第二十四話 磔にされた者は反撃できず銀色の光に導かれる
テミスは見下す形で俺の方を見ていた。水色の髪を後ろに流し眼鏡を掛けている、その顔は整った顔立ちで何処か神々しさを放っていた。中性的で性別はわからない。そして逆に俺は石柱に磔にされ見上げる形でテミスのことを睨んでいた。
まるで、神と平民が対話しているかのようであった。
観覧の席ではギャラリーが野次を飛ばし物やら石を投げている輩もいた。
テミスが喋り始める。
「皆の者と被告に伝え忘れていたが、我のスキルで石柱に現れた狼の紋様が三つカウントされると被告に判決宣告を下す。被告はこれに抗えず強制執行される。宣告内容は予めこちらで聴取したもので宣告を言い渡す。」
「強制執行だと!?」
額に冷や汗がたらたらと垂れてくる。えもいえない汗と悪寒に襲われる。
「そうである。では、続けて参る。」
どうやら考える余地もなさそうだ。
テミスは聞く。
「被告は人を殺したことはあるか?」
「そんなもん、ある訳ねえだろ!」
人を殺すだと、俺がそんな事するわけがないだろ。いや、でもこの異世界だと当たり前なのか、大前提の部分から聞いているのかもしれない。
テミスはスキルで確認しているようだ。
「・・・ふむ、嘘偽りは無さそうだ。」
「当たり前だろ」
「では、出生は何処か?」
「日本だ」
「日本?それは初耳であるな・・!?」
テミスは視界に表示されている情報を見て驚く。
「どうした?」
「いや・・・事実を確認した」
「この世界じゃないからな」
「この世界ではない?」
「そうだよ、この異世界に転生したんだよおれは」
「なる、ほど・・・嘘偽りはない。しかし、転生者か天堕人の類いか・・・或いは・・・本当に異世界の転生者か、聞いたことないが・・・」
「何をぶつぶつ、もういいだろ?事実しか言ってない、それに紋様も一つしか光ってない。完全な誤解だ!」
「ふむ、だがしかし」
抑揚のない声でテミスは続けて喋る。
「容疑の審問となるが、我のみが語るのはやぶさかでは無い。我は帝国から遥々やって来たのだ、ある人物の依頼でこの村に赴いた。我は被告の意思と村の民の意思を尊重しこの場を指揮ってはいるが、本来ならば村代表から審問し、裁かれるべきなのだ。」
村人達は静かにテミスの話を聞いている。中には、訝しげに見ているものもいた。帝国?村の者ではないのか、なるほど貴族のような荘厳な雰囲気を纏ってるのも頷ける。ということは、俺だけのためにここに呼ばれた訳でもなさそうな雰囲気だな。さっき、依頼を受けたとも言っていたような、俺はその噛ませ犬的な役割か。だが、村に伝わる伝承と言うのも事実だ何を裁判にかけられているのか。
テミスはギャラリーの方へ向けて言う。
「では、原告側となる村人代表チャン・ウェイよ、この村の民の総意として席に立ちたまえ。」
チャンだと?俺を監獄でずっと見張っていた奴だ。確かに俺のことをこの異世界に来てからチャンは誰よりも見ている。2交替勤務から一人で様子を見に来たりもしていた。
「次の審問は原告からとなる。」
証人が話すための証人台が俺の斜め横に地面からズズッと石の台が生える。これもスキルの効果か?
