……)



——まあ、でも?


別に役職をもらったりするのは何だか特別扱いって感じで良い。

しかも、安全のためとかで王城に住んでいいとか最高。

部屋は綺麗で広くて、侍女も付いてる。王庁までは馬車で送迎。


しかも、第二王子とかいうジルは超美形だし。

王城の中でもあんまり会えないけど。

忙しいんだって。つまんない。


三機関にはそれなりにイケメンがいた。

でも、ジルほどじゃない。

攻略キャラの格を感じないっていうか。

でも唾つけといてなんぼでしょ?狙うは逆ハーエンドだもん。



「カンザキ護政官補助!品位ある王庁でそんなはしたない真似をしないでください!」



(あ〜〜うっざ。何このお局キャラ)



王庁のロビー。

名前はわからないけど、それなりに顔の良い男がいたから楽しく話していたのに、またいつもの年齢不詳のババアが怒鳴ってきた。うるさいから本当に嫌。

長く生きてると説教も長くなるの?



「あ」



見つけた。


お局キャラの向こう側。

金髪イケメン。顔を見ればわかる、俺様系。

知的キャラも同級生系キャラも悪くないけど、やっぱり俺様系が好きなんだよね。

この人は絶対に攻略キャラ。俺様枠。


——なのに。



「……ちゃんと頭に入れろ。騎士官への妨害になるって言ってんだろ。この国ではそれなりの罪になるんだよ」



——違うでしょ。

あなたは突如現れた美少女聖女の私に一目惚れしなくちゃいけない。


何で?どうして?

おかしい。

これじゃあ前の世界と変わらなくなる。

あの暗くて、食べたもののゴミと通販の梱包箱で散らかった部屋はもう嫌だ。

何でなんでなんで?



「あ、そうか」



これ、成り代わりなんだ。

夢小説でよくあるやつ。原作で美味しい立ち位置のキャラに自分が成り代わる。

だったらこの世界では、この女がソレだ。

だって私と似てるし。




♢




(私としたことが、やっとそれに気づくなんてなぁ〜)



中庭に面している外廊下を歩く。

ここは所属関係なしに人が集まる場所らしく、片隅では煙草を吸っている人もいる。


気づいてからは何もかも上手くいくようになった。


あのアルクセイって子の身につけているもの、メイク、仕草、話し方。

ぜーんぶ真似をした。

必要なものがあれば、保護してもらっている王城の侍女に買いに行かせたし、更衣室の個人用の棚から借りたものもある。


私の努力の効果は、すぐに出た。



『変わったものをお持ちのようですけど、それは何ですか?』

『これ?スマホっていうんだけど電源つくかなぁ』



ジルが私の持ってるスマホに気がついて声をかけてきたのだ。

今までは顔を合わせても笑って「仕事があるので」とか言ってたのに。


でも、いいよ。許してあげる。

だって聖女は心が広くないとね?



