第二十五話 死の宣告、偽りの影と謀略、『異界送り』の極刑に処す!
ニーシャに耳打ちされた事実に固まる。彼女と会話を済ませて周囲を見渡した。
ギャラリーにいる村人達は困惑していた。目の前で繰り広げられたことは本当に真意なのかと。
それは一人のエルフが勇敢にも帝国の上人に意見したからだ。
村人達は伝承にある大罪人その人でないことは、重々分かってはいた。
村人達は思っていた。
過去の負の遺産を清算するため、誰かに責任を取らせないといけない。奪われた命や繁栄した悠久の刻は遺恨となった。数百年と経過した今でも村人達にとって、痛烈に残った遺恨は受け継がれているのだ。だから、はっきりと区切りをつけなければと。
ある者は幾度と抱えられてきた負の感情を強烈に持っていた。
ある時、大罪人と同じ服装の人物と遭遇したのだ。
銀色の光の要請で洞窟までいくとその者と出会った、村人数名は驚愕する。伝承の人物と同じような服装をしていたからだ。隣には銀色の光がいて彼女は汚れていた、伝承通りならまた、災厄がやってくる。そして、これまでの代償を払わせるべく捕縛したのだ。大罪人と似た服を装う人物と出会い、恐怖に慄き、また安堵したのだ、ようやく報いを受けさせれると。
だから、罪がないと意思表示をしている相手にも、村の民衆は大罪人として晒し上げたのだ。表面上でしか見てない彼らにとっては、格好の的で何処からでも矢で射抜いていいと思っているのだ。
個人の小さな思いも大衆になると膨れ上がり、責任の在りどころよりも、心に刻んでおくだけで、募った分の負の感情でしか物事を判断しなくなる。周りの意見に流される、そんな集団心理が働いていた。それは余りにも固い結束だった。この村には大罪人と呼ばれる悪猿ーー孫西が半壊させた事実があり、その被害というものは甚大だった。復興するにも帝国に支援を要請、上人に媚びへつらい、様々な人が入り乱れた。
純粋な村人は半数以下まで減った。営み住んで流れ着いた冒険者や帝国との用人がこの村を復興させて今に至っている。だからこそ、報いを受けさせなければならない、そう皆が思っていた。
しかしーー思想という統合された意識がここで揺れ動く。
民衆はガヤガヤと互いの価値観を擦り合わせ始める。
「ちょっと、あいつ可哀想だよな・・・」
「クック・・・そんな事はねえよ、あの目を見ろ、今にも人を殺しそう目だ。」
「確かになあ、あいつの見た目、昔の壁画に描かれている大罪人と似てるよな」
「ああ、正におなじ服装、そしてあの目、まさしくそうだ。あれは悪しき猿の末裔なんだろう、おー怖い。」
「でも、あのエルフの冒険者は襲われてないって・・・」
「そんなのエルフのプライドが許せないだけだろ」
「でも、あの男の人が冤罪だって・・・」
「馬鹿言え、同じ身なりで民族も一緒なら俺たちにやってきた責任はその民族にも責任があるだろうが!」
「殺せ!殺せぇ!!」
「ねえ、お母さん、あの人何で捕まってるの?」
「あの人は・・・そうねえ、悪い事したからだよ」
「でも、あのお姉ちゃんが助けてたような・・・」
「それは・・・」
ーーザワッ
村人達の意思がぶつかり始めた。集団意識は、一人の少女の声を皮切りに伝播していく。村人は感じていたものを吐露し始める。論争が起こる。
それはニーシャが五行を弁明したことによる、一石を投じた勇気ある行動によって、大衆心理が揺れ動かされたのだ。
テミスが、口を開いた。
「静粛に!静粛に!静粛にしたまえ!!」
あちらこちらで論争をしている村人達は、静まる様子はない。
ーーカンッ、カンカンッ!!!
