#41
「#41」
アミアミの床に這いつくばるマスターへ誠次が問いかける。
ようやく、視力と聴力が回復してきたマスター。
「そろそろ、聞こえてるだろう…
益田、どっちから死ぬか選ばせてやるよ‼︎
サラか、お前か?
どっちだ…答えろ、オレは優しいからな選ばせてやるのさ⁉︎」
指を通した引き金を軸にクルクル回しておどけてみせる誠次。
「誠次さん、本当に殺すんですか?
社長や愛澤さんには何て…」
副島の声に銃口を、副島に向ける誠次。
「ソエ、邪魔すんなら…お前の身体に風穴開けてやるぞ‼︎」
「すんませんでした‼︎」
恐怖で縛り付けられた関係性が丸わかりだ。
「あのデブタヌキの顔を思い出したら萎えたぜ…
おい、前嶋…サラから殺せ‼︎」
誠次の声に…
「サラ、サラ、サラ‼︎」
朦朧とする意識でマスターは叫ぶ‼︎
「誠次さん‼︎
脅すだけで良いって…
そういう約束だろ‼︎
サラは大切な仲間だ、殺せる訳ないだろう‼︎」
遠くで低い機械音が響いている。
「ふーん…
わかった、そうか…裏切ったのか。
それじゃ…サラよりも先にお前のアイシテル彼女から殺してやるよ‼︎」
副島は前嶋に銃口を向ける。
「やめろ、若菜は関係ない、頼むよ…」
前嶋はサラの首元のナイフはそのままに…
懇願する…
そういや、フィナーレの時は…こんなふうに懇願する人間をたくさん殺したなと前嶋は思い出す。
愛してるか…愛って凄いもんだな…
因果応報………かな。
苦笑いを浮かべる前嶋。
胸ポケットから電話を取り出し、どこかへ通話する誠次。
「おい、クレーンのとこに人質連れてこい‼︎」
その言葉に部下から思わぬ返答が返ってきた。
「鼻毛にやられました、逃げられました…申し訳ありません…」
電話をブツりと切る誠次。
それは誠次の思考回路も切る音になった。
怒りでマスターを撃つ‼︎
銃弾は右の腹を貫く‼︎
弓形に身体を揺さぶる…
衝撃と、さらなる出血でマスターの意識は遠退く…
「サラ‼︎」
床に完全に倒れ込むマスター。
「ダーリン‼︎‼︎」
サラは悲鳴を上げる。
前嶋はサラの耳元で…
「まだ、まだだ、チャンスは必ず来る…
それまで我慢して…サラさん…」
誠次までは5メートルくらい、マスターまでは…さらに3メートルくらいは離れている。
誠次と反対側に副島が2メートルくらい離れたところから銃口を向けている。
…サラは唇を噛み締める。
誠次の銃口はシュガーへ向けられる。
「お前も死んどけ‼︎」
残弾を気にせず、撃ちまくり…
すぐにリロードする。
まるでゾンビゲームでもプレイしてるみたいだ。
拘束されたままで器用に身体を揺さぶり、銃弾をかわすシュガー。
それでも右耳を銃弾が吹き飛ばした‼︎
頬を伝う血液が痛々しい。
「おお、ダンスが上手なんだな…
もっと踊れよ‼︎」
再び、銃弾が乱れ飛ぶ‼︎
同じように身体を揺さぶり、かわすものの…
今度は左太腿を銃弾が貫いた。
血液が激しく噴き出した。
衝撃で椅子ごと床に倒れ込むシュガー。
痛みを必死で堪えている。
…眉間に皺が溜まる。
ニヤニヤしながら倒れ込むシュガーに跨る誠次。
銃口を額に押し当てる…
ここまでかと観念するシュガー…
誠次の背後から重低音が響き渡る。
誠次は振り向こうとするタイミングで後ろへ吹っ飛んだ‼︎
