第二十二話 愚者は監獄で情報を集め気を窺う
住めば都とはこのことよ。今の俺にはここが楽園なんだ。別におかしくなった訳ではない。信じる道をただひたすらに耐え忍んでいるだけだ。それに、住まいと飯があれば多少汚くてもやってはいけるしな。
あーもう散々、第十九話でここの良さ(光熱費、敷金礼金全部タダの素晴らしい住まいの話)を説明したからもういいか?二部開始して俺の悲惨な現状しかみてないのに読者が離れていってしまうじゃないか。作者が展開考えてないせいで、俺がこうやって冒頭話しているってのに作者は一体何やってんだよ。『一応作者も頑張っています、ちなみにタイトルの二十二話と愚者はタロットカードからきてます。旅の始まりという意味です。』
おいおい、それが言いたいだけだろ?勘弁してくれよ。まったく、俺も説明疲れるし、読者も流石に飽きるからこれ以上はやめておくな。メタ発言もほどほどに、ここまでにしておこう。それとも、もう少しだけ話した方がいいか?冗談だよ、物語に戻ろうか。
あれから、孫西からのプレゼント曲を聴いて、気持ちが和らぎ、自分らしさを取り戻した。
俺はござの上に寝転がりながら、手に持ったカビが生えた乾パンを齧る。もぐもぐと次の展開を予測し戦術を立てていた。
にしても、この激ヤバな監獄からどう抜け出せばいいのやら。正直に言うと、将棋だと詰まされてる状態に近い。部屋の隅に看守が一人。2交替で、夕方頃にかわりばんこに見張られちゃあ、抜け出せようにも何もできない。変わるタイミングの時間もわずかしかないし抜け目がない。それに、ここがどこかも分からねえ。
ここに連れて来られる前の記憶を思い出す。ニーシャの仲間の冒険者は俺に何かしらの罪があって捕まえて、国が収める監獄に収容させたのか、それとも逆に最初に出会った村人のような服装は本当にそうで、村の何かに触れる祟りのようなものが俺で、ここに投獄したのかもしれない。
もし前者の国だった場合、ここから抜け出しても番兵が俺を見つけて、ひたすらに追いかけ回すに違いない。後者の村ならば、まだどうにかなる筈。ここから抜け出すことは正直大したことはない。胃酸を使って檻を溶かして抜け出せばいいからだ。問題はその先。敵の数、土地柄もわからない、そして何の容疑を掛けられて、ここに入れられているのかも分からない。もし、ここから脱獄出来たとしても、脱獄犯として俺は指名手配されるだろう。どう動いても、がんじがらめではあるが、最悪の時は抜け出すしかない。取り敢えず今は何かしてくる気配もないし、ここでやれることをやろう。孫西の日記も気になるし。
うーん、そうと決まれば、奴らの思い通りになってやろうじゃねえか。給仕の時、村人が俺がトレイに乗ったソーセージを食べてる様子を見て不気味な笑顔をしていた。多分、俺が懐柔することが出来て喜んでいたのかもしれない。ならば、そう思わせるしかない。
昨日の夕飯の俺の姿見ただろ?まさに獣だ。まあ、取り繕うともしてないで普通に腹減って、ああなってるから役に入らずとも、俺が懐柔されたと思いこんでる筈だ。
ふっと村人を猫の目で確認してみた。
いつもと違和感があった。
【チャン・ウェイ】[螟ゥ蝣穂ココ]
名前の横に文字化けして何かが表示されているからだ。なんだ?職業とかか?いや、今までそんな風に見えたことはなかった。隠匿系のスキルを使っているのか、だとしても今までも文字化けして出ていた筈だ。スキルは使用しないと分からないし何かこの村人は隠している。名前の横に書いてあるってことは身分を表しているってことだよな?