「静まりたまえ村の民らよ!!厳粛な場に於いて、秩序を持たぬとは何事か!我が協力しているのは其方らの為でもあるのだ!大体、先程から物を投げたり野次を飛ばしたり、程度を知れ、程度を!身の程を弁えるのだ愚民共が!!」
ゼェゼェ…と、テミスは憤り体を震えさせていた。中性的な顔も眉間に皺が寄り、苛立ちを隠せれない表情となっている。
え、ええっ……めっちゃブチ切れてるやん、この人。規律と秩序を一番に重んじる人間なんだろうな、こんなに怒ってるとは。流石の俺でも引くぞ……。まあ、テミスもこれには予想外なんだろうなぁ、きっと……。
「あの人、大丈夫なのか、ニーシャ?」
「えっと、たぶん?」
ニーシャは苦笑いで頭を掻いた。
テミスは、心を落ち着かせ深呼吸し考えがまとまったのかメガネをくいっと上げてニヤリと微笑む。そして言葉を紡いだ。
「被告に最後のチャンスをやろう。白か黒か村人の総意の下、投票を行う。勿論、我のスキルでだ。」
「テミス様、待ってくれ!」
「なんだ、ナッパー・パラシュよ?」
「そんなことをしなくても、あいつは大罪人の子孫なんだろ?だったら、もう・・・死刑にしてーー」
「ナッパーよ、それ以上は口を慎め。これは個人の裁量で委ねられる選択ではない。」
「おーいナッパー、残念だったな!」
俺は磔された状態でナッパーに向かって叫んだ。
「くっ・・・」
顔を俯かせて喰らってる様子だ。
「被告、では取りかかろう。村の民はこれほど意思を揺れ動かしているのだ。双方が納得した形で終演を迎えるとしよう。」
「ああ、そうだな・・・まったくその通りだ。なあ、テミス様よお、最後は花持たせてくれよ?」
「其方のサイは投げられたばかりだ。」
意味深な言葉を投げかけられる。
「さあ白か黒か、心の中で問い私に念を送るのだーー」
テミスの元に広場に集まった村人達の思念がスキルによって集約される。
「ーー総意は黒か、これはまた漆黒のような・・・」
三つ目の紋様が赤く光る。
「ヌハハ、ざまあないな、さっきのは負け犬の遠吠えか!」
「殺せ殺せぇ!」
観覧席から聞こえる罵声に俺は聞く耳を捨てた。残念だ、まあ何となく分かっていた。隣に立つニーシャも静かに聞いている。
「被告、では始めようかーー」
俺の権能でテミスの目の前にスキルが走ったのを視認した。
スキル《人狼前夜》▷紋印効果[冥界影狼]発動
石柱の紋様から三体の狼が繋がった黒い影が現れた。まるでケルベロスのようだ。
黒い影のケルベロスが石柱から引き剥がれ咆哮する。そして磔にされた俺の地面に溶け込むように転移陣のような紋様になって消えていった。
ーードクン、ドクン
心臓が忙しなく鼓動している。
「皆の者、我が声を聞き漏らさず届けるがよい。」
ーードッドッ
鼓動が速くなる。脈を打つたびに体中に血液が駆け巡り視界が一点、テミスの口に集中する。
テミスは厳かな雰囲気を醸し出し声を出す。
「これより宣告する。忌まわしき過去は厳正な判断と村人の総意に基づきーー」
カンカンーー
「『異界送り』の極刑に処する。」
「殺せっ・・・殺せ?は、話が違うぞ!テミス!!」
一人の人物が観覧席から身を乗り出すように叫んだ。誰だあいつは?
【ジャン・コウホウ】[螟ゥ蝣穂ココ]
素性を確認した。あいつも名前の横が文字化けしている。
「ジャン殿・・・決定したのだ。」
「話が違う、火刑の筈だ!」
ギャラリーにいるチャンは俺を一瞥し村人達の影に潜んでいった。近くにいたナッパーは、不思議そうに思っている。
今し方、食い入る様にみてる男、ジャンは強烈な憎悪を俺に向けていた。なんだ、俺にそんな恨みでもあるのか、べつに何もしていないが。
ジャンが取り乱すのも訳がある。これは俺達にとって想定内の出来事だった。ニーシャが始めに、ここに駆け寄って耳打ちした事実ーー俺はそこで謀略を知ったからだ。
あの時の耳打ちーー
◇
ニーシャと交わした会話の内容はこうだ。
『五行、あなたはここで必ず刑が執行される。』
『えっ!?ニーシャなんでいきなりそんなこと・・・』
『違う、あなたを貶めたい訳じゃない。これは本当。この村は陰謀が渦巻いている。それは私のエルフの血のせいでもある。』
『そ、そうか、でもどう言うことだ、それは?』
『うん、はじめに五行を巻き込む形になって本当にごめんなさい。』
『え?ああ?うん。』
『説明するね』
『分かった、頼む』
