第9話 国の話と、あの名前
自分の尊厳を代償に「ナオえもん」を襲名し、ようやく一息ついた夕食タイム。
第9話では、この「半分異世界」の驚くべき全貌が明らかになります。
飛騨、愛知、そして……京都帝国。
どこかで聞いたことのある地名が並ぶ中、判明していくこの世界のルール。
そしてラスト、僕の心臓を物理的に跳ね上がらせる「あの名前」が飛び出します。
無事ナオえもんが爆誕し、食事が進むころ。
僕は思いきって聞いてみた。
「あの、少し聞いてもいいですか」
「何だい?」
モーサムさんが肉をつまみながら答える。
「えっと、僕よく思い出せないんですけど......ここはいったいどこなのでしょうか?」
「ああ、ここは飛騨の国のひるがの村だ」
「ぶっ!!!」
「げほっ、がはっ、ゲフっゲフっ!!」
「おいおいおいおい大丈夫?」
「あらあら、どうしたのよ?
「そんな変かえ?」
みんなが一斉にこっちを見る。
(澄んだ瞳・中)発動中。
思いっきり日本じゃねーか!
やっぱりじゃねーか!
うすうす分かってましたけど、ど直球に来るなんて思ってなかったよ!!
侮れないな、半分異世界…
ひ、飛騨の国ねぇ...
岐阜県か???
なんだよなんだよ全く...
「ごほんっ」
「す、すいません。取り乱しまして。」
「な、なるほど。」
「ちなみにですが、飛騨の国の隣の国はなんていう国ですか?」
「そーだなぁ。四方に国はあるが、山に囲まれておるでなぁ」
「普通に行き来できるのは、南東の愛知国かな?」
「あ、愛知国…ですか…」
いや、もう愛知県でいいだろ。
めんどくせぇよ。
「北は富山国にでれるが道が厳しいのぅ」
「なるほど」
うむ。完全に日本の岐阜県っぽい。
富山国と、愛知国で来てるのに、ここだけ飛騨の国ってのが引っかかるが、大した意味はないだろう。
「じゃぁ、飛騨の国の西には滋賀国、東には静岡国であってます?」
僕はだいたいの日本地図を頭に浮かべながら聞いてみる。
あくまで、だいたいだ。細かい所はわからない。
「ほよぅ?」
「おめぇさん随分物知りじゃのう」
「行ったことあるんか?」
バーラムさんが目を丸くしている。
「お母さん。ちょっと違うわよっ」
「東は『長野国』よ」
「山ばかりの」
「山ばかりの長野国を越えて、もうちょっと南に行ったところが静岡国なの」
「あなたが飲んだお茶、あれは静岡国からの輸入品なのよ」
おおーーー。
すごい。
僕の知ってる日本が、どんどん出てくる。
特産品とかも、そのままかぁ。
楽しいな。
「それでそれで?」
僕は前のめりになって聞いた。
「滋賀国は、まぁ合ってるわね。」
「あそこは大きい湖があって、水が豊富で豊かな国よ。」
「でも隣の京都帝国の従属国なのよ。」
「おおーー!おおーー!」
ついに出ました、京都帝国!!
いや、でもその前に。
滋賀は京都に従属してるの?
それ、大丈夫なんですかね。。。
いや、ほら、ここは半分異世界とは言っても…その…
んー、まぁとりあえず滋賀のことはいいや!
「京都帝国って、京都は何か特別なんですか?」
「そうだな。特別だな」
「この辺りじゃ一番格上の国だぁ」
「京都帝国には皇帝がおられる」
「千年以上も同じ血筋が続いている、生ける神様のようなお方だ」
おーーー。やっぱりそういう感じになっているのか。
「それに、あそこには凄腕の職人さんがたくさんいてな」
「最高級のものは大体京都帝国からの輸入品だ」
「中でも、金粉で絵を描く「マキエ」っていう技術やら、割れた器を金で直す「キンツギ」
って技術が凄いらしい」
「へーーーー!!」
「ナオえもん、おめぇ目がキラッキラじゃのぅ」
そりゃ目もキラキラするさ。
そのへんの単語、僕には特効だ。
決めた。
落ち着いたら京都帝国にいくぞ!