茶色びた服装でガタイがいい奴、どう見ても普通の村人にしか見えないが。なんだ、何かやばい組織かなんかか?それとも悪魔宗教とか訳わからない宗教団体か?なんの身分を隠してやがる。
きな臭えな。まっ、取り敢えずは様子見だな。俺はここで力を蓄えながら奴らを探るとしよう。このまま解放される可能性もなきにしもあらずだし、気を窺っていこう。
そして変に目立つこともせずやり過ごすんだ。
夜中にまた孫西のメモ帳を読もう。
暫く時間が経ち、看守の様子を窺い孫西のメモ帳を開く。音声と言ってもそこまで大きい音で再生されてもいないし、部屋の隅だから、そこそこの距離はある。奴もウトウトしているし頃合いだった。
スキル《音声付与》が発動した。
『DJ孫西は、気に入ったか?ケケケケッ、そういや、ショッピングモールの話の途中だったな。死んだ理由が知りたいだろ?俺様はな、姪っ子の優奈と店を回ってたんだ。そしたら、優奈はろくな職に就いてない俺様が嫌らしく、俺様に向かって就活しなよって言ってきたんだ。頑なに断ったんだがヨォ、それでも手を引っ張られ、紳士服量販店まで行ったんだぜ。それで就活用のスーツを店員に半ば強引に勧められて買ってしまったんだ。試着して見ると俺様じゃないようだったんだ。優奈に見せると「カッコいいよお兄ちゃん」ていうから、俺様も照れくさくなって「おうっ」て言ってヨォ、そこまでは良かったんだがナァ・・・
急に地震の緊急警報とスマホにアラームが鳴り始めたんだ。優奈が怖いっていうから、俺様の腕に掴まれよっていって外に出ようと逃げたんだ。だけど、中央広場まで走ってやってきたかが地震は止まらず、その時ショッピングモールの支柱が崩れかけててよォ、俺様が手を引いてる優奈に向かって落ちてきたんだ。瞬間の出来事だったぜ?俺様は優奈を突き放した。優奈の顔が泣き顔になって「お兄ちゃんっ」て呼んでいたぜ。あの顔は忘れたくても忘れられないぜェ。そして、俺様は支柱に叩きつけられ、次々と落下する瓦礫の下敷きになったんだ。優奈と叫んだが声も出ない、瓦礫の隙間から微かに覗き、周りにいた大人に優奈は手をひかれて、俺様は思ったんだよ。それでいい、俺様のことなんか気にするなってな、ケケケケッ・・・』
孫西の話を聴いて茫然とする。えらい目にあってここへ来たんだと思った。姪っ子の目の前で死んで転生してるとは、かなり辛い状況だったろう。なんでそんなに笑ってられるんだ。誰も知らない土地で監獄の中で語ってられるのが不思議で仕方なかった。それとも、もう彼自身も壊れていたのかもしれない。孫西の声が聞こえてくる。
『ほんで、死んだらヨォ、魂となった俺様は女神と出会ったぜェ。アヴァロキタ・イーシュヴァラちゃんだ。略してロキタちゃんだ。別に綺麗以外何も感じちゃあいなかったがな。
まあ、彼女との出会いは置いといて、異世界転生したら俺様は何と小石だったんだ。びっくりだろ?皮肉なもんだぜ、全く瓦礫の石に下敷きにされて小石に転生なんざァ、笑える話だぜまったく。それで持ち物も身につけていたスーツやらが一緒についてきたようだが、その辺にある小石には着用することなんざァ不可能だ。だからよお、コロコロ転がって服やらを葉に隠した。その後も転がって次第に小石が拳ほどの石になった。猪に追いかけられてひたすら転がり逃げ回った。そして黄昏ては、人知れず転がり、魔物を殺していたり気がついたら大岩になっていたんだゼェ。そんで俺様の意識は石の中で肩取られ誰もしらない山で、俺様は人になって生まれたんだ。いや?人というか、猿みたいな見た目なんだがなァ、ププッッーー。』
アヴァロキタ?ロキタちゃん?何でそんなに仲良さげなのか、女神と会ったのか?俺は会っていないが。待てよ、猿だって?この獣の毛って孫西の抜け毛だったのかよ、ばっちいなおい。
ツッコミながら話を聞く。
妖しく光るメモ帳から音声が流れ続ける。
『凄いことにその体には、殺した魔物全てのスキルを学習して統合進化していたんだ。中には言語スキルを使える奴がいたから、この世界の言葉も使えたんだ。だから服を着て、それで、誰かいないか探しに山から人里に降りてやっと人が居たと思って声かけたら「キャー、変態、化け物!」だってさ。化け物はまだ分かるけど変態って呼ばれるのは釈然としないゼェ?なあ、そう思うだろ?ケケケケッッッまあ、確かにその時の俺は毛むくじゃらで裸のようだったかもしれない、だけどナァ、スーツの衣服を纏ってちゃんとした、人間のように振る舞っていたゼェ?顔が猿だからっそんな変態とか言われたらショッキングピーポーってヤツだぜ。弁明の余地あるダロウガ。そしたら村人達がよってたかって、俺をロープでグルグル巻きにしてこの牢屋に閉じ込めたってわけ。
まあ、今読んでるお前と一緒だわな、ププッ』
煽られて一瞬読むのを止めようかと思ったが堪えた。また耳を傾ける。
『暇だから、この世界の言語についてここに記しておこうと思う。もし、誰かがこの世界に迷い込んできて、俺みたいなチートスキル持っていない奴は困るだろうからなププッッ。
まあ、安心してくれよ、大船に乗ってくれ、この俺様がお前をこの世界の橋渡しになってやろう。』
そう言ってメモ帳の音声が終了した。
どうやら、次ページからは、この世界の言語を日本語と比較して表形式にまとめてメモされ、ページを跨ぎながら書かれている。これは凄い助かるな。何だかんだ、この人のおかげで精神を安定出来ていたのかも知れない。底知れない優しさを孫西から感じ取れた。孫西も相当、お人好しなんだろうな。
ペラペラと後ろまで捲ると、プリクラで撮られたシールが挟んであった。そこには孫西らしき人物、赤茶髪で、如何にもヤンチャしてそうな見た目の男と、ブレザーの学生服を着た天真爛漫なセミロングの女の子が写っていた。女の子は孫西にダイナミックハグをしており、孫西は驚いて手を広げている様子のシールが8分割でコマ割りのように二人の姿が見切れる形で写っていた。
何とも微笑ましいプリクラだ。
孫西は年下だが俺より異世界転生歴は先輩だから敬意を持って話を聞いていたが、これを見せられるとなんか子供っぽくて可愛い奴だなと思った。
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