チャンがギャラリー側から用意された台に歩いて立った。
チャンがニッと笑って喋る。
「お前に裁きを受けさせる前に俺からの審問だ。良かったな、別れの時間を惜しむくらいの猶予を持たせてもらえて」
「黙れよ、審問やるんだろうが」
「お前、檻の中だと黙っていたが、ククッそうか、やっぱりお前あっち側なんだなぁ?」
「ああ?何が言いたい?」
「転生者なんだろう?天界のことは知っているか?」
ストレートに転生者のことをチャンは聞いてくるが、ここは一旦、天界という言葉に疑問覚えたからそこだけ答えよう。
「天界??」
「ほう、知らないかそれとも、しらを切っているのか。お前、さては烙印も知らないな。」
「なんだよさっきから、知る訳ねえだろ」
「そうか、そうか今ので大体は分かった。」
「あ?何が言いたい」
「知らなくてもいいこともあるさ。そして、お前は只の転生者ではないということだ。」
「まあ、それは救世主って言われてたし」
「救世主?クック、、ああ、そうか・・・これはまた、とんだ運命の悪戯だな」
「もういいか?」
「まだだ、本題だ。お前、檻の中で何か拾っただろ?」
何か拾った?メモ帳のことか?こいつ、もしかして知っていたのか?わざと泳がせていたのか。そうなると言い訳は出来ない。
「まあ・・・そうだな拾った」
石柱は真意と認め事実と乖離はないか確認し反応しない。
「クックク、そうかそれは、お前のために置いたんだ、どうだ読めたか?」
何が言いたいんだこいつは。だが、嘘をつくことも出来ない。
「ああ?どういうことだよ?あれは日本語って生まれた国の言語なんだ、読めるに決まってるだろ」
「そうか、そうかクック・・・だってよテミス様」
テミスはスキルを確認した。
「スキルにより大罪人との関係性を確認できた。出生と言語が同じ民族だということが明白となった。よって二つ、村の脅威とみなす。」
ーーワオーン、獣声が広場に響く。
二つ目の狼の紋様は赤く光った。
村人達はどよめく。やっぱりあいつが見たいなヒソヒソ話をしている。
「何でだよ、くそ、仕向けられた挙句、何もしてない俺を晒しあげて、鬼かよお前ら!!」
チャンはほくそ笑み、俺から目線を外し、石台からギャラリーがいる観覧席の方へと戻り、テミスを見上げた。テミスはチャンを一瞥し俺に顔を向ける。
「被告、その本を読めるのは被告と大罪人だけである。同郷だという線が濃厚になったのだ。」
「そうだぜ?馬鹿をいうなよ、お前が同じ同郷じゃなければいいんだ。お前が文字を読めれたのは子孫かもしれない疑いがあるからだ。何にせよ、事実なんだよこの村を災厄に陥れた張本人と近い関係だってな!」
チャンはギャラリーから叫ぶように言い放つ。
「ふざけるなよ!そんなの、どう言い訳したって八方塞がりじゃねえか!こっちの弁明の余地もない!お前らが勝手に罪を着せようとしてるだけじゃねえか!冤罪だよ、俺は!!」
証拠調べにしても仕組まれてちゃ埒が明かない。こんなのおかしい。監獄にいた時も実はメモ帳を読んでいたのはバレていたのではないだろうか、きっとそうに違いない。冤罪にされるのってこういう感じなのだろうか。それにもう起きた罪を近しい人間が居たからって吊り上げて罵声を浴びせるような感じで洒落にならない。
テミスが何か考える素振りをして口を開いた。
「少しばかり昔話をしよう。この村に訪れた大罪人は魔物である悪猿が山から現れて人に化け出たと伝わっておる。人の言葉を発し女を襲ったと。そして、村の民らは抵抗をさせないべく牢に閉じ込め、今と同じように村で裁きを与えようとしたのだ。だがその悪猿は巨大な猪を呼び寄せ、この村を半壊させたのだ。悪猿は瞬く間に帝国全土に渡って悪名を轟かせた。更にはこの世の終末へと、この世界ナクシャトラの崩壊へと向かわせた『偽の太陽』張本人なのだ。天の理を崩壊させ13の神(ナクシャトラの管理をしていた存在)は散り散りになったのだ。しかしーーある坊主が最後に一矢報いてこの世界は守られていると、言われている」
それがあの俺が知っている、プリクラで姪っ子と一緒に写った屈託のない笑顔の孫西だと言いたいのか。信じられない。孫西がそんな事本当にするのか。騙されているんじゃないのか。
だからって、俺に冤罪を着せるなんて。テミスに反抗の意を示す。
「それが、同じ言語も使えて服装が一緒なだけで、罪を被せようとしてるってわけか」
テミスは曇った表情になる
「・・・我は、スキルを行使して厳正な判断を下しているまでだ。」
