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第7話 空席ひとつ

第6話では「自分の顔が認知できない」という不気味な事実に直面した主人公ですが……。


第7話は、待望の「ご褒美回」です。

冷たいビール、温かい家庭料理、そして「とびきり美人の娘」という王道フラグ。


全裸で放り出された絶望を、一瞬で上書きする彼の「現金なメンタル」をぜひ査定してやってください。

第7話 空席ひとつ


戻っていたモーサムさんが、すでに椅子に座ってビールらしきものを飲んでいる。


「どうだい? 君も一杯飲むかい?」

「ここに座りな」


正面の席へうながされ、そのまま腰を下ろすと、モーサムさんはそのビールらしきものを取り出してくれた。


「はい。では、いただきます」

グラスに注いでもらう。

見た目はまんまビールだ。


僕は持ち上げたグラスを見て、思わず目を丸くした。


冷たい。


そういえばこの世界には電気がないようだった。 明かりは火から取っている感じだ。

電気もないのに、どうやって冷やしてるんだろう。


「さあ、飲んだ飲んだ!」


僕は慎重に口をつけた。


うまい!!

ビールだぁぁ!!!!

これはビールじゃないですかーーー!!


「なんだ。いける口じゃねーか。ほら、もう一杯」

 モーサムさんが、もう次の一杯を注いでくれている。


「あの、これ、なんて名前の飲み物なんですか?」

 そう聞きながらも、僕はごくごくと飲み干した。


「これの名前もわかんねーのか?」

「大丈夫かね全く…」

「これはビールってやつだ」


「び、ビールですか…ビールなんですね……」

 まぁ、お茶もあったし、ビールもあっても不思議じゃないか!

 基本的な物の名前が共通なのかな?

 それならだいぶん対応しやすい世界だな。


「おいしい……! おいしいです、はい……!」

 自分でもわからないまま、僕は少し涙ぐんでいた。


「ハハハ。まったく変なやつだ」

「もう一杯いくかい?」


「はい!」


僕がビールを注いでもらっているうちに、バーラムさんとドーラさんも席に着いた。


「さぁ、じゃあ始めようかしらね」


注いでもらったビールを、また勢いよくいきたいところだが、僕は踏みとどまった。

今から、いろいろこの世界のことを聞かなきゃならない。

まだ酔っぱらってしまうわけにはいかなかった。


モーサムさんがみんなのコップにビールを注ぎ、全員に行き渡った。

バーラムさんもドーラさんも、どうやらいける口らしい。


「本当はもう一人、娘がいるのよ」

「でも今日はちょっと遅くなるみたい」

 ドーラさんは少し残念そうに言った。


「そうなのか。またグレイブたちと何かやってんのか?」

 モーサムさんは少し不機嫌そうに言う。

 

「まぁそうね。またみんなで何やかんやしてるんでしょ」


「そんなに精出してどうしようってんだ」

「旅に出るにはまだ早い!」


「またー。その話は今はいいじゃない」

 ドーラさんは眉をひそめながら言った。


「そのグレイブって人は、娘さんの友達なんですか?」


「友達っていうか、まぁ、仲間って感じかしら」

「村の若い子らで道場に集まって、剣や弓や。みんな頑張ってるわ」

「グレイブはその中でも一番優等生!」

「男前なのよー」

 

ドーラさんは、とてもグレイブを気に入っているような雰囲気だ。


それにしても、優等生で男前ってのはどこにでもいるもんだな。

優等生だから、その自信が男前を作っていくのか。

それとも男前の自信があるから、優等生に育っていくのか…

どちらにせよ、うらやましい話だ。


「グレイブなんぞは、まだまだひよっこだ」

「浮つくには10年早い!」


「あーなーたっ」

 ドーラさんはあきれ気味だ。


「まぁいい」

「あとで迎えにいかなくちゃな」


「大丈夫よ。たぶんグレイブに送ってもらうんでしょうから」


「そうなのか」

 モーサムさんは、さっきよりさらに不機嫌になったようだ。


「娘さんおいくつくらいなんですか?」

 僕は場を和めようと、何気なく尋ねてみた。


「17だ。気立てのいい、とびきり美人だぞ!!」

「おめぇ、変な気起こすなよ」


おおっ。

目が、目がマジだ。


「あ、はい。何もしませんよ」

 少し笑顔でさわやかに答えてから、僕は気づいた。


違う。

ここは、少し怖がるべきシーンだ。

目がマジのお父さんなんだぞ。

もっと弱々しく、「あ、はい、もちろんです。気を付けます。」

くらいでないとダメなんじゃないか?

