第41話 勝敗の鍵は士気
僕は、走り出してすぐに立ち止まった。
脱いだ革の防具セットは、再装備した方がいいだろうか。
本物の槍や剣が飛び交う中、少し当たっただけで即重傷では、戻っても意味が無いかもしれない。
僕は装備の入った袋を開けると、慌てて身につけ始めた。
焦っているせいか、朝着た時のようにすんなりいかない。
留め具が引っかかったり、通す穴を間違えたり。
何とかすべて装備し、走り出す。
重い。
革なので、防具の中ではおそらく軽い方だと思うが、それでも重い。馬車にたどり着いたときにはヘトヘトになってそうだ。
騎馬隊の重要性が、少しわかった気がした。
なんとか到着すると、乱戦の最中ではなかった。お互いが、じりじりとにらみ合っている。
敵方に倒れている人が2人見える。
どうやら僕は、戦闘の隙間に駆け込んできたようだ。
こちらは、前衛の剣士さんがひとり、片手を負傷している。
僕を見送ったバリューさんも戦ったようで、怪我はなさそうだが、見た目がいろいろ乱れている。
僕たちは目が合った。
僕は親指を立てて成功したと伝えた。
バリューさんは驚いた顔をすると、敵へ構えたまま、僕のすぐ近くまで寄ってきた。
「で、どれくらいだ?」
「あと、どれくらいで、来る?」
「いえ、あの2人は撤退しました」
「もう来ません」
「な、なにっ!!!」
「本当かっっ!!!」
「はい」
「……」
「はは。はははは。」
「勝敗は決まったな」
「ナオえもん、今回の一番手柄はお前かもしれん」
「え?」
「ここにいろ」
そう言って、、バリューさんはモーサムさんの方へ向かおうとした。
「待って」
「あの2人は変装していました」
「実際は20代の男女です」
「…なるほど……」
「お前、戦場は初めてだろう?」
「なのに先が見えているな」
そう言って、バリューさんは剣を構えたまま、味方の間を縫ってモーサムさんのもとへ移動していった。
バリューさんはモーサムさんの後ろまで行くと、大きな声で言った。
「報告!」
するとモーサムさんが、バリューさんのところまでじりじり後退する。
そして、何か耳打ちされると、一呼吸おいて大きな声で笑い始めた。
「ガハハハッ!」
「お前らの別動隊はやられたぞーーっ!!」
「わしらの勝ちじゃぁぁーーーーっっ!!」
「おおおーーーーっ!」
味方の声が上がる。
「なにっっ!!!」
「騙されるな!!」
「流言だ!!」
敵のリーダーらしき男が叫ぶ。
「かわいそうに」
「変装しておったが、まだ若い二十代の男女だったようじゃないか」
「ぐっ」
敵のリーダーらしき男の顔が、一瞬だけこわばった。
それを見た後ろの野盗たちが、ざわつき始める。
すると後ろにいた者から、じりじりと下がり始めた。
「みなーーっっ!!」
「わしらの勝ちじゃぁーーーーっ!!」
「殲滅するぞーーーーっっっ!!!」
「「おおおおおおーーーーっ!!」」
モーサムさんの声は、味方には勝利宣言として、敵には最後通告として響いた。
味方が雄叫びを上げ、一斉に前へ出る。
戦況は、人数的にまだ敵の方が有利なはずだった。だが、一人の野盗が背を向けて走り出すと、それをきっかけに、敵の陣形は一気に崩れていった。
野盗は、不利になると弱い。
一般常識から外れた感覚を持つものも多いだろう。
組織として束ねるだけでも大変そうだ。
忠誠心、義理、守るもの、そういった命を懸けるべきものを持っていない。
なので、利益が無さそうになると逃げる。そこで戦う理由がないからだ。
今回の崩れ方を見ても、それが分かった。
だが、リーダー格の男。
僕を「すぐれた偵察役」と褒めてくれた男と、あと3人。
その4人は、倒れていた2人を連れて引こうとしている。
意外と強い。粘りもある。
あの4人は、見どころがありそうだ。
モーサムさんは無理をしてこちらに犠牲者を出す気はないようだ。
ほどほどに追撃している感じだ。
どうやら勝った。
勝敗を分けたのは「士気」。
敵の士気を下げ、味方の士気を上げる。
それができれば、不利な状況もひっくり返せる。
とても勉強になった。
今回のモーサムさんのそれは、タイミング、声量、内容と、そのすべてが素晴らしかったと思う。
大将は、こうでなくちゃならない。
僕には向いていない。
魔王退治の際は、僕はできれば後ろの方で頑張りたい。
うさドラが左肩に降りてきて、シギャシギャ鳴きながら、僕の顔を押してくる。
現金なやつめ。
わかっている。
お前が敵を教えてくれたところから始まったんだ。おやつは極上のものを用意してやるぞ!
ほれ、この金貨が保証しよう。
僕はポケットの金貨を取り出し、手のひらに置いてそれを見せた。
うさドラは理解したのかどうかはわからないが、軽くシギャッと鳴いて、馬車の幌の上に戻っていった。
この一見『金貨』に見えるもの。
ホントに価値があればいいんだけど。
なにせ、野盗がくれたものだからな……。
そのあと、僕たちは全員の怪我の具合、荷駄の無事などを確認し、出発した。
油断大敵。
今回の戦闘の話は、王都に着いてからだ。
だが、怪我の確認の際、モーサムさんは僕に「よくやった」と短く声をかけてくれた。
バリューさんは、目を合わせて、頷いてくれた。
僕たちは気を引き締め直して、残りの道中を進んだ。
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ナオくん成長記
〇〇年△月□□日
なおくんの初陣
・朝早くからモーサム邸に出勤。
(携帯食を持参していない模様。いざという時は、この才子の手作り弁当を支給する必要有)
・敵と遭遇。敵の奇襲を阻止。
(一瞬の判断は見事。味方の全滅を防いだと言っても過言ではない)
・戦場離脱。
(振り向きもせず、片手を上げて戦場を去る。その姿は私の勇者様)
・別動隊を壊滅させる。
(その頭脳派プレイはまさに神業。金貨を献上した敵は一時釈放。偽金貨だった場合は、必ず後悔させてあげる)
・前線に復帰。
(すでに人の何倍もの戦果を挙げているにも関わらず戦線復帰。疲労のケアが必要)
総評:
完全勝利。
この霧隠才子の武功評価では、戦功第1位から第5位までをナオくんが独占。
異論者には、死を。
第41話 完
【ナオえもん 初陣学習度】
〇騎馬隊について:70
(装備をつけては走れない。馬に乗っての移動力は相当な武器になる)
〇士気について:95
(士気の有無で、勝敗はほぼ決まる気がする)
〇貢献度に対する褒賞について:60
(うさドラの圧がすごい)
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