「そうだ。この飛騨の国はどんな国なんですか?」
僕の知識では、岐阜県、飛騨、ときいてパッと何かが出てこない。
「そらぁ、ナオえもん、飛騨といやぁ、山じゃ、山!」
バーラムさんは、いかにも当然だろうという顔で言った。
「山じゃ。山ばっかりじゃ」
「ちょっと外れりゃ山。まっすぐ行っても山。振り向いても山じゃ」
「おぉ……」
なにその、全方位山システム。
「もちろん冬は厳しいぞぉ」
モーサムさんがビールをあおりながら言う。
「雪は積もるし、道は閉ざされるし、慣れんやつはすぐへこたれる」
「ナオえもんみたいな薄っぺらいのは、一晩外におったら朝にはカチコチじゃぞ」
「今それ、わりとシャレになってないんですけど」
一同が少し笑った。
「でもねぇ、悪いことばっかりじゃないのよ」
ドーラさんが皿を寄せながら言う。
「職人さんが多いの!」
「職人さん?」
「特に、木工職人さんや、漆塗り職人さんが多いわね。」
「飛騨はいい木が育つのよ」
「家具なんかは、丈夫で長く使えるって好評なんだから」
「まぁ、京都帝国みたいに『最高級』って感じじゃねぇがなっ」
「ハハハハッ」
モーサムさんが派手に笑った。
飛騨、けっこういいな。
地味だけど、ちゃんと暮らしがあって、ちゃんと手仕事がある。
……でも。
やっぱり気になるのは、国のことだ。
「そうだ」
「それで、その、飛騨の国ってことですが、王様がいるんですよね? 」
まずはやっぱりこの国の王都に行くのがセオリーだよね。
「あぁ、王様は大日岳っていう王都にいるぞ」
「飛騨の国の王様に興味があるのかい?」
「それなら余計、明日この村の村長にあった方がええな」
なんだろう。
今、モーサムさんが少し不敵に笑った気がする。
「そうでしたね。村長さんに挨拶ですよね」
「楽しみです」
「ほぅ。楽しみと来たか」
「見かけによらず、肝っ玉すわっとるのぅ」
あれ?
モーサムさん、今また意味ありげに笑いませんでした?
「ほんとに肝が据わっておるの。いっひっひ」
バーラムさんまでどうしちゃったんですか?
「こぉら。そんなに不安がらせてどうするのよ」
ドーラさん。
教えてください。
何があるんですか?
「お、外が騒がしくなったのうぅ」
バーラムさんが、窓の方を見ていった。
「どうやら、みんなに送ってもらってきたようだな」
「わしが迎えいく手間が省けたわい」
モーサムさんはどこかぎこちない。
「ほんとは向かいに行きたかったのよ」
ドーラさんが僕の耳元で、いたずらっぽく囁いた。
「なるほど」
ほんとに娘さん好きだな。
いよいよ、変なことはしないでおこう。
「ビアンカは先にお風呂かのぅ」
「!!!!!!!!!!!!!」
「あの、バーラムさん?」
「い、い、い、今、なんと言いました?」
僕の心臓が猛スピードで打ち始める!!
聞きまちがいか?聞きまちがいか?聞きまちがいか???
「なんじゃ?ビアンカかえ?」
その名前が、頭の中でどくんと跳ねた。
さっきまでぼんやり思い描いていた娘さんの像が、一気に一人の顔へ変わる。
僕の全身は、一瞬で硬直した。
第9話 完
ご覧いただきありがとうございました。
名前、出ちゃいましたね。「ビアンカ」。
異世界、金髪(予定)、そしてビアンカ。
この三拍子が揃って、動揺しない男子がこの世にいるでしょうか? いや、いない(反語)。
第9話:ナオえもんの精神・状況リザルト
地理のデジャヴ感: 95(もうめんどくさいレベル)
京都帝国への期待値: 90 (次の行先決定?)
従属の滋賀国への配慮:40 (ま、とりあえずいいやレベル)
村長の不敵な笑みへの不安: 75
ビアンカ衝撃波: 貫通した模様




