第二十一話 もう一人の異世界転生者からのプレゼントに懐古し思いを馳せる
ここで再生される楽曲は、BUMPOFCHIKENの『天体観測』をオマージュしてます。
獄中生活三十三日目
現実かどうかも疑いたくなるほどの目の前の景色はモノクロの映像が毎日同じように流れていた。
孫西の日記はあれから読んでない。ござの上に寝転んだまま、天井を見続ける生活をずっと続けていた。虚無そのものであった。何かをしたいとも思えない。時間の感覚も忘れ、何日経ったのかも分からない。そんな、日々の中で暫くぶりに夢を見た。モノクロの現実とは異なり夢の世界には色がついていた。
この世界ではない、元の世界で送っていた穏やかな日々が映像で流れる。
◇
何気ない日常。営業に行く前の朝の支度。実家暮らしだから、自室からリビングへ階段を降りていく。母さんが作ったトースターエッグがテーブルの上に二人分並んでいた。テーブルにはコースターの上に乗ったコーヒー入りのマグカップも置かれている。母さんは台所でカチャカチャと後片付けをしている。テーブルに向かい合うように椅子が並び、父さんが先に座ってコーヒーを飲みながら、テーブルに縦に置かれたタブレットを見ていた。俺も父さんと向かい合うように椅子へと座り、台所の母さんへ向かって言う。
『おはよー母さん』
『おはよう、ろっぷ』
『・・・と、父さんも、い、いるぞっ!!』
『・・・・・・はいはい、父さんもおはよう』
『あらあら、ろっぷはいつも朝早いもんねぇ、今日はどうして遅いじゃない、お父さん、久々にろっぷと会えるから張り切っちゃって、海外出張から帰ってきた矢先にこれなんだもの。』
『いや、母さん、ずっとここで暮らしてるんだから、別にすぐ会えるし、それに父さんとも出張行ってない時は毎日顔合わせてるよ?今日は取引先の予定時刻が余裕持っていけるからね』
『ろっぷうううう!!』
『朝からうるせぇよ、クソ親父!』
『ろ、ろっぷ!親に向かってクソとは何だ、クソとは。褒め言葉か!!』
『あらあら』
『別に褒めてねえしッ、むしろ貶してんだよ』
はあ、と俺はため息をつく。父さんは感極まっているのか体を捩らせ自分の両手で体を抱きしめている。真性のドエムって奴だろう、メガネをかけて真面目そうに見えるが蓋を開けてみればただの変態。こんなのが親だと思いたくはない。何で母さんはこんな気持ち悪い親父と結婚したのか不思議で仕方ない。母さんは歳の割にすらっとしてて、髪も手入れしているし、いつも朝起きたら、ご飯の支度をしていて敵わないなと思ってるし、やっぱ結婚するんだったら母さんのような人と結婚したいなと思う。
そんなことを考えながら目の前のトースターエッグが冷めないうちにかぶり付く。エッグが半熟で塩胡椒が適度に振りかけれており、舌先にしょっぱい感覚が広がる。そして食パンがカリッと歯で噛みちぎる音とともにエッグのトロッとした甘みと塩胡椒のしょっぱさ、食パンの甘味がハーモニーを起こしていた。もぐもぐと咀嚼し、かちゃっとコースターに置かれたマグカップを手に取りキリマンジャロのコーヒーを啜る。口の中にあるものを胃に流し、もう一杯のむとコーヒーの風味がくちいっぱいに広がる。
これこそ、朝の至極の極み。
『母さんのトースターエッグ美味しいね、焼き加減が最高だよ』
『あら嬉しい、そんなに手は凝ってないわよ?』
『ははは、確かにねいつもオードブル料理みたいに作りすぎるからね』
『あらあら、今日も5品ほど作ったわよ?いまはね冷蔵庫に冷やしてるの、食べる?』
『ええ、いや、夕飯で食べるよ・・・』
『ろっぷ!母さんのご飯が食べれないのか!』
