第40話 敵の援軍
現れた敵は、輸送隊の行く手を阻むように、前方から半円状に広がっていく。
そして、さらに、こちらを包み込むように、じりじりと展開していく。
それに合わせて、輸送隊も動く。
先頭の馬車の前に、モーサムさん。
その左右に、戦士系の護衛が一人ずつ並ぶ。
さらにその外側へ、剣士系の護衛さんたちが広がった。
操縦士さんたちも、馬車のそばで手綱を握りながら、いつでも動けるように構えている。
馬車を中心に守る輸送隊。
その前を塞ぐように広がる敵。
敵はざっと12人。
それに対し、こちらは全部で9人。
前列で向かい合っている者が5名。操縦士さんたち3人は、まだそれぞれの馬車で構えている。
そして、後方からの奇襲を警戒している剣士さん1人。
ここから戦闘が始まれば、後ろからさっきの2人が加わる可能性が高い。
そうなると、14人対9人。
僕は数には入らない。
こちらは少数かつ、前後を挟まれた状態かつ、守る物資がある。
それぞれの実力はわからないが、何をどう考えても不利だ。
そして実戦では、それぞれがどう動くのか、僕にはまるでわからない。それでも、できることは何だろう。頭の中で、選択肢を並べてみる。
1.ただひたすら隠れている。
みんなの邪魔になる可能性は低い。
ただし、状況は何も変わらない。
2.前衛に加わる。
確実に邪魔になりそうだ。
却下。
3.助けを呼びに行く。
どこに?
前は敵だらけだし、後ろにもたぶん敵がいる。
これも無理だ。
ふぅ。困ったな。
初めての実戦にもかかわらず、僕には自分でも驚くほど焦りがない。
では、残る選択肢は何だ。考える。
4.話す。
誰に?
何を?
理想は、僕が前に出て、敵を説得して戦闘そのものを回避することだ。
……が、さすがに無理だろう。すでに、話し合いでどうにかなる空気ではないことくらい、僕にだってわかる。
なら、前ではない。
後ろだ。
先ほど通り過ぎた2人。
あの2人の参戦のタイミングを遅らせることができれば、少しでも戦況はましになるだろう。
うむ。
今、僕のやるべきことはそれだ。
誰だ、僕に軍師適性がないって言ったのは。 僕、これ100%開花してるでしょ。
では、まず、何をすべきか……。
僕は、後ろを警戒している剣士さんに近寄り、作戦を話した。
協力してくれ、という話ではない。
ただ、今から僕は後ろの2人の対応に向かいます、という報告だ。
剣士さんは驚きつつも、顔をしかめて考えている。
「お前を守ることは、我々の任務には入っていない。だから行くのは構わんが、危険だぞ」
「斬り合いになっても助けは来ない。すべて自分で切り抜ける必要があるぞ?」
「わかってます。失敗すれば、斬られますね……」
「でも、運が良ければ逃げられます」
「任務に失敗した時でも、逃げてもいいですか?」
「ふっ。構わん」
「逃げろ!」
剣士さんは、そこで少しだけ口元をゆるめた。
「俺の名は、バリュー」
「無事戻ってきたときは、俺がみんなに説明してやる」
「ははっ。ありがとうございます」
僕は一度だけ、深く息を吐いた。
「では、行ってきます」
僕は覚悟を決めて、歩き出した。
その背中に、剣士さんの声が届いた。
「ナオえもん、だったな」
「お前のそれも、立派な戦いだ」
僕は振り向かず、片手を上げた。
そして、親指を立て、そのまま歩いていった。
たぶん今、僕はかなりかっこいい。
今、この戦場から撤退しているくせに、かっこいい。
ここまでは完璧だ。
気のせいか、バリューさんとは別に熱い視線を感じる。
できれば、この勇姿は1人でも多くの人に見ていただきたい。
【ナオえもん 行動の可否】
・戦場を離脱し、敵援軍への単独対応:OK
(具体的に何をやれとは言われていない)
・任務失敗時の撤退:OK
(任務の成否に関わらずという最高の条件を確保)
・帰還後の地位:確保
(ただし、後列剣士さんの生存が必須)
うさドラは、空気を察してか、僕の見せどころを邪魔しないよう、遠巻きにパタパタ飛んできて、左肩に降りた。今日は、やけにできるトカゲだ。
さて、街道は左になだらかにカーブしてきたので、引き返す僕には右にカーブしていくことになる。振り返ると、カーブのせいで馬車は見えなくなった。距離にはして200mくらい来ただろうか。
ここで僕は、革の防具一式を脱ぐことにした。これを着ていても、戦闘になれば僕が勝てないことには変わりはない。それより、輸送隊と関係のない人と思わせた方がいいだろう。脱いだ防具を、最初にもらった袋へ戻して肩に背負う。そして、木の棒を杖代わりにして歩き出した。
我ながら完全に無害な旅人だ。刺客にも戦闘員にも見えない。なぜなら僕は、本当にどちらでもないからだ。目が利く敵ほど騙されてくれるだろう。
なーんて思っていると、いた!!
いたいた!
ほんとにいた!!
でも、さっきの二人とは違う。
若い。20代に見える。
変装していたのか?
