第二十三話 大罪人となった五行六腑、異世界審問ここに開廷!
孫西の日記をござの下に敷いて隠した。しかし、孫西は何故ここに隠したんだ?
ん、でもそういえば枕の下に本を敷いて寝たらそれが夢で出てくるとかいう俗説があったような気がする。
きっと、そうだろう。プリクラ大事にメモ帳に挟んでたのにこんな所において、よっぽど何かに急かされたんだな。メモ帳自体は別に置くつもりだったろうが、プリクラは孫西にとって大事なものなはず。ここから強引に出されたのか。てことは、いずれ俺もここから連れ出される時が来るのかもな。
ここで身体を鍛えることにした。中肉気味だった腹はむしろ、病みダイエットによって脂肪が薄くなっていた。不幸中の幸いて奴だな。
腹筋と腕立て伏せを繰り返し行うことにした。
ただ、久々のトレーニングは疲れる。ちょっとやってバテたため、異世界言語を学ぶことにした。看守の目を盗みつつ孫西のメモ帳を読み俺はこの異世界の言語を発音の真似をして学ぶ。伊達に異世界交流をやってきた甲斐があるってもんよ。暫く言語を反復練習し、次にやりたいことをやる。それは、能力の強化だ。
俺の権能で、魔素を見ることができる。スキルや魔法の発現するプロセスにおいてそれは、全ての挙動を捉えることが出来るということだ。
これを逆手に取り、自身の魔素コントロールが出来るようにする。監獄の中でひたすら、魔素を練り上げ密度を濃くしたり出力出来るようになればこれからの戦いに備えることが出来るはずだ。これが俺の目論見だ。だが、どうやって魔素をコントロール出来るのか。俺の臓物スキルは集中すると勝手に発動するみたいだし、名前を言わなくても発動しているようだ。
胃酸を吐く時だって別にスキル名を言っていない。ここで気が付く。スキル名が無いのではない。命名をしていないのでは?不意にお腹を殴られて出た胃酸と、喉に指を入れて無理矢理だそうと必死になって出そうとした胃酸はやはり威力が違う。
つまり魔素による想像力って奴か、それを具現化するための命名を行えばスキルとして行使できるのでは?この世界では恐らく一般的に使われるスキルは命名されてるだろうし、魔物も使用することが出来る。つまり、それは想像力の問題と言ってもいいだろう。より強い魔物ほど固有スキルを有したりするのは魔物の学習能力と素養があるからだろうな。ははは、天才的に頭が回る。やっぱ高校の頃オタ活していた甲斐があった。
さあ、魔素を操るか。身体を猫の目で透過させながら魔素の流れを見る。ここできがつく。俺の中に見たこともない臓器があることに。魔素が黒くて見えていなかったが、心臓の下に小さい臓物が動いていたのだ。これは魔素専用の臓物ってことか?そうか、これが臓物スキルの恩恵って奴なんだろう恐らく。五臓六腑の内一つはそもそも無い臓器(三焦)が六腑として含まれて呼ばれてるぐらいだからな。
俺はその黒い臓物をコントロールし始める。身体中に巡らせた血管に魔素が流れる感覚を覚える。
魔素を血液に行き渡らせ染み出させる。口へと魔素を集中させていく。それと同時に胃酸を気化させて混ぜ合わせる。二つの臓器を並列で行う処理はかなり難易度が高い。
気化した超酸性のガスと魔素が化学反応を起こす。大きく口を開いた。体の深部から喉、口へと昇っていく、おどろおどろしい淀んだエネルギーが溜まりはじめていく。少しずつ溜まり、それを保持できなくなりそうだったため出力するのをやめる。魔素とガスが混成したものは空気中へと霧散した。
あっぶね・・・
あれ以上、続けていたら多分やばかったな。相当の強い衝撃波を出せそうな気がする。
スキル《臓物》から派生が観測されました。
▶︎派生スキル《超黒波》を獲得しました。
更に派生したスキルがあります。
▶︎派生スキル《ミラージュアサシン》を獲得しました。
瞬間、辺りがスロー再生のように時が進む。
脳内に無機質な女性の声が響いた。
ーー!?
なんだって?スキルの派生だと?急に二つもスキルを手に入れたのか???