『あらあら、お父さんうるさいわよ?ろっぷがそう言ってるんだからいいじゃないの。それよりお父さん、あなた職場で私のお気に入りのお弁当箱忘れてない?』
『ハッッ!?』
父さんは自分で抱きしめていた両手を下ろして椅子に座ったままかしこまる。そして、額から汗を垂れ流していた。
『あなた、夕飯はドッグフードと牛乳にしておくから』
牛乳は優しさなのだろうか、それにしてもきつい仕打ちだと思う。台所にいる母さんは父さんを見つめ、いつも優しい母さんの眼差しは鋭くなっていた。
『は、はひっ!!!』
あ、そうだった、父さんもそうだけど母さんは真性のエスだもんな、そりゃ相性良いよな。
父さんは額からタラタラ汗流しているけど、母さんを見つめる目はまるで女王様を見つめる目だ。朝からなんてもん見せつけるんだよ、この馬鹿両親は。
『ーーゴホンっ、あ、そういえばろっぷ!父さん達な海外旅行に行くんだ。父さんが20年勤続で長期休暇貰えるから母さんとハワイに行くんだ、グフフ、母さんの水着姿久々に見れるなあ』
母さんは父さんを再び睨み、父さんはまた身を捩らせている。
『え?あ、そうなの、じゃあ暫くはこの家で一人かあ。』
『そうなの、ろっぷが心配だけど、でもね、この靴下激臭ゴキブリ男とハワイへ行かないといけないの、あーお仕置きのしがいがあるわ』
『・・・・そっか、何だか母さんも楽しそうで良かったよ。二人とも夫婦みずいらずだからってあんまり羽目を外し過ぎないようにね・・・』
『『ろっぷ!!』』
二人は声を漏らし感極まっている。父さんは俺の顔をガン見しながらダラダラと涙と鼻水を出し続け、母さんは台所で何やらハンカチで目元を抑えているようだった。
他愛もない日常の会話、異世界転生する前に話した両親との最後の会話。何だかんだ、変な家族だけど俺のこと凄く気にかけて愛していた気がする。夢はここで終わり真っ暗な空間が続いていた。
◇
獄中生活三十四日目
次の日の昼頃になっていた。
かなり眠っていたらしい。それに気付いたら頬に涙が流れていた。まだ、感情は残っていたのだろうか。両親を思い、二人と会いたいと思ってしまった。帰りたい。クソみたいな現実社会だけど、二人のことを思い出すと会いたいと思ってしまう。しばらく、その夢の余韻に浸った。
時間が経ち夕飯の給仕がくる。
カチャンーー
檻の外に置かれたそれは、まるで極上の食べ物に見えた。我慢の限界だった、今までは感情というものから乖離してなにも考えれてなかったが人情が僅かばかり戻ったのだろう。食欲に呑まれる。
バッ サッサ
クチャッ、クチャ ハグっシャクッッゴクン。
「ウッ……ウゥ…」
(・・・美味しい)
泣きながら残飯のようなものを貪る。飲まず食わずで、無感情で毎日を過ごしていたが、徐々に身体は抵抗出来なくなり食事を欲しがった。
洞窟の泉で出会ったオスッシーという魔物を食べたあの日が懐かしい。あんなに美味いものを食べたと言うのに、この残飯の方が美味しく感じてしまうんだ。可笑しくなり笑いそうになる。
村人が俺の顔を見てニチャァと笑みを浮かべて、部屋の隅の椅子へ戻る。何故かその姿を見て戦慄する。下卑た目でみて懐柔したと思ったのだろうか。
久々に食べた内容物で吐きそうになるが我慢する。食事を済ませてまたとこについた。少しだけ目に映るブラウン菅テレビの映像に砂嵐がチラチラ流れるようにモノクロ世界の何かが変わる兆しがした。
夜半、虚無感が押し寄せると同時に知ってる人の声を聞きたくなった。
何気なくござの下に隠したメモ帳を手に取り読んだ。
スキル《音声付与》が発動した。