着ているものも、さっきの旅人姿ではない。軽めの防具を身につけている。
ただ、まだ武器は手にしていない。ここで合図を待っているようだ。
こちらにはまだ気づいていない。
僕はいったん、森に駆け込んだ。そして、そのまま森の中を進んだ。
彼らから10mくらいのところまで来た時、街道に躍り出た。
さぁて、見せどころだ!
このナオえもんの戦いを、しかと見届けよ!!
【ナオえもん スキル 偽パニック・中】発動。
「た、た、助かったぁ!!」
「あなたたち、村の警備の方ですか? そうですよね??」
僕は、すがるように彼らに駆け寄った。
「な、なんだお前、近寄るな!」
【ナオえもん スキル 偽パニック・強】
「そんな! そんなこと言わないで助けてください!」
「ここはもう、ひるがの村の近くだ! あなたたち、その格好は村の警備の人なんでしょう!! そうなんでしょう!!!」
「僕を見捨てないでくださいよーーー!!!」
僕は男の方にすり寄り、手を取る。そして半泣きになりながら、訴えかける。
「てめぇ、離れやがれっ! 叩き切るぞ!!」
【ナオえもん スキル 偽パニック・凶】
「ひぃーーーーっ!! ひどい! 僕は村の住人ですよ!!! 村の警備さんが村人を見捨てるなんて、ひどすぎるーーー!!」
僕は今度は女性の方にすがり寄る。
「あなたは、あなたは違いますよね!助けてくれますよね!話だけでも聞いてくれますよね!!!」
「ちょ、何よ。ホントに切るわよ! 触らないで! 何が、何があったのよ」
よし! きた!
「あっちで、あっちで凄いことになってて。僕は通りすがっただけなのに殺されそうになったんですよ!」
僕は来た道を指した。
「ふぅ、ふぅ」
「いや、すごい殺気立ってるんですよ」
「囲まれていたのは10人くらいかな? で、囲んでた方は20人はいましたよ」
「しかも、馬車からまだ人が出てきてましたから、30人くらいはいるんじゃないですかね」
「え? さ、30人?? 馬車から人が???」
「で、その12人はやられちゃったの?」
……12人?
僕は10人くらいって言ってるのに……
自分から人数を漏らしてくれた。これで、この二人が前方の連中の仲間なのは確定だ。
「まだ、やられてはいなかったですけど、時間の問題じゃないですか。囲む側は、見たところ正規軍って感じでしたし」
「せ、正規軍が乗ってたの??」
「やっぱりヤバい案件だったんだよ」
二人は一瞬、顔を見合わせた。どうやら、依頼主を最初から完全には信用していなかったらしい。女の声が、明らかに揺れている。男の方は、じっと考え込んでいた。
「なぁ、兄さん。その正規軍ってのは、どんな格好だった?」
「え?……どんな?」
「そうですね……」
僕は、頭をフル回転させた。
正規軍、正規軍、正規軍……。
あ、あれだ!
村長さんのところで見た、衛兵だ。僕は、その姿をそのまま伝えた。
「間違いないな。飛騨の軍だ」
「ちっ、あのおやじ。何が『お前らの腕なら問題ない』だ」
「正規軍相手に、こんな装備でやり合ってたまるかよ!」
「しかも、やつらの連携した動きは、俺たちと相性が悪い」
よ、よかった。
合ってたみたいだ。
ありがとう村長様っ!
「でも正規軍なのにひどいんですよ」
「見た者は、不憫だが死んでもらうとか言って、いきなり襲い掛かってきたんです」
「僕の連れは、槍のひと突きで……」
「あと、周りに目撃者がいないか、何人かが探し回ってました」
「僕は、森の中に逃げて、何とか振り切って街道に出てきたんです」
「早くしないと、ここまで来るかも!!!」
「そうだな。ここも危ねぇな」
「お前のお連れさんも、災難だったな。奴らは任務となると情け容赦がねぇ」
男は、僕を少しだけ見た。
たぶん、泣きそうな顔が効いている。
「ほら、俺たちからのお悔やみだ」
彼は僕の方に、何かを指で弾いた。
「じゃあな、お前もここから早く逃げな」
そう言って、2人は森の中へ消えていった。
僕の手元には、金貨が一枚残っていた。
……えっと、大成功??
ですよね……。
時間稼ぎどころか、別動隊を壊滅させたと言っていいのではないだろうか。
実際は逃げてもらっただけだけど。
でも、戦場から消えた。
なら、実質壊滅である。
誰も見てないし。
それにしても、意外と気の悪い奴らじゃなかったな。だまされて雇われたような感じだったし。
ま、どっちにしろ、野盗や盗賊なんてものは、利害があるから組んでるだけで、負け戦に付き合う義理も何もないのが普通だ。不利だと知れば、そりゃ逃げるよね。
よし! 任務完了!!
急いで前線に、後ろは問題ないと伝えに行かないと!!
僕は金貨をポケットに入れ、走り出した。
第40話 完
【ナオえもん 交渉戦リザルト】
・偽パニック完成度:100
(3段階の変則をマスター。少し危なかったところも勢いで押し通す)
・任務遂行度:120
(時間稼ぎの予定が、敵別動隊の撤退まで達成)
・戦果報告:別動隊壊滅
(実際は逃亡。報告書には書き方というものがある)
・報酬:金貨1枚
(なぜか敵からゲット。もらったものは僕のもの)
・備考:軍師適性の再調査を申請予定
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