『私はエルフの汚名返上として旅をしてる、それはさっきテミス様に向けて言った通り。エルフ族が弱い存在じゃないってことをこの世界に知らしめなければいけないから。汚名には奴隷などの人身売買といったものがあるけど、一番の俗説として流行病のよう感染してるのは、エルフの心臓を食べると不老不死になると、そう言われているんだ。』
『そ、そうなのか・・・』
『うん、疑いたい内容だよ。だけど、どうやらその話は本当に広まっている。この村に訪れて明らかに私を狙う者が増えた。』
『マジか・・』
『そう。五行と一緒に弔ったセイラ・アニャーロ、彼女は同業者で役職は盗賊だった。彼女は私とこの村で魔物討伐をしていると、ルーキーでやってきた人達が減ってることに気がついた。彼女は盗賊だから鼻がきく、あの時も彼女に野営を任せていた、彼女が簡単にやられるような人物ではないと思ってる。』
『それは、誰かが隠れて仕向けたって言いたいのか?』
『分からないけど、怪しい動きをしていることを同業者に聞いたんだ。』
『そうなのか、誰だそれは?』
『実は五行も、もう会っているよ。その人はかなり強い傭兵なんだ。』
『え?うそだろ、誰だ、もしかして・・ナッパーとか言わないよな?』
『あー、違う違う。あの人は冒険者家業を引退して、この村の酒場の店主をやってる人だよ。だけどナッパーさんも怪しい。』
『そっか、あのニーシャ聞きたいんだけど、ナッパーとは別にその、関係とか・・・ないよな?』
『ええ?ある訳ないじゃない。やめてよ五行、面白い冗談を言うのは。』
『あっ、ははは、そうだよな、いや良かった』
ナッパーと、関係性がなくて凄くホッとした。
ニーシャは首を傾げて喋り始める。
『傭兵で、大剣を担いでる狼の傭兵、狼存孝=ロウ・ソンコウさん。情報筋で村で起きてる惨状を私に教えてくれた。』
『ん、狼?ああ、なんか見たことあるような?』
『うん、洞窟から出た時だね。ソンコウさんが言うには、この村は天堕人が人を食べるルーキー狩りの村だってこと。』
『え?はっ?人を食べるって?ごめん、色々理解が・・・えっとまずその天堕人て一体何なんだ?』
『あ、そうだね。天堕人は天から下界へ堕ちた、堕天した神のことだよ。』
『ちょっと待って、神様なのか?だけど、何で神が人を襲うんだ?』
『それは、私にも分からない。』
『だけど、待てよそしたら、この村は本来の村人とその天堕人が共栄してるっていうことになるが?』
『ふふっ、やっぱり五行は天才だ、初めて会った時からそう感じていたよ』
『え、あ、ありがとう』
真正面から褒められると何だか胸がくすぐったくなるな。
ニーシャは微笑みから真面目な顔に戻る。
『本題はここから、この村は帝国と繋がっているブローカーがいる噂がある。そして人の肉や、エルフの肉を提供している一派が隠れ潜んでいるって聞いたの。』
『人の肉、エルフの肉とクソ野郎だな』
『そう、私はその噂を聞いてここにやってきた。ちなみにテミス様にお願いしたのは私だよ』
『は?えっ、そうなの??』
『あの人、ああ見えてノリノリで役に入ってるから。』
『ウッソン・・・僕、死ぬ思いで・・・』
『あはは、それは本当にごめんね。だけど本心だから、私があの場で言ったこと。そして、村人達に示さないといけない・・・天堕人を引き摺り出すために。私は初めて五行と会った時、村の伝承とあなたが関係していそうなことに目を付けた。だから、私は悪い女だと思う。利用したんだ、五行・・・私は一族の汚名を晴らすために。』
初めて会った時の珍獣を見るような目はそういうことだったんだな。だから、利用価値があって親しくしていたのか。彼女にとっての俺はその程度なんだろう。まあ、別に今更それを聞いても、咎めるつもりないし、そう言うもんだよなって思える自分がいた。利用されてもいい、彼女はそれだけ一族の汚名を返上したいって気持ちが伝わってくるから。嘘偽りを吐かれるより、よっぽど現実味があって聞く気になれた。
攻撃されるより優しくされただけマシだと思う。それに彼女に惹かれたのはその芯の強さだ。会った時から弔う迄も離れた時も今この場で弁明した時も全部が一貫しているからだ。全くブレていない。
普通の人なら無理だ、複雑に絡み合った状況で取捨選択して己を通すなどという、人ならざる行い。だから、応援したくなる気持ちもあるし全てが理想の女性だった。