ミスターノーズはクレーンを操作して、アーム部分に掴まって誠次へ飛びかかった。
誠次の銃はどこかへ飛んでいく。
ノーズは思いっきり力まかせに平手打ちを喰らわせた‼︎
「このバカ息子が‼︎」
誠次の左頬は手形がはっきりわかるくらいに腫れ上がる。
その怒号と共に今度は副島に向かって突進するノーズ。
「撃て、撃て、副島‼︎」
誠次の声が響き渡る。
頭を守るように両腕でガードしたまま突進をやめないノーズ。
乱れ飛ぶ弾丸、全て…ノーズを掠める程度、切り傷がいくつか出来た程度…
ノーズにしたら些細なことである。
副島は慌てふためく。
ノーズの強烈なラリアットが副島の喉仏を潰した‼︎
真後ろに吹き飛んでいく副島。
白目を剥いて泡を吹いてアミアミの床に倒れ込む副島。
脳震盪寸前の誠次。
朦朧とする意識…
今度は自分が追い詰められたことに気付いた。
ノーズは叫ぶ‼︎
「若菜ちゃんは助けた、無事だ‼︎」
その声だけで十分だった…
前嶋はサラの首元のナイフを離して解放する。
戦闘態勢をとる前嶋。
サラは倒れ込むマスターを目指して駆け出す。
朦朧とする意識の中で誠次はジャケットの裏ボタンに仕込んでいたスイッチを押し込む。
その刹那…
前嶋の足元が光る。
「え⁉︎若菜ぁーッ‼︎‼︎」
前嶋は足元に視線を向けた…
轟音と共に爆発が起きた‼︎
爆風の衝撃でサラは前嶋の肉片と共に吹き飛ばされて柱へ叩きつけられて失神する。
前嶋のいた場所は半径1メートルくらいの穴が空いて下の光景がはっきりと見えるようになった。
アミアミの床もグニャりと…ひしゃげていく、奈落の底に誘うようであった。
ノーズは両腕で頭を守るのが、やっとだった。
「ああ、なんということを‼︎」
ノーズの落胆する言葉に誠次。
「…だろうと思って、前嶋の靴にカナヲ特製の毒爆弾を仕込んでおいたんだよ‼︎
流石、スペシャルな爆弾だぜカナヲ‼︎
最高だー…天才様々だ‼︎」
「誠次、なんてことを…」
その言葉への返答として…
隠し持っていた細身の銃を腰から取り出して4発撃った…
ノーズの左脇、左ふくらはぎ、右肩に当たる。
銃弾は筋肉に遮られ、貫通はしなかった。
静かに…とうとうと溢れ出す血液。
膝をつくノーズ。
痛みよりも怒りが支配していた。
失神していたサラは意識を取り戻すと、状況を把握出来ないままに誠次に飛びかかる。
怒りで我を忘れていた。
マスターも美優希も殺させはしない…
その妻と母親という愛が故に…
戦闘の勘や技術は鈍るということなのだろうか…
サラの華麗な連続攻撃、まるで曲芸のような動きで幾つもの蹴りやパンチを繰り出す…
それを全て絶妙なバランスとタイミングで受け流してみせる誠次。
「残念でした、弱くなったなサラ…
オンナでいすぎたのさ…
オレはキメてるからな、スペシャルなんだ…
愛と共に…さよならフィナーレだ‼︎」
誠次の銃が火を噴く‼︎
至近距離で心臓を貫いた弾丸…
前嶋が空けた穴に落ちていくサラ…
「ゴメンネ…ミユキ……」
微かな意識で、それを見つめるマスター…
「サラ、サラーーーーーーーーッ‼︎‼︎」
それきりマスターは意識を完全に失ったしまうのだった。
身体中が総毛立つ、怒髪天をつくノーズ。
否、鼻毛虎吉として…父親として…
赤鬼と呼ばれた鼻毛がバカ息子へ何事か伝えようと動き出した。
自慢の髭も怒りに満ちてみえた。




