第二十七話:誓いの言葉を言いました
目の前に、豪華な装飾ですごく重そうな扉がある。
「き、緊張してきました……」
「返事をするだけって言ったでしょう? そんなに緊張する必要ないわ」
「そ、それはそう、ですけど……」
その扉を見ていると、なんだか心臓がドキドキしてくる。ついに、クリス様の護衛に……そう考えると、緊張が止まらない。
「アデル様、頑張ってください――今日はご馳走ですからね」
「シ、シルヴィアさん……ありがとうございます……!」
今日の式が無事に終わったら、シルヴィアさんがご馳走を用意してくれるらしい……
「もちろん、ヤキトリもありますよ」
「えっ! ほ、本当ですか!?」
武闘大会で食べたあのおいしい食べ物――どうやら、ハヤテさんに作り方を教わっていたらしい。いつの間に教えてもらったんだろう……?
香ばしいにおい、少し甘くてしょっぱい味。想像するとお腹が減ってきてしまう。
「どうやら、緊張はほぐれたようですね」
不意に、シルヴィアさんにそんなことを言われる。
「あっ……た、たしかに……」
確かに、さっきまで感じていた緊張はもうあまりなかった。ヤキトリのことを考えたおかげだろうか……?
「まったく……ヤキトリが本当に好きなのね、アデルは」
「うぅ……だって、本当に美味しいんですもん……!」
呆れたようにため息をつくクリス様……美味しいんだからしょうがないんです!
「さ、そろそろ開くわよ……それじゃあシルヴィア、ご馳走の用意をお願いね……ヤキトリをたくさん作ってあげて」
「かしこまりました、お嬢様……では、頑張ってくださいね、アデル様」
「はい! そ、その……ヤキトリ、楽しみにしてます!」
「はい、とびきり美味しいのを用意して待ってますね」
そう言ってシルヴィアさんは一足先に帰っていった。
◇
それからしばらくして……目の前の扉がギィィと音を立てて動き始めた。
「それでは、我が帝国が誇る第一皇女、クリスティアーネ・メモリア・フォン・アルシーヴ様とその護衛候補――武闘大会総合部門の優勝者――アデル様の入場です!」
お腹の奥に重く響き渡るような声が聞こえ――扉が開いた。
そして、クリス様が歩き出す。私は前を歩くクリス様に置いて行かれないようについていく。
扉を抜けると、そこはとても大きなお部屋でした。天井の窓から差し込む光がお部屋を照らしていて、きらきらでとても綺麗です。
そして、お部屋の中にはたくさんの人――その中には見たことのある人たちもいた。
奥の方で私たちを待ち構えるかのように立っている皇帝陛下さん。
そして、その横にいるのは先ほど会ったヴァレリウスさん――こっちを見てニヤニヤしています……
「おい……あれが……」
「ああ、武闘大会……優勝者」
「……しかし、出自が不明だとか……」
「大丈夫なのか……そんな怪しい人物を……」
そして両脇に並んでいる人たちから、ヒソヒソとした声と、じっと見てくる視線を感じる。
なんだか、すごく気持ちが悪い……きゅっと服の裾を握りしめ――ようとしたその時、突然左側の手が取られた。
えっ、と驚いて視線を落とすと――クリス様が私の手を握ってくれていた。
「……前を向きなさい、アデル。私の護衛になるんでしょう?」
クリス様は歩みを止めることなく、振り返りもしないまま、そう言葉をかけてくれた。クリス様の手の温もり――これに触れると、不思議と不安な気持ちがなくなってくる。
(そうだ――私はクリス様の護衛になるんだ!)
ぎゅっと、クリス様の手を握り返す。そして、一歩、足を踏み出した。
◇
「よくぞここへ来たな、アデルよ――では、これより我が娘、クリスティアーネの専属護衛の任命式を執り行う!」
私とクリス様が皇帝陛下さんのもとへたどり着くと、ささやくように声をかけられた。そして、大きな声で任命式の開始が告げられる。
その瞬間、周りの空気が変わった。張り詰めたような、緊張感を感じる。
「では、始めよ、クリス」
「分かっているわよ、お父様……汝、アデルよ」
突然、クリス様から呼びかけられる。いつもとは違った、この場に響き渡るような大きな声。私は、とっさに膝をつく。それと同時に、クリス様は腰についた剣を引き抜いた。
「我が剣、我が盾として、その命尽きるまで我を守ることを誓うか?」
その言葉とともに、じっとこちらを見るクリス様。
――この目を見ていると、花畑での出会いを思い出します。
目が覚めたらどこかもわからない場所にいて、自分のこともわからなくて、とても怖くて、泣いちゃって――でも、クリス様が助けてくれた。
『名前がないのは不便でしょう。そうね…… “アデル”、今日からあなたはアデルと名乗りなさい』
そう言って、記憶のなかった私に、何もなかった私に、名前をくれた。
そして今、私にクリス様を守るという役割をくれようとしてくれている。
クリス様はとても強いから、私の守りなんて本当はいらないのかもしれない。
でも、この人が危険に晒されるのなら、私は守りたい。
この人がどこかへ行くなら、私はその傍にいたい。
たとえ何があろうとも。
――私は、クリス様の護衛になる。
だから――
「はい! 誓います! 私は、クリス様の護衛になります!」
そう、誓った。
少し上を向いて、クリス様と目線を交わす。私の視線を受け止めたクリス様は、口元をほんの少しだけ優しく緩めた。
そして剣の切っ先を私の両肩にそっと触れさせ、ゆっくりと鞘へと収めた。カチャリ、という音が、響き渡った。
「よろしい。その誓い、確かに受け取ったわ。今日からあなたは、私の、たった一人の護衛よ」
――その瞬間のことだった。
突然、天井の方から窓の割れる音が聞こえてきた。きらきらとした破片が天井から降り注いでくる。
次の瞬間――轟音とともに何か巨大なものが広間へ落下した。
衝撃で床が震え、視界が一気に土煙に覆われる。
いったい……何が……? クリス様は……無事?
そう思ってクリス様の方を振り向いた――っ! 何か――来る!?
そう思った時、私の体はすでに動いていた。護衛として、クリス様を守るため。とっさに私は魔法を紡ぐ。
「クリス様!――【魔力障壁】!」
そして、クリス様をかばうように前へ出て、障壁で迫りくる何かを受け止める。
こうして私は、クリス様の護衛になった。
そして同時に――護衛として最初の戦いへと身を投じることになった。