何か思うことがあるのだろうか、それならもっと心情に寄り添って判断して欲しいと思う。
ーーザワザワッ
ギャラリー側が何やら騒がしい。
すると、村人たちを押し退けながらやってきた人物がいた。プレートメイルを着用しモデルのような体型をしている銀髪のエルフだ。見間違える筈もない、ニーシャだった。
俺とニーシャの目が重なる。
目を合わせた視線がテミスに移りニーシャは口を開いた。
「テミス様、お待ちを!」
初めてニーシャが喋っている言葉をよどみなく聞き取ることが出来た。こんな、深刻な状況なのに嬉しさが込み上げた。
「其方は確か"銀色の光"で通り名をしているエルフだな?一族の汚名を払拭するためにわざわざ冒険者をやっているという・・・何故ここに?」
「テミス様に認知されて頂き光栄です。はい、私はエルフに向けられた汚名を払拭するべく冒険者家業をやっています。エルフを栄光の道へ向かわせるべく、ここにはその家業で訪れたのです。」
何やら、口を挟める雰囲気でもなく、俺は二人を見ていた。エルフの汚名払拭か…立派なことをしていたんだなニーシャは。
テミスがニーシャに返答する。
「なるほど。で、この審問を止めた理由は何かあるのか"銀色の光"殿」
「はい、私はこの村に訪れてから酒場で出会った人達と仲良くなりました。そして、ある一人の冒険者とバディーを組んで魔物討伐していました。彼女は私の目的を笑わず聞いてくれる唯一の冒険者でした。そんな彼女とある日一緒に討伐していたら、彼女が魔物に攫われ、洞窟に連れ去られてしまったのです。私は応援を要請し単独で洞窟に潜入しました。そこで私は転移陣に何度も引っかかり、邪悪な魔物と対峙しました。魔物との、戦いは苛烈を極め一歩も引けない状況でした。その時、そこにいる彼に命を救われたのです。そして、彼と共に洞窟を探索した所、彼女は餓鬼の群れに八つ裂きにされてました。彼は見たこともない服装で、見たこともない種族でしたが、彼は彼女を弔う時に一緒になって涙を流してくれたのです。何も分からない彼が私の友人を想い、共に泣いてくれたのです。伝承なら女を襲ったと残っていますが、私は襲われていません。信頼に足り得ると思いませんか?これがその彼女の遺骨と遺灰です。そんな彼が罰せられるのは誰が望むのでしょうか。」
ニーシャは、これまでの状況を身振り手振りで説明してあの時衣服を切って遺骨と遺灰を詰めた袋を手に取りテミスに掲げて見せた。テミスは神妙な顔つきになる。
「ふむ、経緯は納得したが、なるほどしかし・・・」
スキルで確認しテミスは黙り考え込んだ。恐らく女を襲ったという点で確認したが本当に襲ってないことから伝承との乖離があるため、テミスは今悩んでいるのだろう。
俺はニーシャの話を聞き目柱が熱くなる。あんなに酷い言葉を投げかけあまつさえあの時、俺は憎しみを持ったきつい語気だったのに彼女は証言者として弁明している。こんな俺を庇ってくれる、聖女としか言いようがない。
彼女に向かって言う。
「ニ、ニーシャ・・・」
ニーシャは振り向いて、観覧の席からこちらへと駆け寄った。彼女の薔薇のような香水が香る。
石柱に磔された俺に、ニーシャが恐る恐る口を開く。
「えっと・・・久しぶりだね、五行」
先程、テミスに勇ましく語っていた彼女と打って変わり、優しげな声で俺に言葉をかけた。
彼女の微笑む姿を見て俺の胸が高鳴った。
初めての恋なのかもしれない。こんなに彼女を見ると狂おしいほど好きという感情が溢れてくる。そして、村の民衆を押し退けて帝国の上人にも一線も引かず俺のことを庇ってくれたこの人を本当に綺麗で真っ直ぐで尊敬という言葉では語り尽くせないほど、曇りなき眩い光のような聖人だと思った。
涙ぐんだ俺は彼女に言う
「ありがとう、ニーシャ、その助けてくれて・・」
ニーシャは俺の言葉を聞いてびっくりしている。そして微笑む。
「ふふ、そっか喋れるようになったんだね。私は、私が信じる道を信じたいからそれに従っただけだよ」
プレートメイルを着たニーシャはそう言って親指を立てた。グッドサインだ。初めてあってジェスチャーし合っていた時を思い出した。
「だけどまだ、五行は助かったわけじゃないよ。それに大事な話があるんだーー」
ニーシャは俺に近づいてあることを耳打ちした。
ここまで、お読み下さりありがとうございます。評価して下さるととても嬉しいです!
【面白い!】★四つか五つ
【まあまあじゃね】★三つ
【いまいち】★一つか二つ