というか誰だ、こっちの世界に来た時の女神ロキタの声でもない。まるで機械のような無機質な声に違和感を覚えるが、こちらの世界では一般的なのか。この世界を管理している存在が別にいるのか。命名しようと思っていたが管理者に名前つけられ、しかもそのセンスは俺より遥かにいい。負けたぜこれは。
つか、こうやってスキル覚えんのかよ。謎すぎるぞこの臓物ってスキルは。派生するスキルてことなのか?だとしても、臓物って名前からは想像が付きにくいがどういうことなんだ。
◇
獄中生活2ヶ月目
また、あれからだいぶ日が経った。監獄で修練をしていた俺は少しだけ変わっていた。中肉の身体つきから細身ながら筋肉質な身体に出来上がっていた。出来上がった身体の栄養はあの誰も食べたく無い残飯だ。異世界の言語も習得した。マハラ語はほぼ模倣することが出来た。スキル確認はここでは出来ていないが、この監獄から抜け出してから確認しようと思う。
昼時、何やらチャン・ウェイが慌てて部屋を開けて入ってきた。孫西のメモ帳をポッケへと素早く隠す。
チャンが言う。
「おい、出ろ、今からお前には裁きを受けてもらう」
これまで学習したマハラ語を聴き取り出来ていることに内心喜ぶ。しかし、裁きか、一体どんな糾弾をされることやら。
俺はじっと、チャン・ウェイの顔を見据えて、ござから立ち上がり檻から出た。
チャンに手を掴まれ、逃げられないように手錠と縄を腰に付けられて連れられる。厳重なことだな。
部屋の扉を開けると地下だったらしく、目の前に石の階段が見えた。背中を押されて上へと上がっていく。
階段を上がると、そこは酒場のような場所だった。バーのカウンターが階段上がった目の前に部屋があり、右にはそのカウンター前に出れる通路がある。カウンターの裏部屋に地下牢屋として作られていたのだ。大多数を収容するような刑務所のような場所では無いらしい、そしてカウンター前には丸いテーブルに椅子が乱雑に並び、冒険者達が盛り上がっている。カウンター横の通路をチャン・ウェイに連れられ歩くと、見たことある奴が酒場を切り盛りしていた。
ナッパー・パラシュ、ニーシャと口喧嘩していた奴だ。
ナッパーは俺に気付いたのか、骨肉を刻んでた斧で指を差すかのよう斧を差し向け喋り始めた。血と肉がダラリと斧から垂れていた。
「ようやく、この時がやってきたようだな、ヌハハッ」
俺はナッパーを睨むがニヤニヤしている。腹が立つ野郎だ。チャンに腰についた縄を引っ張られ、連れられていく。
冒険者は俺をジロジロと白い目で見ていた。ナッパーにこれまでのことを全部聞きたいが、よく分からねえことを言われて、なんだか腹が立ち、それが言葉に出てしまった。
「黙れよ、ハゲ面が」
ついつい口を悪く言ってしまう。それはニーシャに惚れた俺の嫌味でもあった。
ーー!?
酒場にいた全員が、俺の言動に驚愕する。そして、何よりナッパーと連れていたチャンが俺を見て目を見開いていた。
「お前、喋れたのか・・!?」
ナッパーは、信じられないと言った表情で憐れむような目で俺を見る。
「ああ、勿論だよハゲ頭」
「テメェ、まあいい。どうせお前は死ぬんだからな。だってお前はーー」
「おい!ナッパー、お前はこの村出身じゃないのに、べらべら喋るつもりか?ナッパーよぉ?お前、立場分かってんのか?」
チャンは怒号をナッパーにぶつけ、ナッパーは口をつぐんだ。
なんだ?ナッパーよりチャンの方が上の立場にいるのか?この二人の関係性は一体なんだ。チャンよりナッパーの方が強そうに見えるが。それに、俺に極力情報を漏らさないつもりらしい。
権能を使い周囲を見渡す。そこにも違和感があった。冒険者や先住民の村人、そこの名前にチャン・ウェイのように名前の隣に文字化けしていれば、ナッパーのように何も表示されない者がいた。おかしい、ここは何かがおかしい……。
疑問に思いながら、腰に付けられた縄でチャンに引かれて酒場から外へと出ていった。
外は、古めかしい建物や小屋が立ち並び、舗装されていないむき出しの地面で如何にもな村だった。周囲は木々が生えて自然の中にある場所だと見てとれた。
そして、歩くこと数分、俺が連れられたのは、村の広場となる場所だった。そこは、まるで大罪人を処刑するかのような石柱が設置されていた。その周囲にはギャラリーと石柱の正面から見下す形で裁判の台が高々と聳え立っていた。
そこには裁判官のような人物がいた。
名前は【テミス・ジャッジ】と表示されている。
如何にもな広場の雰囲気に呑まれる。チャンは石柱の前に連れていき俺の腰に付いた縄を解いた。
「おい、何を始めるつもりだ」
「黙れ、今からお前は審問及び審判が下される」
チャンはそう言ってギャラリーの一部へと溶け込む。一体これから何を質問されるのだろうか?
