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第8話 その名はナオえもん

お風呂上がりの精神値10から、ビールと美少女情報で一気に85までV字回復した「僕」。

第8話は、異世界生活の第一歩、運命の「命名式」です。


みんなでおいしく食べ始めて、少し経ったころ。

バーラムさんがふと思い出したように言った。


「おめぇさん、名前を思い出せんのじゃって?」

「それじゃぁ、不便じゃて。」

「思い出すまでの仮の名が必要じゃな」


「確かにそうだな。」

 モーサムさんがうなずく。


「それよそれ」 

 ドーラさんも賛成する。


「ですよね」

 僕も一応うなずいた。


バーラムさんは腕を組み、ふむ、と小さくうなった。

モーサムさんは黙って僕の顔を見ている。

ドーラさんは「どんな名前になるのかしら」とでも言いたげに、ちょっと身を乗り出した。


「ナポレオン、なんてのはどうじゃ?」


「え???????」

「……ナポレオン、ですか?」

 

何を言い出すんだいきなり。

僕は箸を止めて、バーラムさんを凝視した。


「そうじゃ。強そうじゃし、なんか帽子と馬なんか似合いそうじゃろ?」

 バーラムさんは愉快そうに笑っている。


「ぼ、帽子とか馬ですか?」


知ってる。

この人絶対知ってるよね…

僕の凝視はさらにきつくなる。


「そ、その『ナポレオン』って、何か元ネタがあるんですか? 」

「知り合いとか……あるいは、どこかの偉い人とか」

 僕はドキドキしながら、それでも「冷静さ100%」で慎重に聞いた。

 まさか「昔、海を渡ってやってきた小柄な英雄がいてねぇ」なんて言い出さないだろな……


「元ネタ? なんじゃそりゃ。……なんとなしに口をついて出たんじゃ」

 バーラムさんは首をかしげる。


「ナポレオンかぁ。響きは悪くねえなぁ」

 モーサムさんがビールを飲み干しながら、感心したようにうなずいた。


「確かに、なんかいい感じよねぇ」

 ドーラさんも賛同する。


どうやら彼女たちにとって、ナポレオンは「なんかいい感じの響き」程度の認識らしい。


……いや、まだ早い。

もうひとつ、確認しなければならないことがある。


「さっき『帽子と馬が似合いそう』って言いましたよね」

「それ、具体的に、なんか、イメージとかありますか?」


「ん?そうじゃなぁ。。。。」

バーラムさんは少し考えてから、手で空中に形をつくる。

「こう、横に長くて、馬は立ち上がってる感じかのぅ。。。」


知ってんじゃねーかっ!!!

それ、二角帽子ビコーンじゃねーか!!

馬は、それ、その馬しかいねーじゃねーか!!!


だめだ。

完全にあの皇帝だ。


このあとどうするつもりだよ。

知らないで済ませようったって、そうはいかねぇぞ?


「……やっぱり、何か知ってますよね?」

「 どこかで聞いたことあるんですよね?」

ジロリっ。

僕の視線は厳しい。


「いんや、知らよ」

バーラムさんはあっさり言った。

「……ただ、何となく、そんな絵が浮かんだだけじゃよ」


あまりにも迷いのない口ぶりだった。

その場の空気を丸ごと受け流す、そんな熟練の技を見た気分だった。


ふーむ。

言い訳なしのストレートできたか…

食えないばぁさんだ…


だが、そう来られては細かく問い詰めにくい。。。

僕は忘れないよう、バーバラさんの初期値をしっかりと頭にインプットした。

バーラム : おとぼけ度70 食えない度85 知ってる度100

ひとまず先に進むことにしよう。


「ま、ナポレオンは勘弁してください。たぶん目立ちすぎます」


「そうかのぅ。残念じゃのぅ。……」

そう言ってバーラムさんは少ししょんぼりし、食事にもどっていった。


「オーバードライブなんてのはどうだ?」


どうやら、モーサムさんが2番手らしい。


オーバードライブ。

うん、普通だ。

いいですよ。そのまま頼みますよ!

 

「それ、どういう意味なんですか」

 僕は特に深い意味など無いことを祈るような気持ちで聞いた。


「いや、意味なんかとくにねぇさ」

「勢いがあるだろ?ほら、おめぇさん、どっかから飛ばされてきたみたいな感じだし」

「ガハハハッ」

モーサムさんが笑う。


よかった。

とんでも発言はなかった。


ただ、「飛ばされてきたみたい」ってのが引っかかる。

この人たちにとって、僕は木の陰から全裸で出てきただけのはずだ。

なのに、その言い方は少し妙だ。


あやしい。

ここにきて、モーサムさんも要チェックだ。

モーサム:嫁に弱い度80 娘好き度95 怪しさ滲み度65

…先へ進もう。


「んーー、どうですかね…… ちょっと長いですかね。もうちょっと言いやすい方が……」

 僕は何となく断った。


「そうかぁ。残念だなぁ……」

 そう言ってモーサムさんは少ししょんぼりし、食事に戻っていった。


「そうねぇ…」

 来た。

 最後の刺客、ドーラさんの登場だ。

 できればここも、穏便にお願いしますよ。


「オーバードライブって響きはあたしも好きだから、そこをもうちょっと和風に……いや、何でもない……」


言った。

今、言ったぞ!