少なくとも、さわやか笑顔はダメだ。


「もう。何言ってんのよ」

 ドーラさんが、助け船を出してくれた。


娘さんがいるのか。

それだけでも、少し華やかな気分になったけど、とびきり美人ときた。

気立てもいいらしい。


まぁ、さっきから出てくるグレイブって人が彼氏なのかな?

僕には関係なさそうだけど、早く見てみたいものだ。


で、でも。

でもですよ?

フラグの可能性もございませんか?


だってほら、偶然拾われたその家に、年頃の美人の娘さん。

あるよね?

なくはないよね?

パターンっちゃパターンですもんね。

むしろ全然あるよね!


いやいや、待て待て。

早まるな、僕。


この異世界はそんなに甘くない。

世の常のパターンで来ない可能性の方が高い。


お茶や、ビールはあったが、全裸で放り出されたんだ。

ここで浮かれてはいけない。

上げておいて叩き落とされた日には、目も当てられない。


落ち着け。

落ち着くのだ。

気を引き締めねばいかんのだ。


息を大きく吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー…

げへへ♪。。。

僕:初期フラグ期待度70 気持ち引き締め度85 深呼吸後フラグ期待度95

だめだ。引き締まらぬ。引き締まりませんぞ!!

げへへへ♪…


「おめぇ、なんか危ない顔してるけどやっぱり変なこと考えてるだろ?」

 モーサムさんが再び身を乗り出してくる。


ヤバイ。

顔に出てたか。


さすがに父親の前で、娘の話題でげへへはマズイ!


「いえ、ぜんぜん。ほんとに全然ご心配なく。」

「僕は、あの、今は自分のことで精いっぱいですので」


僕は少し縮こまり、半べそ気味で言った。

これでどうだろう?

そんなに大根役者ではなかったと思うけど......


「あなた!!!!」

 ドーラさんの声が飛ぶ。


「あ、いや、なんでもないよ、わしは……」

「まぁ、変な気を起こさんならそれでええ」


どうやら、僕はちゃんと怖がれたようだ。

怖い相手にはちゃんと怖がる。

緊張する場面ではちゃんと緊張する。

こういうのは大事だ。

人は意外と、そういうところを見ているものなのだから。


それにしても、モーサムさんはドーラさんに弱いな。

昔からなのだろう。

今に始まった力関係ではなさそうだ。


「では、改めて乾杯ねっ」

 ドーラさんの一言で夕食が始まった。


テーブルには大皿のサラダと鶏肉料理、それに湯気の立つスープが並んでいた。

どうやら大皿から各自で取り分けるらしい。

おいしそうだ。


「ほれ、若いもんは遠慮しないで取りな」


「は、はい」


僕がそろそろと皿に手を伸ばすと、モーサムさんは大きな肉を遠慮なく二つ取っていた。

バーラムさんは慣れた手つきでサラダをよそい、ドーラさんはみんなの前にスープを配っていく。


テーブルには空いている席がひとつあった。

娘さんの席だ。

そう思うと、その不在が少しだけ気になった。


第7話 完


あとがき

ご覧いただきありがとうございます。

何やら「服を着た不気味な少年」君が希望を持てた第7話でした。


■「服を着た不気味な少年」君の精神値推移報告書

・初期値(お風呂上り):10

・ビール獲得:+30

・とびきり娘情報:+50

・娘の不在(空席):-5


【現在値:85 】(前回比 +75 爆増)

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