『オーッス!元の世界からきたっつう話をしてたが、そうだなァ?俺様の身分を先に話してやろうか。俺様は唯一無二の23歳の底辺フリーターだ。お堅い職に就くのが性に合ってなくてなァ、まあ、テキトーに暮らすのが良かったんだぜ。高校を卒業してから、親が薦めた大学にも興が乗らず、パチ屋にバ先で貯めた金を使い果たしたり、単車を乗り回して、コンビニの駐車場でダチと酒やらタバコをかちこんでよオ、日が過ぎても他愛ない会話して、女を探しに気のいいダチとクラブに行ってナンパしたりと、人生を謳歌してったテェ訳だ。ケケケケケケケッッ、だがなあ、そんな俺様にも弱いものはある。姪っ子だ、姉ちゃんの娘になる訳だが、小さい頃からお守りで面倒をテキトーにみてたら、妙に懐いちまってな。ケケケケッ。俺様を尊敬するのはいいことだ。たが、あまりによ、ハグを所望してくるのに疲れちまってナァ。そんなんがあって姪と会うのをなるべく避けようとしてた訳だ。そんで、久々に実家に帰ったら姪が来てヨォ、高校一年生になったらしく、んで、俺様とショッピングモール行きたいつうから行ってんだけどよ、そこで俺様さ死ぬんだよーーププッ、あ、そういやあ、こんなシャベエところにいたら、読んでるお前もヤサグレそうだなア?俺様がとっておきのラジオDJになってやるよ。もちろん、俺様が厳選した曲ばかりだぜ?今日のおすすめ楽曲ぅ!!・・・DJ孫西、懐かしの平成ソング!これを聴いたら胸がドキドキ、あの子のことも思い出せちゃウゼェ?それじゃあ、かけ始めるぜえ!!』
『ほんじゃあ聴いてくれ、【星を見て】ダァ!』
イントロでギターのアルペジオが響く。メロディーラインが紡がれる。
身体が自然とノッていく。
ギターが掻き鳴らす、心地よいアルペジオ。ドラムがビートに乗って刻んでいく。
・・・・ダン!ダダダダダッッッパン!!
夜半過ぎ、待ち合わせ10分前
望遠鏡を持って行った
ニュースでは雨は降らないらしい
5分前に君がきた
沢山詰め込んだリュック背負ってきた
観に行こうか、君と一緒に
ほうき星を探して
初夏の日の暑さも感じ
夜空を二人見ていた
君が瞳に映ろう星を見た
あの日は
知らないことを知ろうとして
君の顔を覗き込んだ
静寂を切り裂いて
声が鳴り響いたよ
明日が止まってずっと
このままでいいって
奇跡という名のほうき星
君と二人重なっていた
oh、ー yay、yay♪ uhh♪
・・・
・・・!?
衝撃が走る。まるで走馬灯のように記憶の中で俺が出会った人達が駆け巡る。鳥肌がぶつぶつと立ち上がる。
懐かしい、ポッケにいれてたWALKMANにイヤホンを繋げてずっと流してたな。その聴いた曲が頭の中で鮮烈に再生される。
この世界に転生したんだ、両親だって負けるなと思ってるだろう。
男性ボーカリストの声が俺に勇気をくれる。顔も知らない孫西に背中を押された気がした。
ブラウン菅テレビに再生されていた白黒の砂嵐は、チャンネルが切り替わる。画面にニーシャが映る。彼女が振り返り笑顔でこちらを見ている。彼女と目が合い、眩しいほどに輝いてその優しい笑顔に引き込まれる。ニーシャはブラウン菅テレビから手を差し伸べた。俺も手を差し伸べてテレビの画面に触れると、身体がテレビの中に引き込まれる。
景色が変わる、色を取り戻した。
君のことを分かってないかもしれないけど始まりは君がいたんだ。疑いようがないよ、事実、あの笑顔に救われた俺がいる。ここで挫けてばかりにもいけない。何せ俺は救世主だからな。
世界の片隅の監獄で極彩色の輝きを放って景色は映ろう。
「前を向こう…」
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