裁判官の台に居座るテミス・ジャッジが口を開いた。
ーーカンッ
「これより、大罪人を審問し厳正な審判を下す。」
木槌をつき、広場にいる全員に声を響かせた。
「誰が、大罪人だ!」
「被告、静かにしたまえ、これより被告に審問を行う。我のスキルを持って被告の罪と伝承の整合性を見定め被告が潔白かどうかを皆で見届ける。村のものに同意を得るまで時間を要したが、それは被告の存命する命を伸ばしたと言っても差し支えないだろう。」
「伝承の整合性だと?馬鹿らしい、そんなのミリシラだし関係ないね。それに、命を伸ばしたってそっちが勝手に俺の命の生殺与奪を握ってるみたいに言うなよ、檻からだって別に逃げようと思えば逃げれたんだ。俺は、理由が知りたいからここにノコノコやってきただけにすぎない。」
俺が喋り始めるとギャラリーが野次を飛ばして、ブーブー言っている。
「被告、ではその理由を知りたいということで相違はないか?」
「ああ、まあそうだな、元よりそのつもりだからな」
大罪人と言われてカチンときたが取り敢えず流れに従おう。この村はどうやら法律がない無法地帯ではなさそうだからだ。まだ、話し合える余地はある。
「では、被告にスキルを行使する。このスキルは我と被告の意思の合致によって発動するスキルだ。そして、このスキルで被告に質問を行う、被告はただそれに答えるだけで良い。」
「そんな複雑なスキルもあるのか、答えるか・・まあ仕方ない」
なるほど、このスキルは能力発動で不可避になりそうだな。一度発動したならば避けられない事象が起きるだろう、何が起きるかは分からないが。それに大前提に双方の意思の合致により行使される程の複雑なスキルなのだろうから、能力も相当な術に違いない。
双方の確認とスキル発動の合図だろうか、テミスが重々しく聞いた。
「よいな?」
「分かった」
テミスの問いに対して俺が同意すると、テミスが声を高らかに上げた。
「これより人狼前夜を被告と結ぶ!」
スキル《人狼前夜》が発動した。
俺の背後にある石柱がボコボコと形を変えて、石柱の一部が伸び胴体を石柱へと磔にされた。
石柱に狼の紋様が浮かび上がる。
「はっ?こんなの聞いてねえぞ!」
「被告、これはただ逃げないようにしてあるだけだ、今の所は危害はない」
「今の所はって何だよ!」
「それでは審問を始める」
「話聞けよ!」
裁判官であるテミスに言うが、俺の言葉に耳を貸さないらしい。都合の良いところだけ聞き取るスタンスのようだ。こっちの世界でもこういう、頭がキレるやつがいるのかやり辛い。
「被告はどうして、大罪人と同じ衣服を着ているのか?」
「大罪人てあのなあ、これはスーツって言うんだよ。てか、大罪人のこと俺は全く知らないんだが。」
「なるほど、被告はその衣服のことを知っており着用していると。」
「まあ、そう言うことになるな。」
石柱に刻まれた、狼の紋様が一つ赤く光った。
「スキルにより被告は嘘をついておらず、伝承による大罪人との衣服の関係性が明白となった、よって一つ、この村への脅威とみなす。」
「何だよ、それは!その大罪人が悪いだけで俺は関係ないだろ!!」
「口を慎め、大罪人!!」
「そうだそうだ、あのテミス様が仰られているんだぞ!」
ギャラリーからあちこち野次が飛びかう。村人共は断固として俺を認めないらしい。
村人があまりにもうるさいせいで悪態をつく。
「知るか、このクソ村人どもが!!」
「「ブー、ブー!!」」
テミスは木槌をカンカンっと台を叩き、声を張り上げる。
「静粛に、静粛に!!」
罪を認めた訳ではない、しかし、この裁判に強制的に参加させるためのスキル厄介すぎる。恐らく、あの紋様が光るのは俺とテミスとの解釈ではなく、事実の確認だろうな。認識上で魔素が複雑に創り出す不思議な紋様だ。スキルは単純に俺が罪を認めるか断罪の余地があるかどうかもあるだろうが事実を確認しそれを照らし合わせて狼の紋様が光る。恐らく、俺の記憶なども嘘つけないように覗いているかもしれない、そうしてスキルが判断する。
事実確認さえ取れれば、こちらは不利になり罪だと決定されるクソみたいなスキルだ、こっちの話は聞かないスタンスなのも弁明は無視し事実ベースの確認を行って、俺を誘導するつもりなんだろう、このテミスって奴、相当な策士だ。
どうすればいい?この場をやり過ごすには、相手からの質問に応えるしか方法はない。ここに来てまた無理ゲーか。頭脳戦は不得手なんだよ俺は……。
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