完全に「和風に」って言ったぞ!!!

僕はもう隠すことなく、バッキバキの目でドーラさんを見る。

聞き流すことはできない。


「そうだ!ドライもんってのはどうかしら!!」


バカ野郎――――っ!!

なんでだ?

なんで一旦下がったのに、また前に出た!!

知ってるも何も、もう、それ、危ねーんだよ!

一文字違いなんだよ!!

普通に読んじゃうんだよ!!!


ドーラ:知ってる度100 前に出る度100 一文字度120


さぁさぁさぁさぁ、どうこれ、着地してくれますのん??

聞いてみようじゃねぇか。


「ド、ドライもん……で、す、か……?」

 僕の目は、もう刑事のそれになっている。


「んー、でもなんか丸っこすぎないかい?」

 バーラムさんが首をかしげている。


「たしかに。もうちょっと人っぽいのがええな」

 モーサムさんまで真顔でうなずいている。


ちょっとぉぉーーーっ!!!

バーラムさん? モーサムさん?


もうね、隠す気ないよね? 

青いタヌキ。

もう完全に知ってる前提で話してるよね?


丸っこすぎない? ってあのフォルム知らないと出てこないよね?


もうちょっと人っぽいのがええなに至っては、それがネコ型でロボットなのまで

知ってないとね!!!!


僕は全員を、さっきよりもさらに厳しい目で見た。


だが、誰ひとり視線をそらさない。

それどころか、三人とも不思議そうにこちらを見返してくる。


しょ、正気か?


みんなの目は、驚くほど澄んでいる。


なぜだ?

なぜそんな純粋に「どうしたの?」の目で見返してこれる??

僕が悪いのか?

悪いのは僕なのか?


「どうしたんじゃ?」

「どうしたんだ?」

「どうかしたの?」

 みんながそろって「澄んだ瞳」を装備しながら聞いてくる。


「違う。これはもう、ただの家族の反応じゃない。」

 バーラム・モーサム・ドーラ 

 パーティスキル「澄んだ瞳・強」の使い手。

 解説:事実を無効化し、追及する側を疑心暗鬼に陥れる錯覚系・連携型防御スキル。


「いや、あの…」

 僕はどもりながら、何も言えなかった。


「そうね。ごめんなさいね。」

「もう少しシュッとした名前の方がいいわよね?」


ドーラさんは少ししょんぼりし、食事に戻る。

バーラムさん、モーサムさんもそれに続いた。


静かだ。

食器の触れ合う音だけが、部屋に響いている……。


お、重い。

重すぎる。。


このまま黙って食事を終えるのは、さすがに無理だ。。。

空気が、完全に僕を責めていた。


分かった。

分かりましたよ。


皆さんの発言は忘れます。

僕は何も聞いていない。

何も話してない。

OK。これでいいだろう。

ナオえもん 大人度100 忘れた度100 空気変えたい度100


そうと決まれば、とにかく何か言わなければ。

この重い空気、耐えきれない。


「えーーと、そうですね」


誰も反応しない。

下を向いた3人の食器の音だけが響いている。。。。


「その……あれです……」


やはり誰も反応してくれない。

下を向いた3人の食器の音だけが、また小さく響いている……。


どうしよう。

なにが、なにがみんなをここまで悲しくさせたんだ…

分かっている。僕なのはわかっている。

どうすればいい…どうすれば元の楽しい食事に戻れる!!


言え。何か言え。僕。

頼む。何でもいい。

いや、何でもよくない。


はっ!これか?これしかないっ!!!


「皆さんの案から一文字ずついただいて…」

「な、ナオえもん、なんてのはどうですか……??」

 

な、何を言っているんだ僕は…

 

「まぁ!いいじゃない!」

「とても素敵だと思うわ!」

 ドーラさんがぱっと顔を明るくする。


 え?いいんですか??


「うむ、ええのぅ」

 バーラムさんも賛成らしい。。


良くないでしょうがっっ!!


「おう、いいんじゃないか」

 モーサムさんまで乗り気だった。


くっ!


三人そろって、

「じゃぁ、ナオえもんで決まりーーっ!!!」


一同の拍手の中、僕の名前はナオえもんに決定した。


「ハハ、アハハハハ。。。ハァーア。。。」

 

僕は頭をかきながら笑い、心の中で泣いていた。

自爆だ。

壮絶な自爆だ。

僕はただ、ただ、あの空気を一瞬でも早く何とかしたかっただけなんだ…


ナオえもん みんなの歓迎度100 後悔度100 自爆度120


食事はまだ序盤である。


第8話 完


ご覧いただきありがとうございます。

ついに、僕の名が「ナオえもん」に決定しました。

家族の「澄んだ瞳」による連携防御スキル……あれは勝てません。


「ナオえもん」の精神・状況推移

・3名による名前波状攻撃 -40 

・家族の「澄んだ瞳」被爆:-30

・自爆による襲名:-50

備考:空気変えたかった度:MAX(暴走)

【現在値:-35】(前回比 ▼120 低下)

ついにマイナス突入。名前は決まりましたが、尊厳の自主返納を完了してしまいました。

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