『そういうのに興味がある人たちがいるから協力してくれませんか?』

『うん!いいよ!』



連れて行かれたのはむっさいおっさんたちの集まりだった。

中には女の子もいてちょっと嫌だった。



『ジル!久しぶり!連絡くれてありがとう!師匠たちに話してみたら興味津々でさぁ〜!スマホを見れるの楽しみにしてたんだよ!』



その女はケラケラ笑いながらジルの腕を叩いた。

ジルも嫌がることなく笑ってる。


いるよね、クラスに必ず一人いる男女の友情は成り立つって信じてる女。私って性格良いですって顔で、クラスの一軍にいるの。

しかもそういうタイプの人間って平気で他人の机に座る。

ていうか、馴れ馴れしくジルに話しかけないでほしい。

その人、私の攻略対象なんだから。



『ほぉ〜〜これがジルベルト王子が仰っていたスマホですかぃ』

『ガッグ老。今日は王子ではなく、枢機官で来ているので』

『そうでしたなぁ。して、これはどのように使うんです?お嬢さん』



聞かれたから答えたけど、そのおじいさんは、



『電話?カメラとは、はて写真?キーボード?充電?電気で動く?よし、ならそこのお前、雷属性だったな。ちぃとやってみてくれ』



矢継ぎ早に聞いてくるものだから、途中から説明が面倒くさくなって、おっさんたちにスマホをあげてきた。なんか知らないけど充電もできたみたいだし。


どうせこの世界には、ネット環境なんてないからアプリのアプデもできなければ夢小説も読めない。あっても使えないもん。


しばらくしたら、何か魔導具界が発展したらしい。

遠くの人と話せるとか、書類が送れるとか、私のいた世界では当たり前のことなんだけどなぁ。

その功労者が私ってことになっていろんな人に感謝されるようになった。



「あれって選択肢だったんだろうな」



気分が良くて鼻歌も調子が良い。その場でくるんと回ってみたりもしちゃう。


さっきまで枢機会で偉い人たちに、さすが聖女様だとか、やれ我が家の養女に〜とか何とかちやほやされてきた帰りだ。ちゃんと謙遜も忘れない。たぶんあの子ならすると思うから。


もう私に意地悪を言う人はいない。



「あっ、オーウェン!」



廊下の先に金色の髪が見えた。

黒い騎士官の服を着て腰に剣を差している。背が高いからすぐにわかる。

その周りにはジルや双子のカロンとキラン、メーベルもいたけれど、本命のオーウェンに駆け寄って腕に抱きついた。

私が抱きついてもビクともしない。



(逆ハーを狙ってるけれど、やっぱり本命につい力を入れちゃうよね)



枢機会の人たちにお願いをしたら、上の人が話を通してくれたらしく、オーウェンが私の護衛騎士になった。



「今度の極小瘴気孔の鎮静任務、よろしくね!」

「……了解」



まだ好感度が上がってないからか、そっけないけど。

もしかして難易度高め?

まあ、これから頑張って上げるから問題ないか。



「ほら、オーウェン。もっと愛想良くしろよ」



双子の兄のカロンがオーウェンを小突いた。

オーウェンの腕越しにカロンを見上げてみると笑いかけられた。

まあ、顔は悪くない。むしろ良い?

軽いけど面倒見が良いみたい。軟派キャラのポジかな。

反対に弟のキランは穏やかで少し気弱そう。病弱ではないけど、そっちのポジ。端の方で子犬みたいに笑ってる。私が美少女だから恥ずかしがってるのかもしれない。



「ねぇ、お昼ご飯はもう食べた?」

「僕たちはもう食べましたよ」

「ええー!待っててくれても良いじゃん!私が枢機会に呼ばれてたの、ジルは知ってたでしょ〜!」



もぉっと頬を膨らませると、ジルは少し困った顔で「気をつけます」と返してくれた。困った顔も本当に綺麗。


みんなで楽しく話していると、通路の向こう側から、アルクセイが走ってきた。

魔導盤や書類を両腕に抱えて、慌てた顔をしている。



「あの子、またミスかなぁ?お昼ご飯も食べられないなんて、可哀想……」



心優しい聖女様なので、オーウェンの腕にさらにくっついて心配してみる。

走ってるから眼鏡がズレていてなんか惨め。



(ま、やったの私なんだけどね?)



朝、枢機会からの備品購入の申請書類が来てたから、数をちょーっと書き換えて彼女の名前で出したから、それの処理かな?ご苦労様。

いい加減、学習して対策すればいいのに。

ヒロインの私に偉そうな態度を取るからこうなるの。モブ女のくせに。


アルクセイはちらりと私を見て、何も言わずにそのまま通り過ぎていった。



(身の程、弁えてくれてるのかな?それともこれもヒロイン登場によるシナリオ補正?)



最近のあの子はミスが多くなったから、王庁でもよく怒られているしミスの処理で三機関の中をいつもバタバタと走り回ってる。必然的に一人でいるから、こうして私があの子の立ち位置に入り込むことができた。


上手くいってる。



「ね、メーベル!私、お昼まだだから付き合ってくれる?」



目指すは愛され聖女なんだから、女の子にも優しくしないとね。

それまでお利口で静かにしていたメーベルにも声をかけてあげる。



「いいわよ」

「ありがと〜!」



ほら、あの苦手に思っていたメーベルだって私に優しい。

そっけないけど、私の誘いに乗るんだから。


世界は今日はご機嫌で、私のために動いている。

なぜかって?



(だって私がヒロインだから!)

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