『ああ、そっか・・・まあ、何でもいいや。どうせ碌なことないと思ってたさ。むしろ、本音で話して貰った方が俺としてはありがたい。純粋な胸のドキドキは返して欲しいがな。』
「ドキドキっ?そ、それは私も別に何だ、その感じてはいたり、してなかったり?」
え、これって脈アリってことですかい?少し耳が赤くなってるけど。つか、この場面で俺らは一体何をしているんだ。話を戻そう。
『あーだけど俺が居なかったらどうしてたんだ?』
『それは、罪人に憎しみを持つ者がいなくなるから、天堕人を探すのは難しくなるね。最初の段取りは私が自己犠牲で動く手筈だった。』
『そっか・・・』
『うん、テミス様に要請したのは、私に何かの罪を着せてここで執り行う予定にしてて。だけど、色々と手違いが発生したからこんな形に。勿論、私が死なれると天堕人は困るから、何かのコンタクトがあると踏んでいた』
『それに、私達は五行が監獄にいる間、敵の本拠地を見つけた。この村から輸送するにも時間が掛かる筈だけど、転移してるから時間を早めていた。村人達の動向を探っていると、神殿に飛ぶ転移陣を使っていることがわかった。』
『神殿か、そんな所に本当にいるのか』
『うん、間違いなくいる。そして私と五行がそこに乗り込む予定だ。本当は私一人で行くつもりだったけど、寝首をかくにも確率を上げたいから』
『無茶苦茶だよ。まったく、策略にも程があるぜ。なるほどそこまでがセットてことね。はぁ、ニーシャと会った時から掌の上って訳か。』
『ふふっ、そんなこともないよ。』
『え?』
『何でもない。』
そう、これは逆に仕向けてるのだ、天堕人というクソ野郎どもを罠に嵌めるために。そこに、俺が上手いこと転がり込んだだけのこと。テミス、ニーシャ、ロウソンコウにとっては嬉しい誤算だったのだ。帝国に密売してる奴を洗い出す作戦。まったくよ、してやられたぜ。まあ、お陰でこの世界での繋がりが出来たのは確かだ。
◇
ーージャンは取り乱している
そしてテミスの言葉が反響していた。
あの時ニーシャから話を聞かなかったら、本当にテミスのことぶん殴りにいってたところだろう。にしてもだが、このスキルヤバすぎるな。拘束と攻撃、政治力においてこのスキルは脅威的すぎる。仲間だと分かって本当に良かったと思う。
テミスはスキルを行使しギャラリーを一望し静かに語る。
『ロウソンコウ・・・ここに恐らく数十名どす黒い敵意を漏らしてる者がいる。ジャン殿もそうであろうが恐らく小物。他を暴き出すのだ。』
テミスの祝福効果には感情を読み取る能力があった。村人全員にスキルを使う方法として、紛らす必要があったため、遠回しにやったのだ。敵勢力を洗い出すためにひた隠しにしたのだ。
白か黒か、その問いは善か悪かという問いだった。その時、村人達に感じた感情の中に強烈な殺意を持った者が数十名現れたのだ。
テミスに背後から瞬時に現れたのは、ロウ・ソンコウだ。人狼としか思えないその姿と目の傷は歴戦の猛者を物語っている。灰色のたてがみは靡き大剣を背負った姿はまさに傭兵の中の傭兵。
小声で二人は話す。
『やっと、ワシの出番か』
『うむ、強烈な殺意を被告に持っておる者が数十名いる。被告か、あやつのことを聞いた時誠しやかだったが、一芝居打てて何よりだ。我々が利用してるようなものだが。しかし帝国も危機迫る状況、この機を逃すと奴らの勢力は増える一方。』
石柱に縛られた俺は足元に現れた転移陣を見つめる。神々しく光った。
ニーシャも俺の傍で転移を待っている
「本当に一緒に行くのか?」
「勿論、この先にこの村でエルフの肉を集めた人物がいる。」
ーー転移陣が光る瞬きの中、ロウ・ソンコウがこちらを振り返り、大きめの袋を投げた
俺はそれを磔の状態で見つめた。
「お、おい!何だよこれ!!」
「フッ坊主、また会えるさ・・・」
「な、ちょっーー」
展開された、異界送りの陣が明滅しゴォンという音が鳴る。
二人は転移の光に呑まれた。
「チッ、クソが・・・」
ジャンの様子が村人から異形の姿へと、いや元の姿になった。村人や冒険者は一体何が起こっているんだと逃げ惑う。
「行ったか、テミス!こちらはこちらでやるぞ!」
ロウ・ソンコウは巨大な大剣を担いだ背中から取り出し片手で持ち肩で大剣を支えた。テミスも頷き、遠く転移した二人の生存を願った。
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【まあまあじゃね】★三つ
【いまいち】★一つか二つ




