第39話 魔法
それから僕は、仕事と住む場所がないか、モーサムさんたちに相談した。
みんなは、まだここにいればいいと言ってくれた。
本当にありがたい。でも、いつまでも世話になりっぱなしというわけにはいかない。僕にも、一応、自立心というか、遠慮というものがある。
とはいえ、住むところが本当にないのも事実だ。
そこで僕は、倉庫に眠っていたテントを借り、道場の少し先にある小川のほとりで暮らすことになった。
村長さんへはモーサムさんが話を通しておいてくれるらしい。
小川のほとり。
テント暮らし。
手乗りドラゴン1匹付き。
夜になると、小川の音が思ったより大きかった。
テントの布一枚の向こうに、知らない世界の夜がある。
ちょっと冒険者っぽくていいじゃないか。
ただし、地面は硬い。
冒険者の現実、けっこう背中にくる。
そして仕事。
とりあえずは『何でも屋』から始めることにした。これが軌道に乗ることはないと思うが、動いていれば何かのきっかけになるだろう。
最初の仕事は、モーサムさんの手伝いだった。
どうやら、5日後に飛騨国の城下町、大日ヶ岳まで何かを輸送するらしい。
城下町に行ける。その言葉だけで、正直かなり楽しみだった。
大日ヶ岳はわりと近くで、歩いて2、3時間で着くそうだ。本来なら日帰りの用事らしいが、向こうで色々あるらしく、今回は2泊3日の予定らしい。
日当は12,000銭。単位が円と違うだけで、もう、ほとんど同じ感覚だ。わかりやすくていい! 別に今さら驚かないし。
ひとつ問題があるとすれば、ビアンカもついていくと言い出したことだ。
モーサムさんはダメだと説得したらしいが、ビアンカは頑として聞かなかったそうだ。
こんなビアンカは初めてだ、とモーサムさんは少し困ったように言っていた。
この辺りには魔物は出ないが、狼や野犬、熊などは出ることがあるらしい。あとは、滅多にないが野盗も出る。ビアンカなら力を抑えていても、その辺の野盗よりは強いだろう。
仕事までの5日間、僕は開業したばかりの『何でも屋』に精を出した。看板もない状態だけど、まずは挨拶回りをしっかり頑張った。そのおかげで、起業のお祝いの意味もあるのだろうが、そこそこお仕事をいただけた。
掃除の手伝い。
壁の修理の手伝い。
ちょっとした荷物運び。
稼ぎは1回3,000銭くらい。思ったより良い。
食べ物はみんなにもらえるので、買う必要があるのはお肉くらいだ。
なので、意外と生活に困ることはなかった。
僕的に一番困るのはお風呂だ。この村には銭湯はない。テント横の小川の水はきれいだが、川は川だ。毎日川で体を洗っていると川のニオイが染みつきそうだ。
村の各家には井戸水が引かれているが、僕の家にはない。
近くの噴水は井戸水で無料で使える。なのでそこから水汲みするしかない。
幸い、風呂釜は手に入った。掃除のお手伝いをした家で、ドラム缶みたいなものをもらえたのだ。あとは根性の問題だろう。
モーサムさんの家にお風呂を借りに行くのも気が引けるし。
まったく。
異世界なら、水くらい魔法でパッと出せればいいのに。そういえば、この世界にも魔法はあるらしい。
水、火、風。
その他にも、いろいろな属性があるそうだ。なら使えばいいじゃないか、と思う。思うのだが、どうやらそう簡単な話ではないらしい。魔法を使うには、その属性の妖精の力を借りる必要があるようなのだ。
そして妖精は、人の気配を嫌う。それはもう、かなり嫌うらしい。そのため、人がほとんど入り込まないような場所でなければ、魔法はまともに使えないそうだ。
つまり、村の中で水魔法を使って風呂に入る、なんてことはできない。
なんでだ。
そこはちょっとくらい人懐っこい妖精がいてもいいじゃないか。実はうさドラが、その妖精と仲良しだったりしないかな……。ないか。
もちろん、戦争で魔法を使うことも難しいらしい。軍隊なんて、人の気配の塊だ。妖精からすれば、近づきたくない騒音袋みたいなものなのだろう。
そのため魔法は、今ではあまり使われなくなっている。普段人が来ないような場所で、少人数の一行が使うもの。いわゆる冒険者専用の技術に近いらしい。
学ぶ者も減っており、今では昔ほど身近な技術ではなくなっている。イメージとしては、日本の伝統芸能みたいなものらしい。
京都帝国には、今でもしっかりと魔法を伝える各属性の家元があるらしい。
水の家元。
火の家元。
風の家元。
雷の家元。
なんだか、茶道か華道みたいだ。魔法にも家元制度があるのか。この世界、異世界なのに、日本制度っぽさが、かなりしぶとい。
僕は一応、魔王を倒しに行く予定である。となると、魔法はたぶん必須だ。魔力は、2だけど。2。数字が小さすぎて、逆にかわいい。
でも、ちょっと楽しみだ。
さらに空いた時間には、道場に通わせてもらった。僕は苦学生ということで、好きな時間に来て、帰っていいと許可をもらった。鉄心先生はいい人だ。不意に扉は蹴破るけど、いい人だ。
ただもちろん月謝は払う。内緒でみんなの半額、月に4000銭におまけしてもらった。ありがたい。
ビアンカにはいろいろな動きの型を見せてもらったが、それを道場で試すことは禁止されてしまった。どうやら、上達の速度が早すぎるので怪しまれるとのことだ。
とても残念。みんなに「あいつ、できる!」って思われたい欲が少しあるのだが……。
ビアンカにそう思われてるだけで大満足なのだが、人は貪欲なものだ。
ちなみにビアンカは何だかんだ1日1回は顔を出してくれる。うれしい。ドキメモ作戦は、順調みたいだ。
そして、輸送の仕事の当日、僕は朝からモーサムさんのところへ出勤した。
第39話 完
【ナオえもん:ドラム缶風呂を夢見る「何でも屋」ステータス】
〇冒険者の現実(背中のダメージ):70
(小川のせせらぎは風流だけど、地面の硬さは容赦ない)
〇日当12,000銭の親しみやすさ:100
(円換算しなくていい異世界親切設計に大満足)
〇うさドラの妖精交友関係(期待値):10
(そのうち「シギャッ♪(妖精を召喚)」で妖精を呼んでくれることに期待)
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